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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
グラータ訪問

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魔族と人間


 3ヵ国が帰国した後、クレールさんか手紙が届いた。

 共通語で書かれた手紙にはアラシャでの生活の様子や、今手掛けている絵について書かれていた。

 アラシャは今雨季にあたるらしく、珍しい花が咲いていた、と便箋の端に黄色とオレンジの花弁をした花が描かれていた。他にも街の様子、空にかかった虹の絵もあり、すごく楽しめた。

 あたしは早速手紙を返し、3ヵ国との謁見があったことを報告した。特に印象深かったカミラ陛下の話は長くなり、買った服をたまに着ていると綴った。

 

「あたしも絵が描けたらなぁ……」

 美術2のあたしの画力では、伝えたい事も伝わらないからやめておいた。

 本当を言えば仕事の事も少し書きたかったけど、うっかり情報を漏らしてはいけないので取り止めのないことしか書かなかった。

 そう言えば、タハルカ陛下は回復魔法師達や診療所の人を交えて会議してること知ってたな……。薬開発に挑んでいることも。内容までは言われなかったけど……。

 これまで5人の国主に会ったけど、その事を指摘されたのはタハルカ陛下だけだった。

 …………これってどうなんだろう?

 あの時はダンスに困って深く考えなかったけど、ラディウスかヘルムートに伝えた方がいいのかも……。


 

 あたしは早速ヘルムートに風話を送った。

「ヘルムートさん、いいですか?」

『どうしました?』

「ちょっと思い出したことがあって……。相談したい事があるんですけど」

『ちょうどグラータの件で、私からも話があります。これからお屋敷のラディウス様の部屋まで来て頂けますか?』

「分かりました」


 そこで風話は終了した。

 気に過ぎなら、それはそれでいいし……

 それにしても、お屋敷のラディウスの部屋って、今まで入ったことないな。


 

 あたしは林を抜けるとお屋敷の門の前に立つ衛兵さんに会釈し、中へと入った。

 いつものように廊下を歩いていくが、メイドさんや執事さんがみんな頭を下げてくる……。使用人の人達だげじゃなくて、騎士や兵士の皆さんも。

 ……なんで?

 以前のように震えたりビクッとはされないけど、これはこれで居心地悪い……。


 

 ラディウスの部屋はお屋敷の一番奥にある。こちらも豪勢な扉で、ドアノブ一つとってもキラキラしてた。掃除が行き届いてる。

 ノックするとヘルムートの声で「どうぞ」と聞こえる。

 重い扉を開くと、2人は6人家族の食卓か?という大きさのテーブルの前に座っていた。部屋は高級ホテルのスイートルームか!というほどの広さ。

 ドアが奥にあるから、あっちが寝室?それで向こうがトイレ?あっちはお風呂であの扉は……なんだろう。

 とにかく、最初の部屋はリビングっぽかった。

 私室のためか、城の執務室のように豪華ではなく、わりと落ち着いた色合いの壁紙、シャンデリアだ。こっちの方がラディウスのイメージには合うかも。


  

「ヒカリ、ここへ座れ」

 ラディウスが座っている向かいのソファを指さした。このソファも一つが三人掛けて横幅広々。あたしはソファの真ん中に掛けると2人を見た。

「初めてだね、ここに呼び出すなんて」

「たまたまこっちに帰って来ていたからな。ヒカリにとっても近いから、その方がいいだろう」

「それで?さっき言っていた思い出した事とはなんですか?」

「あたしの話が先でいいんですか?」

「グラータの件の方が長くなるでしょう?」

「あぁ、それもそうですね」

 

 あたしは膝に手を置き、なんてことなく話し出した。 

「クレールさんから手紙が届いて読んでたんだけど、その時ふと夜会の事を思い出してさ」

「夜会?」

「タハルカ陛下とダンス……踊った時の事。あの時ね、回復魔法師や診療所の人を交えて会議してることを指摘されたの。薬開発に挑んでいることも。内容までは言われなかったけどさ。今まで5人の王様と会ったけど、そんな事言われたのはタハルカ陛下だけだったなぁ……と思……って――」

 

 最後が尻すぼみになったのは、2人の顔色が明らかに変わったから。

 すごく硬い顔をしてあたしを見ている。ヘルムートなんて睨んでるの?ってくらいの形相。

 

 あれ…………。

 コレってもっと早くに言うべき事だった?

 

「ヒカリ、それは本当か?」

 ラディウスがいつになく真剣な声で尋ねてきた。

「う、うん……」

「そう言えば、魔獣の森の件も知っていたな――」

「ええ。怪しいとは思っていましたが、これでほぼ確定ですね……」

 

 暗く重い口調で、2人にしか分からない納得の仕方をしている。どう見ても不穏な空気しか感じない。

 

「このまま泳がせますか?」

「……いや、さっさと炙り出してしまおう」

「であれば、特定を急ぎます」

 な、何……?

 いつなく怖い顔つきでそんな不穏な事を言うから、あたしが聞いていい話か分からず、

「あの……一旦帰ろうか?あたし、あんまり聞かないほうがいいんじゃ……」

 立ち上がりかけると、

「いや、このまま聞いていろ」

 ラディウスに座るようにジェスチャーされた。

「でも……」

「ヒカリが聞いておかなくてはいけない話です」

 ヘルムートからもそう言われ、またおずおずと腰掛ける。

「何も詳細は話さなかったか?」

「勿論。口外しない方がいいと思ったから……」

「踊った時、魔法を使われたか?前手を握られた時、頭がふわふわしと言っていただろう?あれと同じ状態になったか?」

「ううん、なってない」

「――つまり、会議の内容にはあまり興味がなかったのか……」

「そうでしょうね。他にどんな話をしましたか?」

「えっと……アラシャへの移住の件。あとはアラシャの風土とか、とりとめもない話」

「移住の事は謁見の時にも尋ねられていたな……」

「余程ヒカリにアラシャに来て欲しいのでしょう」

「え?」

「となれば、やはり目的はヒカリの身柄か」

 どんどんと話を進められ付いていけず、

「ち、ちょっと待って!ちゃんと説明してよ」

 オロオロと2人を見た。

「……ヘルムート」

 ラディウスが言うと、ヘルムートは一瞬で魔法を発動させた。虹色の膜が見えたかと思うとすぐに目に見えなくなる。

「盗聴防止だ。これで話せる」

 ラディウスは少し前のめりになると、真面目な顔であたしを見た。

「タハルカは召喚者達の振り分けをする際、一番ヒカリに興味を持っていた。本人は来ていなかったが代理の王佐、ミッドレストが出席していた。最後まで俺とやり合い、粘っていたんだ」

「うん……」

「タハルカ陛下はもともと、ソルセリルが好きではありません。建国の折にも、かなり強く反対されていました」

「どうしてですか?」

「俺達が魔族だからだ」

 え?

「……それだけ?」

「それだけだ。魔族が嫌いなんだ、タハルカは」

「あれだけ反発していたにも関わらず、建国後は国交を結ぼうとされたのです。そして実際、取り付けられました。色々と理由をつけていましたが、我々を監視ししたかったのでしょう。疎んじてくれた方がまだ良かったです」

「監視?……どういうことですか?」

「事あるごとに介入してくるんだ。政策や他国との交渉事にさえ首を突っ込む突っ込んでくる。鬱陶しくてかなわんが、邪険にもできん」

「そんな事してどうするの?」

「邪魔をして、難癖をつけてくる。反発したり気に食わない事があれば、それを理由に戦争をしたいんだろう」

「え?」

「魔族は滅べばいいと思っいるヤツだからな。戦争のきっかけが欲しいのさ」

 

 そんな事ある?

 一国の王様でしょ?

 

「そんな……。国王がそれでいいの?」

「いいもなにも、タハルカが王だ。人間だから寿命が長くないから、耐えようと考えていたんだがな。幸い、アイツに子供はいない。だが、状況が変わった」

 ラディウスは一際眉根を寄せた。

「ヒカリだけは諦めるつもりがないらしい……。城の内部に間者が紛れている。そいつから内部情報を得ているんだろう。だから会議のことも薬開発の事も知っていた」

「でも、ならなんでわざわざあたしに話したの?こうやってラディウスにバレるじゃない?」

「バレてもいいからだ」

「…………どういうこと?」

 あたしはわけが分からず、ラディウスに尋ねた。

「バレて間者が捕まっても、まだ手があると言うことだ。その間者は捨て駒だ。捕まえても自害するだろうな」

「ええっ?!」

「だが、見つけないわけにはいかん。このままだとどんどんと情報を流される」

「すぐに炙り出しますので、ご心配なく」

 平然と言うヘルムートを他所よそに、あたしはラディウスに詰め寄った。

「ち、ちょっと待ってよ!その人死んじゃうの?!」

「間者はそれくらいの覚悟で侵入してくる。自害しないように注意しても、色々と縛られているから無理なんだ」

「縛られるって?」

 尋ねたが「……知らないほうがいい」と静かに言われた。その静かさが逆に怖くて、あたしはわずかに身震いした。

「――そこまでして、なんでソルセリルの事が知りたいの?」

「ヒカリが欲しいからだろう」

 あっさりと言われたが、理由になっていないとあたしは思った。

「…………なんで?あたしの力が欲しいの?」

「それもあるが、最大の理由は違うだろうな」

「な、何?」

「俺が気に入っているからだ」

「………………は?」

「ヒカリの身元引き受けの時、最後まで粘ったのがソルセリルとアラシャだ。俺が折れず勝ち取ったのが癪だったんだろう。しかもヒカリは人間だ。魔族の国に人間を、しかも女を取られたくない。そんなところだ」

「それにヒカリはタハルカとの謁見の際、ソルセリルに残ることを希望した。魔法まで使ってヒカリの心理を探ったが、ちゃんと本音だったので腹が立ったのでしょう。どうしても手に入れる、と躍起になっていますね」

 

 なに?その負けず嫌いの子供みたいな理由は?

 

「タハルカ陛下は人の心を暴くことが得意です。他にもスキルをお持ちのようですが、詳細までは分かりません……。発動条件はおそらく、皮膚に触れること。今後、タハルカ陛下と会う機会があれば注意して下さい」

 ヘルムートの忠告は半分も入ってこなかった。

 あまりにも稚拙な考えに愕然としていた。

「そんな理由で間者を紛れ込ませてるの?命懸けの仕事をさせてまで?」

「ええ。そうです」

「……信じられない」

「信じられなくても、これが現実だ。タハルカはとことん魔族が嫌いだ。元が人間本位の考えだからな。そう言う人間も多いが、アイツは少し異常だ」

 

 人間本位……。それって差別ってこと?

 

 あたしはアリウェ陛下の言葉を思い出した。 

――ソルセリルの各種族が人間に対して何を行なってきたか、理解した上で助けようとしているのですか?

――なぜ魔族の国がこれまで出来なかったのか、ドワーフ、エルフ、獣人族がここまで人口減少した理由は?多民族国家であるソルセリルに、人間がほとんど暮らしていない理由をご存知か?


 ここに繋がるのだろうか?

 結局、あたしは何も調べないままでいる。

 知るのが嫌だったからだ。歴史も大切だけど、あたしが見て感じたことを大切にして接していきたいと思ったから、あえて調べなかった。


「ヒカリが気に病むことじゃないぞ」

 どんよりと沈んだあたしに、ラディウスはそう言った。

「ヒカリはこれまで通り、好きにしていればいい。警戒は必要だが、緊張の糸を張りすぎても疲れるからな」

 そう言ってくれたけど、あたしが気にしているのはそこじゃなかった。

 

 アザルスにいた頃からこっちの人間達とは今までほとんど会わなかった。

 人間達が魔族をどう思っているのか、聞いたことがない。

 5人の人間の国王を見ても、気にしない人が3人だった。うち2人はラディウスに酷く怯えていた……。普通はそっちの反応なんだろうか……。

 

 確かに、魔族の人たちは容姿が様々だ。慰霊祭の時、お屋敷やお城で働いている人、職人さん、街を歩く国民の皆さん……。一様にして人間とはかけ離れた姿をしている。でも不快な思いとか、人間だからと蔑まれたことは一度もない。

 だから人間達が魔族の皆の何に怯えるのか、理解できなかった。それはあたしが異世界人だから?それともこの世界の人間達と魔族達の事を知らないから?

 

「ヒカリ、聞いているのか?」

 ラディウスが顔を覗き込んできた。

「お前の身の振り方の話をしているんだぞ?何よそ事を考えている?」

 

 あたしはどうしても、悶々とする気持ちを抱えきれなかった。

 だって、こんなにも気を使ってくれ、優しくしてくれるのに……。

 

「ラディウス、こっちの人間の皆さんって、魔族への差別が根強いの?」

「……は?なんだ?急に」

「さっき言ってたじゃない。人間本位の考えが多いって……。あたし、こっちの世界で人間の皆さんとはほとんど会ったことがないから……。国王5人がほぼ初めてだよ。3人は普通だったけど、ニルス陛下とカールス陛下は怯えてるように見えた……。あの反応が普通なの?」

 ラディウスとヘルムートは少し顔を見合わせた。何を今更、というような表情に見えた。

 

「まぁそうですね。今や人間がこの世界の大半を占めますから。我々の方が少数派です。他国にいけば、ああいった反応が大半です」

「分け隔てなく自由奔放に振る舞えるヒカリが珍しいんだ」

 当然のようにそんな事を言ってくる。

「そう言えば、ヒカリは一度も俺たちを恐れたりしないな」

 入国の際、キールにもそう言われた。我らのような魔族は恐ろしいのでは?って。

 そんなことを思ったことない。

「だって、怖くないから」

 2人を改めて見ても、恐怖なんて感じない。

「なにも嫌なことされてないし、敵意も向けられたことないよ?そんな人達を怖いなんて思わないよ」

 

 ラディウスもヘルムートも表情こそ変えなかったが、目が点になっていた。

 そんなに驚くこと?

 

「ソルセリルに来て職人さんや使用人さん、街の国民の人達とも会ったけど、罵倒されたり虐められたりしたことない。冷たい視線を向けられたこともないし、今だって心配して色々と言ってくれるじゃない。そんな人たちを怖いなんて思えない。あたしにとっては、アザルスでの視線や扱いの方が余っ程嫌だった……」

 

 あの国で浴びた視線も冷たい眼差しも、ハッキリと思い出せる。離れてみると、よくあんな場所で生活していたな、と思う。敗戦後はだいぶ柔らかくなってたけど、それでも記憶には染み付いた。

 

「力や魔力のことは言っても、ラディウスもヘルムートさんも、あたしを人間だからって言った事ないでしょ?他の誰からも言われたことない。だから魔族の国にいるって事、忘れちゃうんだよね……。ニルス陛下とカールス陛下の反応とか、タハルカ陛下の魔族差別発言を聞いてやっと実感したところ……。この世界にも差別があるんだって、ショック受けてる……」

 しょんぼり肩を落としていると、

「魔族の国にいる自覚がなかったのか?これだけ魔族に囲まれて生活してきたのに?」

「ないよ。全然感じたことない」

 断言すると、

「やっぱりお前は変わっている」

 揃って微笑み、柔らかい目つきをしていた。

「あたしが異常ってこと?」

「異常とは言わん。ただ、ヒカリのような人間ばかりであれば、ソルセリルなんて国を創らなくてすんだ」

 

 その一言で、魔族が人間からどう扱われてきたのか分かった気がした。

 建国の理由は沢山あるんだろうけど、それも大きな一つなんだろうな、悲しいけど。

 

 だから、これだけは伝えておこう。

 

「あたし、変わらないよ。魔族は怖くないし、嫌いにもならない」

 

 魔族は優しい。親切で、いい人ばかりだ。

 他の国の人も、それを分かってくれればいいのに。 


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