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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
グラータ訪問

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ヨセハイド地方


 車内が恋愛と結婚話で盛り上がっている中、ふと外を見た。

 速度上昇の魔法のおかげで今日もスピードは早い。王都を出てから40分は経ったから、結構郊外に来ている。


 景色は森と畑、空だけになって、民家はちらほらとしか見えない。山々の色づきが美しくて、また写真が撮りたくなる。

 秋になり収穫時期なのか、畑には腰をかがめる人々の姿が見える。

「今は収穫時期?」

 あたしが何を見ているのか気がついたラディウスは、

「ああ。このヨセハイド地方は小麦と穀物の収穫が盛んだからな。今は最盛期だ」

 

 へぇ。さすが王様。ちゃんと地方のことも把握してる。

 

「もう少し走るとヨセハイドの街に入る。そこを抜けたらグラータに入国だ」

「王都以外の街かぁ。楽しみだな」


 あたしはしばらく車窓を眺め、目に映るものをラディウスに質問していった。

 農具、収穫した作物の種類、農民の生活、街の規模、ソルセリルの冬。

 面倒がられたけど、嫌がりはせず教えてくれた。

「冬は王都でも積雪がある。ヒカリの家も火魔法を使って暖めないと凍えるぞ」

 そういえば、リビングに暖炉があったな。

 使い方を教えてもらわないと分からないや……。

 


 そんな事を考えていると、街が見えてきた。土道が石畳になり、民家が増えてくる。民家以外のお店も多く建ち並ぶ場所まで来ると、通りすがりの人達が魔獣車を見て足を止めていた。

 豪華な車だし、騎士もいるから目立つよね……。

 ちょっと気まずくて窓からレースのカーテンを少しだけずらして外を窺っていると、奥の道に子供が見えた。

 うずくまって膝を抱えている。

 その腕が――。

 どうにも違和感があった。


「ラディウス、ちょっと待って」

 急に立ち上がったあたしに驚いて、

「なんだ?」

「あの子供……。腕が……」

「腕?」

「ねぇ、車を止めてよ。気になる」

 

 ラディウスは護衛のため横を追走していた騎士に声をかけ、魔獣車を止めてくれた。

 そのまま出ていこうとしたあたしに、

「おい、指輪はちゃんと付けているな?」

 確認された。あたしは右手をかざし、銀色に光る指輪を見せると、

「大丈夫。何かあったら風を飛ばすから」

 そういって車を飛び出した。


 

 道の奥、高い塀の下でうずくまって膝を抱えていたのは、獣人族の子供だった。

 見た目は虎の黄色と黒の縞模様に、子供ながら威厳ある顔つき。だけど耳は尖って鼻筋も鋭く、ちょっと狐を思わせた。尻尾は狐のふわふわ系。

 庶民を装っているけど、光沢を放つ生地、汚れ一つないシャツ、磨かれた靴は良いところの子供と分かる。ボタン一つとっても貝細工のような虹色をしていた。 

 その子供の腕は不自然に曲がっている。服の上からでも、折れていることが分かった。

「ねぇ、君?大丈夫?」

 声をかけると顔を上げる。あたしを見ると泣き顔から一転、

「来るな、人間!」

 ふわふわした尻尾が逆立って警戒を表し、あたしを睨んだ。

「それ以上来てみろ!噛みついてやる!」

 牙を剥いており、随分と威嚇してくる。

「怪我してるから、そんなに興奮しない方がいいよ?」

 あたしはそれ以上は近づかず、その場にしゃがんだ。視線を合わせると少し尻尾が垂れる。

「腕、痛いでしょ?」

「い、痛くない……」

 あからさまな嘘。

「お坊ちゃんがこんな所で何してるの?付き添いの大人は?」

「ぼ、僕は庶民だぞ!」

 はい、嘘。

「そんないい生地の服を着た庶民はいないよ?」

 そう指摘すると、ハッとして自分の服を見ている。きっと一番質素なものを選んだんだろうけど、隠しきれるものじゃない。

「一人?何してたの?」

「人間には関係ない……」

「そうだけど、怪我をしてる子供を見過ごす大人はいないよ」

「うっ……」

 大人と子供、という指摘をすると黙り込んでしまった。

「子供が怪我をしてるなら、助けるのが大人だよ。何があったの?」

 

 少年は、人間で言うと小学3年生くらいに見えた。獣人族の年齢の進み方が分からないから、外見年齢だけど。

 

 少年はもじもじと服をいじり地面を見つめていたが、やがて、

「ユサイルに……会いに来た」

 話しだした。

「ユサイル?」

「…………街にいる鍛冶屋の子供だ」

 子供って……自分も子供なのに。

 

「そいつが……またに家に来るんだ……。ユサイルの父が父様の剣の手入れをしてくれるから……それに付いてくる……」

「それで?」

「色々と話してくれる……。街のこと、祭りのこと、釣りの事、パン屋で買ったクッキーのこと……。僕の家には子供がいないから、話を聞くのは……面白い」

 大人びて言っているけど、頬が少し緩んでいるから楽しい時間なんだろう。

「そのユサイル君は友達なんだ」

「ち、違う!庶民の生活を知るのも僕の務めだから、聞いてやってるだけだ!」

 

うわぁ……素直じゃないな。ラディウスみたい。

 

「ユサイルはたまにしか来ない……。最近は特に姿を見かけないから……その……少し様子を見に――」

「心配になってお忍びで出てきたの?」

「ち、違うぞ!領地の民の身を案じただけだ!」

 

 領地って言ってる時点で貴族ってバレるよ。

 やっぱり子供だな。嘘はつけてない。

 

「それで、そのユサイル君の家にこっそり行こうとしたけど、うっかり転んで怪我をしたわけね?」

「大したことない!これくらいの怪我は父様もしたことあるし、庭師のミライラはもっと血が出てたし……。だから僕だって我慢できる」

 

 涙声になるのを我慢してるのが分かる。

 大したことないって言ってるけど、明らかに骨折してる。腫れて歪に腕が曲がってるし……。

 

 あたしは少年の後ろにそびえる塀を見た。

 きっと無理によじ登って、そこからジャンプしようとしたんだろうな。5メートルある塀だから、子供の身長なら登るのも苦労しただろう。彼の服の前と袖は少し汚れているから、必死によじ登ったと分かる。

 そこまでして会いたい友人、ということだろう。

 

「怪我は無理に我慢しなくてもいいのよ?腕は折れてるから痛いでしょう?」

「お、折れてるのか?!」

 まさか骨折しているとは思わなかったのか、彼は蒼白になった。

「折れてるよ。腫れてるし、おかしな方向に曲がっているから」

 

 自身の怪我を直視したくないのか、視線をチラチラと患部に向けては逸らしている。

 子供なら怖いよね。

 痛みもあってか、少年の顔色は良くない。出来れば治療してあげたいけど……。

 

「その腕、治してあげようか?」

 ばっ、とあたしの顔を見た少年は一瞬嬉しそうに顔を歪めたが、すぐに唇を固く結んで、

「い、いい!」

突っぱねた。

「なんで?痛いでしょう?」

「痛くない!」

「ウソ」

「い、痛くないんだ!」

「子供が我慢しないの」

「我慢じゃないぞ!」

 

 本当に素直じゃないな……。

 

「なら、その怪我でユサイル君の所へ行くの?凄く心配されるよ?」

「うっ……」

「それとも家に帰る?お忍びで出てきたのに、怪我の事をどう説明するの?」

「そ、それは……」

「ここで治して、予定通りユサイル君の所へ行くのが一番いいと思うけど」

 

 少年は見て分かるほどに眉間にシワを寄せて考え込んだ。人間のあたしに助けられる屈辱を受け入れるか、怪我を治して誰にも心配をかけないか……それを天秤にかけているのだ。

 

「人間……お前は回復魔法が使えるのか?」

「使えるけど、骨折は治せないよ」

「……――は?!ならなんで治すなんて言った!」

「治療用のポーションがあるのよ。あとは痛み止め」

「ポーションか……」

「小さい傷は治せるから、頬の傷足の擦り傷も消えるよ?まずは痛み止めで楽になろうよ」

「……痛み止め?」

 あたしはバックに入れていた鎮痛剤を取り出した。

獣人族の子供なら、五分の一で効果が出る。

「飲んでもいいけど、どうする?吐き気がないなら飲む?」

「い、いらない!人間の持ってる薬なんて怪しすぎる!」 

 少年はさらに顔色を悪くした。相当人間を警戒してるんだな。 

「怪しくないよ。あたしも何度も使った事あるから、効果は保証するし」

「それは人間の場合だろ!僕は獣人族だぞ!」

「獣人族の人にも使ったことあるよ。大人だけど、ちゃんと効いてたから」

「そっ、それでも断る!人間を信用できるか!」

「なら、このまま家に帰る?」

「そ、それは……」

 少年はまだ結論を出せずにいるらしい。

 

 このままじゃ、どんどん患部が腫れてくる。

 痛みで吐き気も出てくるだろう。何より、大怪我した子供を放って置くわけには行かない。

 

「あたしが信用出来る人間って分かれば治療を受けてくれる?」

 少年はキッと睨むと、

「そんな証明、出来るわけないだろ!こんな通りすがりの、それも人間を!簡単に信用できるかっ!」

 

 それはそうだよね。貴族の嫡子としては正しい判断だ。でも、あたしには少年の信頼を得る手段がある。

 

「信用を勝ち取れば治療を受けてくれる?」

「やってみろ!」

 あたしは立ち上がると、「ちょっと待ってて」とその場を離れた。


 

 魔獣車に戻ると扉を開け、退屈そうに足を組んでいるラディウスに、

「ねぇ、ちょっと顔を貸して欲しいんだけど」

「なんだ?やっと戻ってきたと思ったら、いきなり?」

 不機嫌そうにそう言われた。

「向こうで獣人族の子供が手を骨折しててさ。治療をしたいの」

「子供?」

「貴族の子供っぽいんだよね。お忍びで出かける途中に怪我をしたみたいでさ」

「従者は一人もいないのか?」

「うん。こっそり抜け出してきたんだろうね」

「なら家に返せ。たんまり叱られて家で治療を受けさせれば良いだろう?」

「庶民の友達に会いたいみたいでさ。多分、抜け出したのも自分で会いに行こうとしたのも、初めてなんだと思う。初のお忍びを成功させてあげたいんだよね」

「なぜだ?」

「せっかく勇気を出して家を抜け出したんだよ?庶民っぽい服を選んで、使用人達の目をかいくぐって家を出て、慣れない道を歩いて高い塀を一生懸命登って、高い所から飛んで……。あの子供にとってはかなりの冒険だし、相当の覚悟がいったと思うの。その努力も苦労も覚悟も、無駄にしたくないんだよ」

 ラディウスは理解できない、と目を細めて、

「なぜヒカリが応援するんだ?初めて会った子供だろう?」

「知らない人でも、頑張ってるなら応援したくなるでしょ?子供なら尚の事ね」

「……分からん」

「友達に会うためにした努力だよ?一生懸命にやったことなら、成功させてあげたいの」

 まだ納得してない顔だけど、

「それで?そこになぜ俺が必要なんだ?」

 自分の気持ちを差し置いて、今度は理由を聞いてくれた。

「あたしが人間だから、信用できないって治療を受け入れてくれなくてさ。ラディウスがいれば、不審な人じゃいって証明できるでしょ?だからついて来てほしいの」

 

 ラディウスは先ほどと表情を変えて、冷ややかな目になった。

「その子供はヒカリが人間だから突っぱねているのか?」

「多分ね。知らない人だから警戒してのもあるけど。貴族の子供なら、当然の警戒心でしょ?」

 その言葉には同意せず、

「そいつはどこにいる?」

 立ち上がってくれた。


 

 あたしは道の奥、高い塀の下でうずくまっている少年の元へラディウスを案内した。

 少年は先ほどよりも青い顔をしている。

 痛みで気分不良を起こしているんだろう。

「戻ったよ」

 気配と声で少年は顔をあげた。あたしが誰を連れてきたのか見て、

「え……。ラディウス陛下?!」

 小さな目を見開いて驚いている。

 

 こんな子供にも顔を知られてるんだな、ラディウス。さすが国王。

 

「どう?あたしを信用する気になった?」

 少年はあたしとラディウスを交互に見て混乱していた。なんで陛下と人間が一緒にいるのか、分からないのだろう。

 急にラディウスが出てきたから緊張しているようで、顔が強張っていたけど、それでも貴族の嫡子らしく挨拶しようと立ち上がりかけた。

 

 それを見たラディウスは、

「そのままでいい」

声で制している。

「おい、なんでコイツの治療を受けようとしない?その腕、折れているぞ?さっさと治した方が辛くないだろう?」

「いえ……自分の勝手をした結果なので………誰かの手を煩わせたくはないと……」

 少年はいっちょ前に建前を言った。でも目が泳いでいるから本音じゃないとすぐに分かる。

「ヒカリが人間だから断ったんじゃないのか?」

 ズバリ言われ、少年は肩を震わせた。

 確かに子供には少々キツイ声色だ。怯えるのも致し方ない。

「ヒカリはそう言っていたぞ?違うのか?」

「いえ………その…………」

 視線がせわしなく動き、急に頭をそわそわと動かしている。かなり狼狽していた。

 でもラディウスは遠慮なく言葉を続ける。

「このあたりの貴族ということは、お前、アラール家の者だな?」

「――は、はい。トレニアード・アラールと申します、陛下……」

 身元がバレ、少年は観念したかのように俯いて一気にしょぼくれた。尻尾がしゅん、と動きをなくす。

「このヨセハイド地方は人間の国グラータとの境に位置する領地だ。国交があるグラータの者の往来も多い。そんな領地の貴族が、なぜ人間を毛嫌いする?」

「そ、それは……」

「嫡子が他にもいるならいいが、確かアラール家の子息はお前だけだろう?将来家督を継ぐお前が、そんな差別的でどうする?」

 

 正論に一言も言い返す事が出来ず、トレニアードはただでさえ小さな背中を丸めてしまう。

「現当主であるハレイドの教えなのか?そうであれば、アラール家にこの領地は任せておけないぞ」

 お家取り潰しの話にると分かったのだろう。トレニアードは泣きそうな程に顔を歪ませて、

「違います!」

強く言った。

「父上の教えではありません!僕が……勝手に…………偏見を持っているだけです……」

「なぜだ?人間に酷い仕打ちでも受けたのか?仮にも貴族の子供が、そんな事態になるとは思えんが」

「人間は……母様にいい顔をしないから……」

「母親と人間の間に何かあったのか?」

「――母様は狐族なんだ……」

「ああ、そういう事か……」

 

 なにがそういう事なのか分からない……。

 でも狐の獣人は王都でも見たことがない。数が少ないのかな?

 

「母様の毛色は凄く綺麗で……特に珍しい小麦色なんだ。それを狙って母様が人間に誘拐されそうになって……。酷い怪我もしたし、ふさふさした尻尾とか耳とか……沢山切られてた……。無事だったけど――」

 喋りながら、トレニアードは目にたくさんの涙を浮かべていた。

 人間が毛皮目的に誘拐しようとしたのか……。それは人間嫌いにもなる。

 

 しかしラディウスは暗い過去を持つトレニアードに容赦なく言い放った。

「お前の母親は確かに不憫だったが、その人間とヒカリは関係ないだろう?」

「は、はい……」

「人間による獣人族の乱獲はかなり減っている。心ないごく一部の人間の愚かな行いを蔑むのは分かるが、人間全体がそうだと思うな。そんな狭量で視野が狭い奴に、大切な領地は任せておけんぞ」

「申し訳ありません、陛下……」


 トレニアードは縮こまると、黙ってポロポロと涙を落とした。

 涙は毛皮にツルツル流れ、地面に落ちていく。

「反省したのなら、ヒカリの治療を受けろ。コイツは国でも腕利きの創薬師で治療師だ」

 

 えっ?

 そんなこと言ってくれるの?

 驚きラディウスを見たけど、彼は何も言わなかった。

 たまにこうして褒めてくれるから、ラディウスって憎めない。あれこれ言うけど、ちゃんと見ててくれるんだよね。

 あたしはトレニアードに近寄ると、

「痛み止めだよ。飲める?吐き気があるだろうから、無理ならかけるよ?」

「か、かけて欲しい……です」

「分かった。皮膚に直接かけた方がいいから、頭からごめんね?」

 じゃぶっと頭からかけると、30秒ほどで表情が柔らかくなった。ポーションは効果発現と共に消えるから、ポタポタ滴ることもない。

「痛み良くなった?」

「は、はい」

「なら服を脱ぐよ」

 あたしは上着とシャツを脱がせて患部を確認した。

 

 やっぱり折れてるけど、開放骨折じゃない。これなら中級ポーションで平気そう。

 早速取り出そうとしたところ、トレニアードは患部を見て血の気が引いた顔をしていた。本当に折れていると分かったんだろう。

 小児科の経験がないけど、子供には怖いだろうな……。

 

「ラディウス、なんか魔法だしてよ」

 あたしは後ろで傍観してるラディウスにそう言った。

「は?魔法?」

「トレニアード君の気を紛らわせて欲しいの」

「……なんでそんな事しなきゃいけない」

 凄く嫌そうな顔だ。

 トレニアードはラディウスの機嫌を損ねたと思ったのか、慌てて、

「い、いえ!陛下のお手を煩わせるなんて!」

 と恐縮した。

 子供にまで気を使わせるなんて……。

「ほらトレニアードもこう言っているぞ?」

「ラディウス、国民が困ってるんだから協力くらいして」

「当の本人がいらない、と言っているだろう」

「あたしはいると判断してるの」

「なんでお前の判断が本人より優先される?」

「トレニアードくんはラディウスに気を使ってるからよ!」

 自分を挟んで口論を始められ、トレニアードはオロオロしていた。

「ほら、今もこんなに狼狽させてるじゃない!早く治療始めたいから、何か魔法出して!」

「………………なんで必要なんだ?」

「言ったでしょ?気を紛らわせるためなの」

「……お前への借りを少し返すことになるなら、いいぞ」

「はいはい、それでいいから」

 軽く流して返事すると、ラディウスは諦めてため息をついた。

 そして手の上で魔法を出してくれる。

 

 小さな玉のような球体が沢山出てきて、それが3人の周りをぐるぐると回る。シャボン玉みたいに虹色で、太陽を反射してキラキラ光った。パチン、と弾けると今度は蝶になる。小さな羽を動かすと鱗粉のように光が舞い落ち、あたし達に振り注いだ。

 

「うわぁ……綺麗……」

 うっとりと魅入っているトレニアードの横であたしも思わず、

「うん、綺麗だね……」

 呟いた。

「おい!お前まで魅入ってどうする!」

 あっ、そうだった。

 慌てて骨折部に空間浄化魔法をかけて、水魔法で水を生成。患部を洗って清潔にして、他にも傷がないか確かめた。中級ポーションを取り出し、ぱしゃとかける。

 その頃には足元が魔法の花でいっぱいで、蝶が目の前を飛んで、鱗粉が振り注いで……。

 そんな幻想的な光景になっていた。

 魅入っているトレニアードは、治療が終わったことに気がついてかなった。

 良かった。

 

「終わったよ」

 そう言うと、トレニアードは驚いて腕を見た。不思議そうに指を動かして感覚を確かめている。

「治ってる……」

「ほら、お友達の所に行ってきなよ」

 ぽん、と背中を押す。

 トレニアードはシャツに袖を通し上着を持つと、恭しく頭を下げた。

「ありがとうございました、陛下」

「俺ではなくヒカリに言え」

 トレニアードはチラッとあたしを見ると、同じようにあたしを下げ、

「ヒカリ殿、ありがとうございました。無礼な発言の数々をお許し下さい」

 そう言った。

「気にしてないからいいよ。気をつけてね」

 トレニアードはもう一度深く頭を下げると、街へと駆けて行った。

  


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