25窓から差し込む柔らかな日差しが、店内に満ち楽しそうな話し声、子供たちの笑い声、パンケーキを焼く香ばしい匂い。それら全てが心地よい
「好きな時に、好きなだけ飲み物を選んで注げるようにするの。一定の料金を払えば、色々な種類のジュースや飲み物が好きなだけ飲めるという」
アランは腕を組み、真剣な顔で考え始めた。
「なるほど……うん。それなら、従業員が一杯ずつ飲み物を運ぶ手間が省けるし、好きな時に好きな飲み物を選べる。素晴らしいアイデアだ」
再び家族会議を開き。ジュース飲み放題の実現に向けて、具体的な方法を話し合う。忙しいけど楽しい。
「問題なのはどうやって飲み物を常に冷たく保ち、大量に提供するかよね。難しいことよねぇ」
すかさず、娘がすぐにアイデアを出す。アイデアの宝庫だ。
「作った冷気の魔石を大型にして、飲み物を保存する容器に組み込めばいいんじゃない?そうすれば、いつでもひんやりとした飲み物が提供できるかも!」
アランも納得して力強く頷く。凄い。
「その通りだな。注ぐ装置も必要だ。自分で簡単に注げるような、特別な装置を設計してみようじゃないか」
頭の中で、飲み物を効率的に供給する装置の設計図を描いているようで職人としての技術は、どんな困難も乗り越えることができる。現代の力も凄いけれど。
「どんな種類の飲み物を提供する?陽光の実のジュースはもちろん必須。それに、国の特産である果物を使ったジュース、温かいお茶も用意できたら皆喜ぶ」
提供する飲み物の種類について出し合う。
「泡立つ実。炭酸を生み出す植物を使って、ソーダも作ってみたい! シュワシュワとした飲み物もきっと人気が出る」
ルミナの発想に感心する。創造性は本当に尽きることがなさそうだ。試作の日々がまた始まる。
ジュース飲み放題の実現には、パンケーキ食べ放題以上に多くの課題がある。大型の冷気装置の開発。
自動で飲み物を注ぐ装置の設計。様々な飲み物の安定供給と品質管理。みんなで課題に立ち向かう。
夫は工房にこもり、日夜装置の開発に没頭。ルミナは様々な果物やハーブを試して新作ジュースのレシピ、最適な配合を見つけ出すために何度も試作を繰り返す。
傍ら、彼らの作業を見守りながら故郷の記憶を辿り、実現可能な方法を一緒に考える。時には失敗して甘酸っぱいジュースが飛び散ったり、装置がうまく作動しなかったりすることも。
そのたびに顔を見合わせて笑い、新たな解決策を探す。
「お父様、装置の圧力を調整できないかしら?スムーズにジュースが出るはずなのだけど」
「試してみる価値はある」
「陽光ジュース甘さが足りない! もう少し蜜を足しましょう」
「何度でも飲みたくなるような、最高の味を目指さないと」
キッチンと工房は連日、様々な飲み物の香りと機械の稼働音、家族の賑やかな会話で満たされる。
数週間後にはアランの工房から、ついに完成したジュース供給装置が運び込まれた。いくつもの蛇口が並び、それぞれから冷たい飲み物が注ぎ出される魔法の泉のような装置。
ルミナが開発した新しいジュースの数々も、冷気庫の中でひんやりと冷やされている。
「これで、好きな時に、好きなだけ飲み物を楽しめる」
誇らしげに装置を指差す。画期的な装置と色とりどりのジュースの入った容器を見て、胸が熱くなる。見た通りの機械。あれをやりたい。全種類、混ぜる行為を。
「本当に素晴らしいわ。きっと、ふわふわ亭をさらに特別な場所にしてくれる」
ルミナのはしゃぐ声はよく聞こえる。
「飲み放題大成功よ。とっても喜んでくださっているわ!」
ルミナの弾んだ声が朝のふわふわ亭に響き渡り、開店以来、お店は連日老若男女問わず多くのお客様で賑わっていることを示唆している。
改良した自動ジュース供給装置は完璧に機能し、様々なフレーバーのジュースはパンケーキと共に大好評。白熱していた。
「飲み物を待つこともなくなったし、私たちもお客様との会話を楽しめるようになったわ」
コーヒーを片手に忙しく働くルミナとアラン、楽しそうに遊ぶ孫たちの姿を眺める。
厨房の奥からはパンケーキの甘く香ばしい香りが漂い、自動ジュース供給装置からはひんやりとしたジュースが注がれる軽快な音が聞こえた。まったりと、流れる時間。
「おばあちゃまおばあちゃま! 私、今日は席を拭くお手伝いするね!見てて見てて!」
孫が小さな雑巾を手に足元に駆け寄ってきた。
「偉いわね。お願いできる?」
嬉しそうに頷き、小さな体を揺らしながらテーブルを拭き始めた。隣ではまだよちよち歩きの末娘が、楽しそうに店内を探索する。カウンターに肘をつき、ゆっくりとコーヒーを味わう。
以前は同じように常に厨房で忙しく働いていたが今は、夫と娘が店の運営をほとんど担ってくれている。
重要な決断や新しいアイデアを出す際には意見を求められることもあるが、日々の細かい業務からは解放されていて穏やかな時間を過ごせるようになった。
窓から差し込む柔らかな日差しが、店内に満ち楽しそうな話し声、子供たちの笑い声、パンケーキを焼く香ばしい匂い。それら全てが心地よい。こんなにも穏やかな未来が待っていたなんて。
「お母様、少し休憩しない?今紅茶を淹れるわ」
娘が様子を見て優しく声をかけてくれる。娘の成長と、母親への気遣いが何よりも嬉しいと感じる瞬間。
「ありがとう、もう少しこのままでいたい。こうして、みんなが楽しそうにしているのを見ているのが一番の幸せだから」
微笑んで答える。夫が作業の手を止め、隣に座った。ルミナは移動していたのかキッチンより遠いところから聞こえる、呼び声。
まったりとした時間はどうやらお預け。しずしずと移動する。




