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不知火無題のドキュメント  作者: 人見 吾空
第四章 不知火無題との関係性

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2.友だち

「ああ、美味しい! このほうじ茶とバニラアイスの組み合わせが好きでね、いつも食べちゃうんだよね」

「僕のは……ピスタチオか、食べたことはないけど気になってたんだよな」

「そう? よかった。ぼくの奢りだ、遠慮せずに召し上がれ」

 戦術を練るにも情報を整理するにも、糖分は必須のエネルギーだからね、とこれから僕のサポートを勝って出ることを当然とばかりに告げながら、叶は一口一口大事そうにアイスをスプーンで掬って口の中に運んでいく。

 戦術を練ると聞いて、自分の頭のなかに人海戦術以外の戦術がうまく構想できないことも確かだった。それはそうだ、人探しなんてしたこともない。これまでの春名の家出も結局あいつが帰ってくるのを待つことしかできなかった。

 今回も、ただ待てばいいのかもしれない。

「叶、ちょっと聞きたいんだが」

「あ、ごめん。念のため名字は伏せてくれるかな。異性の担任教諭と生徒で会合なんてしてることがわかったら、なかなか面倒だからね」

 叶はテラス席で右隣に座っている僕に、まるで映画のなかのスパイがそうするような姿勢で口元に手を当て、小声で僕に囁いてきた。

 確かに考えてみれば、普段「お前」としか呼んでいなかった。学校で偶然会うときは大概「先生」付きで呼んでいたなと自分の無意識を振り返る。

 この半年間の不定期な会合を経ておいて今更な気がしないでもないがと伝えると、このカフェは学校に近いからこそ盲点で穴場なんだということだった。学校や職場に近いところは人目につきやすいから、あんまり休みたくないのが人の習性なのさと。

 確かにこのカフェに一年近く通っているけれど、同級生や教諭らしき人物と会ったことがない。それなら注意する必要もないじゃないかと反論しても、念の為さと言われて仕舞えば仕方ない。

「じゃあなんて呼べばいい。偽名でも考えるか?」

「うーん、そうだなあ。すぐにはいい案が出てこないから……」

 季子(きこ)、って呼んでみない?

 叶は口元に手をかざしたまま、そう提案した。

 僕は膝から崩れ落ちそうになったのをなんとか耐えて、叶のいる側とは反対側に椅子をずりずりと動かして距離を保った。

「あ、ひどい。せっかくぼくの名前を呼び捨てにする権利を与えてあげたのに」

「お前は……! 本当に何を考えてるかわからないな、もう!」

 誰がそんな名前で呼ぶかと照れと怒りをあらわにしている僕の側で、叶はまたかんらかんらと笑う。勢い僕は恥ずかしくなって俯き、いつもの前髪の鉄壁をこしらえていた。

「でも勿体無いよねえ、舜くんはとてもいい眼をしているのに。きみたちでお人形さんごっこしていた日々をいま一度再現したい気持ちに駆られているよ」

「金輪際あんな遊びはやめろ。そんなことより、春名のことで何かいい情報は入ってきてないのか?」僕は話題を外らせるためにもそう告げた。

「うーん、まだのようだね。みんないろんな場所を探してくれているけれど、それらしき女の子を見かけたという情報は入っていないよ」

「そうか……、それはそうだよな。これだけ人のいる街だ、そう簡単には行かないよな」

「まあ焦らずいこう、まだ一日は始まったばかりだ。とりあえずは二人の今後についてお話しできるような場所を設けられるよう、作戦を練っておこう」

「……二人の今後?」

 そう怪訝に尋ねた僕に叶はアイスをまた一口、また一口と食べる手を一旦止めて、「ぼくときみの今後についても作戦を練りたいところだけど」と要らぬ前置きを置き、

「少なくとも春名ちゃんは、もう実家にはいたくないって言っているんだろ? できることなら一人暮らしをしたいと。そして春名ちゃんが実際に一人暮らしをしたら、きっときみは守るべき相手を失って潰れてしまう気がするんだよ」

 と、そっけなく告げてきた。

 思わず、ぎくりとした。

「これまできみは家族が分離してしまうことを恐れて、互いに適切な距離を保って暮らしていけることを願ってきた。そして兄妹二人がそれぞれ一人暮らしできる歳になれば、より適切な距離を保てるようになるからそれで上々だろうと。

 けれど、その春名ちゃんが形はどうあれもし独り立ちするとしたら、きみは一人でご両親と適切な距離を保つ動機を失う。

 おそらく年齢的にきみが最初に独り立ちするものと考えていただろうから、春名ちゃんが先に出ていく可能性は勘定に入っていなかったんじゃないかな」

 確かに考えていなかった。

 けれどその可能性は、まさに形を問わなければいま起こりうるものになっている。

「だから春名ちゃんの今後は、きみの今後と一緒に考えないといけない気がするんだ。二人の今後がどうあるのが良いのか、作戦を練ってみようよ」

 そうさらりと告げた叶の言葉を聞いて、僕は意外の感に打たれていた。

 どちらかといえば、これまで叶は僕のであれ春名のであれ、抱えた問題を勝手に解決していくようなやつだった。けれど、こんなふうに一緒に問題を解決しようと話をしてきたのは初めてじゃないか?

 叶は交互に食べていたアイスをひとまず食べ終えて、僕の分として買ってきていたアイスをじっと見つめている。バニラは美味しくいただいたのだけれどピスタチオは正直僕の口にあまり合わなかったので残していたのだ。

「……よかったらどうぞ」

「そう? 悪いね」

「いや、もとからお前の奢りだし。まだお礼も何もできていないし」

 そんなことを軽く俯きながらいう僕の肩をぽんぽんと叩いて、叶は朗らかに言った。

「水臭いなあ。ぼくたち三人は幼なじみで、友だちだろう?」

 そんな気恥ずかしいことを満面の笑みでいえるこいつの神経の一部でも僕のなかにあればさぞ生きやすかったろうと思いつつ、僕は「お、おう」としか言えなかった。

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