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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
アザルス王国編

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9/10

大泣きの後

いよいよソルセリル編の終わりが見えてきました。


 処刑台に上がる頃になっても、あたしの心は閉じたままだった。

 はたから見れば、冷静に刑に処されようとする素直な囚人に見えたかもしれない。

 でも、それは散々怒って呪って抵抗して、泣いたあとだったからだ。辛すぎて現実を受け入れきれなかったあたしの頭は考えるのをやめて、心を固く閉ざした。

 それだけの事。

 断頭台を見ても首を固定されても、あたしの心は閉じたままだった。

 むしろ、この世界から解放されたくて死を受け入れていた。

 

 こんな力があるからいけないんだ。

 死ねば消える。

 だからこれでいい。

 そう考えていた。


 だからラディウスがやって来て目の前に降り立ち、首の固定が解除されても、助かったという実感が無かった。現実が信じられず、頭も気持ちも追いつかなくて茫然とした。

 そんな状態だったから、あたしは目の前に立った人物を見上げて、

「こんにちは、魔王様」

 場違いな挨拶をした。

 自分の声が聞こえると、それを合図にしたかのように、耳に詰まっていたものが外れて辺りの音がちゃんと聞こえて頭に入ってきた。

 視界が色を取り戻し、風の冷たさ、太陽の光と眩しさを感じる。

 現実感がググっと押し寄せた。


 まるで他人事のように挨拶したあたしに彼は呆れたのか、

「処刑されそうになっていたのに、随分と冷静だな」

 ため息をついてそう言った。

 

 冷静じゃない。むしろその逆だ。

 

 そんなことを知る由もなく、救世主の魔王は、

「もしかして、死にたかったのか?」

不思議そうに首を傾げた。

 

 そうだけど、そうじゃない。

 本当は死にたくなかった――。

 

「死にたいわけない……」

「なら、どうしてあんなにも冷静だった?」

 

 だって―――

 沢山考えすぎて追いつかなかったから……。

 死にたくなかったから……。

 

「―――怖すぎて…………何も感じなかった…………」

 

 素直に認めると、本能的恐怖がやっと消え去った。

 無理やり蓋をして押し込めていた感情たちが、一気に堰を切って溢れ出す。

 それは涙となって頬を伝い、嗚咽となって声に出た。

 震える足は立つことをせず、肺は呼吸することよりも泣くことを優先させた。

 

 あたしは処刑台の上で泣きじゃくった。

 

 己の心をコントールできず、気持ちが望むままに声を上げて泣いた。

 張り詰めた糸が切れ、緩んだ心に悲しい心地よさが生まれる。

 

 ――助かった。

 死ななくてすむ……。

 

 その感動と安心に胸が一杯になり熱涙に咽び《むせび》いていると、  

「ちょっとどいて下さい」

 誰かが人垣をかき分け、処刑台に上がってきた。

 足音がそばまで来るとすぐ隣にしゃがみ込み、

「ヒカリ……」

 背中をさすってくれる。

 手と声で、それが誰かは容易に知れた。

 田岸さんだ。

 

 寄り添ってくれるのは嬉しかった。一人きりでこの上にいるのは切なかったし、嫌だった。きっと否応なく注目を浴びているだろうから。

「魔王陛下。ヒカリを救ってくださり、ありがとうございました」

 あたしに変わってお礼を言ってくれる。

 本当はあたしも言わなきゃいけなかったけど、今はそれどころじゃない。

「お前は?髪色からして召喚者か?」

「はい。ヒカリと同じ国の出身です」

 ふん…と考えると、

「我が国に戻ったら、お前の力の事も調べさせてもらう。ヒカリ」

 呼びかけられ、あたしはなんとか顔を向けた。きっとぐちゃぐちゃでひどい顔だったと思うけど、仕方ない。

 あとで不敬って言われませんように、と思いながら「はい……」小さな声でを返事した。

「お前の力の詳細も鑑定後に教えてやろう。一度俺の前で見せてくれ」

 ラディウスはまた翼を広げると数センチ浮き上がった。

「楽しみにしている」

 言い残して城の方へと消えてしまった。


 それからすぐに魔族の皆様がやってきて、役人達をひっ捕らえて城に連れて行った。


 

 

 ラターナ村への帰り道、あたし達には護衛がつけられた。いかにも屈強そうな背の高い人で、人間のようだったが、この人も魔族らしい。

 あたしは田岸さんに付き添われ、ゆっくり歩いた。彼は歩調を合わせてくれた。

 

 その頃にはかなり泣きやんでいて、尖ってささくれた心は丸く平らになって、穏やかだった。

「まさかこんな事態になるなんて……。一人にして申し訳ありませんでした」

「田岸さんが謝ることじゃ……。あたしだって、誘拐されるなんて思ってなかったです……」

 だって、敗戦が決まって王都が陥落した後だ。上層部の方々もすっかり意気消沈して、大人しくしていると思うじゃないですか。

「朝、ヒカリの家に行って驚きました……。貼り紙を見て血の気が引きましたよ……」

「貼り紙?」

「『報いを受けるのはこの者。末路を知りたければ広場に来い』

 玄関の扉にそう書かれた紙が貼ってあって、急いで駆けつけたんです」

 なるほど……。

 それであんなにも人が集まったのか。

 それにしても、貼り紙の文章が中二的……。

 剣と魔法があるファンタジー世界だから、違和感は少ないけど………。この文章を考えた人、ちょっとイタイ。

 

「乱暴な真似はされてませんか?食事と水は?そもそもいつ誘拐されたんです?」

「そんなに立て続けに聞かないで下さいよ……。目立った怪我はしてない……はずです。乱暴は……ありましたけど……」

 体当たりしたし、自分を手荒に扱った記憶がある。

 しかし意味を取り違えた田岸さんは、 

「辱めを受けたんですか?!」

 急に険しい顔になって慌てた。

 あたしは「いえ!違います!」と顔を横に振る。

「そういう意味じゃなくて……。何とか脱出しようと壁に体当りしたし、ずっと縛られてた手首が痛くて……。水も飲んでないので喉もカラカラです」

 そう話すと、急に空腹を感じてお腹が鳴った。あたしは顔から火が出るほど恥ずかしくなったが、田岸さんは安心したように表情を緩めると、

「またデイシーさんの所へ行きましょう。水をもらって、何か食べ物を口にしてください」



 昨日の今日で再び治療をしてもらい、恐縮してペコペコと頭を下げるあたしに、

「そんなに気にしないで下さい……」

 デイシーさんは困っていた。

「ヒカリは何も悪いことをしてないんですから」

「でも食料までもらっちゃって……。カストロくんの分は大丈夫ですか?」

 カストロくんは一人息子で8歳だ。ちなみに、ご主人は5年前アザルス王国の内戦に強制参加させられ亡くなったらしい。

「今は魔族の皆さんが補給してくれるので、大丈夫ですよ。アザルス城の地下に沢山食料があったみたいで、国民に配給してくれたんです」

 あいつら……自分たち用にストックしてたのか……。

「お酒もパンも肉もたっぷりとありますよ。ヒカリの分は村長が持っていますから、あとで受け取りに行きましょう」 

 デイシーさんはパンと水、ブドウジュースをくれた。「これだけじゃない足りないでしょ」とシチューとロールキャベツまで温めてくれ、あたしはお礼を言って平らげた。全部美味しかった。

「ヒカリのおかげで戦争に負けたようなものです。お礼を言いたいのは私たちの方ですよ」

「えっ?」

 あたしのおかげ?

 何もしていないのだけど……。

 魔獣車から落ちて魔王とお喋りしただけです。

 キョトンとするあたしに、デイシーさんは「謙遜しなくても」と笑った。

「力を使わずに魔王さんを説得してくれたんでしょ?そう聞いてますよ?」

「いやいやいやいやっ!そんな事してませんから!」

 えらく誤情報が流れている。

 というか、あの場には誰も居なかったはずなのに……。

「あれ?違うんですか?」

 田岸さんまで信じていたらしい。

「違いますよ!説得なんてしてません!」

「この村ではもう、そういう話になってますよ?」

「ええ………」

 誰だ、本人に確認もせず噂を広めたのは!

 もう手遅れなのかもしれないが、あたしは正しい情報を提供することにした。

「言っときますけど、あたしは強制的に魔獣車から落とされただけです。黒髪を見てラディウスが興味を持って話しかけてきた、ってだけですよ……」

 あたしの力に興味を示した事は黙っておこう。

 

 しかし、デイシーさんの驚きポイントはここじゃなかった。

「あら、魔王さんはラディウスって名前なんですね?すでにお知り合いなんて……流石です」

「デイシーさん、大事なのはそこじゃないんですよ……」

 母親と話しているのを見て、カストロくんが無邪気に尋ねた。

「魔王に助けてもらったんでしょ?凄くね?」

「いや、凄くはないんだよ?見返りをちゃんと求められてるからね……」

「ふーん……。見返りって?」

 あたしの力を披露することだが、それも言えない。

「……………………それは内緒」

「ケチ」

「こら!カストロ!」

 あたし達には見せない怖い顔で息子を叱る。

 やっぱりお母さんだな……。

 

 カストロくんはと言うと、脱兎のごとく逃げていった。あっという間に消えた息子に変わり、

「すいません……。あとで言い聞かせておくので」

 ペコペコされた。

「いいですよ、誰でも気になる事でしょうから」

 誰にも教える気はないけどね。

「怪我も治りましたし、家でゆっくりして下さい。お疲れでしょうから」


 

 デイシーさんの家を出ると、あたしは田岸さんと家に向かった。その道すがら、

「ヒカリが誘拐されたあと、村の者たちで話し合ったんですが、村内の見回りをすることになりました」

 と教えてくれた。

「自分達が住む村だから警護を任せっきりにせず、自分たちの手で守ろうという話しになったんです」

「そうなんですか……」

 あたしの誘拐事件が村全体の人々に迷惑と心配をかけたんだと反省した。

「1区は女性が多いですから、見回りを多めにする予定です。不安なら、簡易的に鍵を付けますけど、どうされます?」

 さすがにあんな事があっては1人の夜は怖かった。

「………はい、お願いします」

「分かりました。早速手配しますね。あと魔族の方々によると、俺たちの移送に時間がかかるらしくて。馬車の準備や道中の食料、護衛……。いろいろ準備するのに一カ月はかかるらしいんです」

「そんなに?」

「はい。なので、鍵の設置はできるだけ早くして、ヒカリが安心してあの家で過ごせるようにします」

 本当に兄のようだ…………。

「色々とありがとうございます」

「見回りは早速今夜から始まるので、少し外で物音がすると思います。事件直後で不安でしょうけど、鍵を設置するまでは辛抱して下さい」

「はい」

 

 この頃になると、あたしの中で田岸さんは完全に兄になっていて、家族のような親近感を持っていた。

 

 

読んでいただきありがとうございます!とても励みになっています。

誤字・脱字報告もありがとうございます。助かっております。

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