召喚と召喚者について
召喚と召喚者について
ロイドさんはそれから、ラターナ村について話してくれた。
ラターナ村は召喚者専用の村で、地球の様々な国から召喚された人々が住んでいる。300人ほどの集団だが、1人ひとりの職業も能力も様々らしい。
職業はみな違い、被ることはないそうだ。一つの職業につき一人が召喚され、就業を強制される。
召喚の代償に得られる力は実に様々で、ロイドさん自身もラターナ村の住人の3分の1も把握していないらしい。
授かった力のレア度と重要性によって住居区域が分けられ、5区が一番平凡、1区が特例的な力の持ち主が住むという。
ロイドさんは風を操る力、ミシェルさんは物を浮かせる力らしい。どちらもごく平凡な力で、特段、国から必要とされない力であるため、5区に住んでいるという。
「ヒカリは1区でしたね。あとで居住区へ案内しましょう。ヒカリは1区の4人目の住人になるので、すぐに皆さんの顔は覚えられると思いますよ」
特例的な力を持つ人は4人しかいないのか……。
300人のうちの4人。
なんとも少ない。他の人はどんな力を持っているのだろう……。きっと誰もが気になる事だろうが、できれば力の事は伏せておきたかった。殺人の力なんて知られないほうがいいに決まっている。
あたしの暗い表情を見て心中を察してくれたのか、ロイドさんは、
「ヒカリの力が何なのか、言わなくてもいいですよ」
努めて明るく言ってくれた。
「公にしたくない人も多いですから。特に1区の方々はそうです。ラターナ村の人達は、無理に聞こうとはしません。私も把握する義務はありませんので、安心してください。全てを知っているのは国の重鎮だけです」
「……そうなんですか」
これにはホッとした。自己紹介がてらに力を披露したり説明する決まりだったら、どうしようかと思った。
さらにロイドさんは召喚についても教えてくれた。
召喚の儀式はとても複雑で、供物も大量に必要であるため他国はやっていないらしい。
アザルス王国が召喚にこだわるのは、仕事の即戦力となる人員が確保でき、この世界にない知識と技術を得られるから、という理由だ。
「表向きの説明はそうですが、本音は違います」
「というと?」
「アザルス王国が本当に欲しいのは召喚者の力です。先ほども言ったように、与えられる力はランダムです。大半はごく平凡でありきたりな力しか授からない。
しかし極稀に、この世界の魔法にもスキルにもない特殊な力を授かる事がある。研究しても再現不可能な力で、国はそれが欲しいのです。いざという時の重要な戦力になり、他国への強い牽制になる」
なるほど。だから居住区も分けられ、あからさまに区別されるのか。
あざといこの国が考えそうな卑怯な手段だ。
しかし、1区の住人はあたしを含めて4人。これだけで戦争の戦力になるのだろうか?
「あの、1区の住人は4人しかいませんけど……。これって牽制になるんですか?」
「ならないでしょう。召喚者の詳しい力の内容は国家機密なので他国に漏洩している者がいない限り、知られていません。
召喚をしていることは、他国も知っていますがね。各国から召喚の儀式を止めるよう、何度も声がかかっていますが、抑制が利かないので経済制裁というカタチがとられました。召喚者が300人もいることを、他国がどう思っているかはわかりませんが……。召喚者の力について何も情報がなければ、脅威と感じるかも知れませんね。
現実を知っている私たちからすれば、なんの脅迫にもなっていないのですが」
ですよね……。
つくづくお粗末な国だ。ランダムな力の出現に頼り、自国の国民の生活を顧みず圧政し、戦争を起こすなんて……。
国は人で成っているというのに、今のやり方では国力を下げる一方だ。
「国にとってもデメリットは大きいんですよ。召喚しても帰還できないので、召喚者からの恨みを買いやすいし、年齢を選べないので若年者や高齢者が来ることもあります。
若年者は技術が未熟で教えられる技量がない。
高齢者は技術はありますが、当然死期が近い。体調が悪い者も多いので、働けないまま息を引き取る場合もあります。
また適齢年齢であっても持病によってはこの世界に治療薬がないので、悪化して死亡することもあるんです」
なんて非効率で非生産的なやり方なんでしょう……。
何より非人道的。
「まっとうに国民を育てる方がよっぽどマシなのでは……」
思わず心の声が出た。
「もちろんそうです。国民もそう思っています。しかし国はもう15年もこの方針を変えていない。そしてあろうことか、魔族の国に戦争を仕掛けた。国民はこの国に生まれたことを後悔しているでしょうね」
あたしはロイドさんの言葉の中に、聞き捨てならないセリフを2つみつけた。
「ちょっと待ってください。アザルス王国から魔族に戦争を仕掛けたんですか?」
「そうですよ。魔族の国といってもかなり平和主義な国でして、基本的に手を出さない限り何もしてきません」
「――そんな温厚な国にわざわざ戦争を仕掛けたんですか?なぜ?」
「魔族だからです」
「…………それだけですか?理不尽な扱いを受けたからでも、意味無く国民を殺されたわけでもなく?」
「はい。今まで見て聞いた王族の思考を考えれば、想像に難くないでしょう?」
「…………そうですね」
本当にバカだ。
これではどちらが魔の者か分からない。
呆れてため息をつくと、あたしはもう一つ気になったセリフを確かめるために口を開いた。
「あと、アザルス王国は召喚を始めて15年なんですか?」
「そうですね。私が召喚されたのが13年前です」
「…………15年で300人?1年で20人も召喚しているんですか?」
「はい。バカでしょう?」
「バカですね……。そろそろ言葉がなくなってきました……」
一体どれだけの税金を捨てているんだ?国民はさぞご立腹だろう。
「王都の人間が、異世界人に冷たい視線を向ける理由が分かりましたか?極めて非効率な手段で莫大な費用を費やし召喚を続け、自分たちの生活を圧制し続ける国に、ほとほと嫌気がさしています。そして国の金で衣食住を保障されている私たちを恨む」
「…………それはごもっともでしょう」
理由を知れば納得だ。深く同意してしまった。
つまり、あたしはあの視線を受けるに値する召喚者ということだ。
国民が気の毒でならない。
しかし、戦争前ならさっさと国外に逃げてしまえばいいのに……。今からでも遅くないのではないか?
あたしはロイドさんにそれをぶつけてみたが、すでに不可能だと言われた。
「国境は封鎖されています。入国は出来るが出国が出来ない。各国からの経済制裁が始まってから検問もさらに厳しくなりました。本や新聞、手紙のやり取りでさえ、役人の介入があります」
「独裁国家ですね……」
もう逃げることは出来ないと言うわけだ。
魔族が襲ってきて、国を滅ぼしてくれるのを待っていると言うことか。
本当に、なんて国に来てしまったのだろう。
状況はあたしが考えていた何倍も悪かった。
早々に国を出ようと思っていたのに、国境が封鎖されているのなら意味はない。
戦争が終わるのを待つこともできるが、あたしの力を考えると戦争には必ず駆り出されるだろう。
そうでなくとも他国から見れば、どんな力を持つか分からない召喚者ばかりが住んでいる村だ。この村を魔族の人たちが見逃してくれるとは考えにくい。王都襲撃とともに一気に攻め込まれ、問答無用で殺されたらどうしよう…………。
怖い想像しか出来なくなってしまった。
「あの……ちなみに開戦の兆しはあるんでしょうか……」
恐る恐る尋ねたあたしに、ロイドさんは首を傾げた。
「さぁ……。そればかりは国のトップでなくては分からないでしょうね……。国家機密ですから」
「ですよねー…………」
すでにカウントダウンは始まっているのかもしれない。
これまでの状況をまとめると、いつ開戦してもおかしくないのではないかと思えた。
だから王都の人々は表情が暗い。仕事もろくにしない。しない、というより手につかないのだろう。
それはそうだ。王都が激戦地になるのは目に見えている。基本的に平和主義という魔族の皆様が、国民に慈悲をかけてくれればいいが……。
すっかり意気消沈してしまったあたしは、冷めたお茶を飲んだ。
本当に、明日からどうしよう……。こんな気持ちで今夜眠れるだろうか………。
明日の朝起きたら、悪い夢だったという可能性は…………ないよね……。
はぁ……と落胆のため息をつくと、ロイドさんが声を明るくして言った。
「随分と暗い話になってしまったので、一つ召喚者にとってのメリットをお話しましょう」
「メリット?」
「人によってはメリットではないかもしれませんが……。
召喚者は寿命が伸びるんです。5年で1歳の換算で、見た目もすぐには変わりません。私もこう見えて72歳なんですよ?」
「えっ?!」
どう見ても50代後半にしか見えない。
恐るべき、召喚の力……。どういう仕組みと原理なのかは分からないが、5年で1歳ということは、あたしが現在26歳だから……外観年齢80歳のおばあちゃんになるまでに240年かかることになる。
怖い…それは少し怖い………。
そんな途方もない時間をどう過ごせばいいのか………。
困惑しているあたしに反し、ロイドさんは楽しげに言った。
「身体が健康であれば、このメリットは大きいでしょう?戦争が終わり自由になったら、十分に人生を謳歌できます。好きな国に行って、好きな場所を見つけて暮らせる。
旅をするのもいいかもしれません。この世界には人間だけでなくドワーフにエルフ、巨人、有翼人、妖精もいますから、地球では決して会えない人達と繋がりが出来ますよ?知らない食物、植物、景色が広がっています。それこそ世界中に。考えるだけで少しワクワクしませんか?」
ロイドさんはニコッと笑った。
確かに、旅はいいかもしれない。
この世界がどんなものか、あたしもロイドさんも知らない。
知らないというのは最大の魅力だ。探究心が高まる。この世界にはどうしょうもない独裁国家のアザルス王国だけがあるわけじゃない。ちゃんと牽制をかけようとしてくれる真っ当な国々がある。
そこへいけば、こことは違う待遇を得られるかもしれない。もっと自由に、のびのびと好きな事ができるかもしれない。力の事を隠せれば、他の住人と変わらない生活ができるかもしれない。
あたしは少し希望を見いだせた。
ロイドさんに笑うと、
「なかなか素敵な世界ですね。ワクワクするし、楽しみな事がたくさん待っていそうです」
思い起こした気持ちを素直に言葉にした。
「そうでしょう?平和主義な魔族の皆様に、土下座でもして無抵抗であるアピールでもすれば、案外見逃してくれるかもしません」
「土下座って……。この異世界で土下座って意味あるんですか?」
「たぶん?明らかに敵意が無いことは伝わるでしょう?」
「まぁ……そうかもしれませんね」
「今からみんなで土下座の練習でもしましょうか?極意とか秘訣があるんでしょう?日本人の皆さんに講師をしてもらわないと」
面白おかしく言うロイドさんに、
「あたしは嫌ですよ?それに土下座に極意も秘訣もないです」
あたしは笑って伝えておいた。




