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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
ラターナ村と召喚者

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ラターナ村


 左右を騎士に挟まれ、あたしは王宮をあとにした。王宮内を歩くと、周りの人からは酷く冷ややかな目で見られた。

 

 魔力がある者を殺す力。

 

 それがどんなものか、想像に難くない。人を殺せる力だから、こんなにも睨まれるのだろうか……。

 自分で選んだ力じゃないのに……。


 

 王宮を出ると広い庭を歩いて、城壁を越えたら街に出た。

 王都は活気がなく、鬱々とした場所だった。人々は表情暗くそそくさと歩き、下を向いている。あたしを見ると動きを止め、あからさまに嫌な顔をしたりため息をつく。

 なんでこんなにも嫌な顔をされるんだろう……。

 

 あたしは王都の人たちの視線を避けるように街を観察した。噴水はあるが水は出ておらず、枯れた落ち葉で埋め尽くされている。露店はあるが品物は数えるほどしかない。

 石畳の地面は割れ、風に乗って悪臭がした。下水のような匂いで、あたしは思わず顔をしかめた。

 

 これが王都……。

 

 どう見ても国の中心部とは言えない。


 

 街を歩き、崩れそうな石橋を渡ると、むき出しの地面の道に変わる。森に抜ける道が1本続いているが、そのすぐ横にあからさまに目立つ場所があった。

 3メートルはあろうかという高い木の壁に囲まれた場所。門の前には詰所がある。

 騎士が中に入り声をかけると、鎧と言うにはみすぼらしい防具をつけた中年男性が出てきた。

 やはり王宮勤めの騎士と比較すると背格好も全然違う。中年男性は年齢の割には痩せていて顔色も悪い。とてもじゃないが、衛兵に向いていない。日本の高校生の方が適任なのではと思うほど、貧相な体つきだった。

 騎士は威厳ある声で、

「新しい住人だ。1区だ」

 指示すると、中年男性は何も言わず門に向かった。

 異様に大きなかんぬきを外すと、扉が重い音をたてて開く。

 騎士達の付き添いはここまでで、無言で中に入るよう促された。


 

 そこは日本昔話に出てくるような村だった。

 簡易的にしか作られていない平屋。台風がきたら絶対に雨漏りするし、冬は外と変わらないくらい寒いだろうと容易に想像できた。

 井戸の周りには女性が幾人かいて、その横で子供が3人かけっこをしてはしゃぎ、男性が2人談笑している。

 王都よりは雰囲気がいい。

 何よりあたしを安堵させたのは、誰も睨んでこないことだった。あたしに気がついても冷たい視線を向けてこない。

 

 良かった……。ここに住めるなら安心かも……。

 

 先程までの空気の中で生活しろと言われたら、流石に安眠できそうにない。それほどまでに殺伐とした空間だった。

 あたしは肩の力を抜くように小さくため息をつく。

 王都の人達の態度も気になるが、なによりこの国、この世界についてもっと説明が欲しかった。

 

 今までの待遇を振り返っても、あんまりな扱いだ。帰還できない人間を勝手に召喚しておきながら、詫びもない。王族の横柄な態度といい贅沢三昧の生活といい、この国はろくなものではない。

 おまけにこの国は魔族との戦争を控えている。きっと戦争に勝っても、良くない方向に進むだろう。 

 そうなれば、あたしが前線に出る必要も感じない。義務と言われても関係ないことだ。思い入れも親しい人もいない国のために命を張りたくない。

 情報が集まったらすぐにでもこの国を出たい。なんとか道を見つけて抜け出して、隣国にでも逃げたほうがいいだろう。


  

 悶々と自身の身の振り方を考えていると、

「よろしいですかな?」 

 いつの間にか、目の前に男性が立っていた。

 

 50代後くらいに見えるその人は、目を細めてあたしを見ている。

「新しく召喚された方と伺っていますが、間違いありませんか?」

「はい。井瀬光凛と言います」

「お名前からして、日本の方ですか?」

「はい、そうです」

「私はアメリカ人のロイドと申します。このラターナ村の村長をしています」

「ラターナ村……」

「少々長い話を聞いてもらわなくてはいけません。このまま私の家に来ていただけますか?」



 あたしはロイドさんの家にお邪魔した。奥さんだというミシェルさんが挨拶をしてくれ、温かいお茶を入れてくれる。

「色々と大変だったでしょう?王宮の人達は親切とは言えないから……」

 そう言われ、あたしは心からジーンとした。

 この世界に来て初めての温かい言葉に胸打たれ、泣きそうになった。

「ここには地球人しか住んでいないから、少し肩の力を抜いてください。全員がヒカリと同じ境遇です。皆さん召喚直後はパニックになりますから、気張らなくていいですよ。日本人の方とお会いしたければ紹介します。同年代の女性の方も何人もいますから、沢山お話すれば少しは気も晴れるでしょう」

「ありがとうございます……!」

 

 ここまで気を使ってくれるのは本当に嬉しかった。その温かさと夫婦の親身な言葉が心に滲みる。

 

「良かった……。やっと話ができる人に会えて……。安心しました」

「みなさんそう言われます。召喚者は国の人達からろくな扱いをされませんから、ここが唯一の安息の地なんです」

 やはりそうなのか。

「どうしてそんな酷い待遇になるんです?」

「それを説明するには、まずこの国とラターナ村について知っていただく必要があります」

 そう言うとロイドさんは表情を引き締め、真剣な顔をした。

「ここから重要な話をします。長い話になるので、お茶を飲みながら聞いてくださいね」


 

 

 ラターナ村は召喚者専用の村で、現在300人ほどが住んでいる。一つの職業につき一人が召喚され、その代償に授かった力のレア度と重要性によって住居区域が分けられる。

 5区が一番平凡、4区が「あれば便利」程度の力。

 3区が軍事転用可能な力、2区が魔法の中でも高度な力。

 そして1区が特例的な力の持ち主が住むという。

 

 特例的な力とは、この世界の魔法にもスキルにも存在しない、研究しても再現不可能な力のこと。

  

「表向き、仕事の即戦力となる人員を確保できるからと説明していますが、アザルス王国の本音は違います。1区相当の高い力が欲しいからです。莫大な費用をかけて年間20人も呼び寄せ、躍起になって魔族の国に牽制をかけようとしている。しかしそれが原因で国の財政を圧迫し、国民は貧困にあえいでいます。各国から召喚儀式をやめるよう要請を受けても無視し続け、現在、経済制裁を受けて疲弊している、という状態です」

 

 いやいや……。

 どう考えてもおかしいでしょう?

 

「ち、ちょっと待ってください!なんで国力を下げてまでそんなことをするんですか?」

 この質問に、ロイドさんは簡潔に答えた。

「魔族との戦争に勝つためです」

「―――それだけ?」

「はい。それだけです。王族は新国家の魔族の国、ソルセリルを異様に敵視しています。国として認められないのでしょう」 

「アザルス王国が魔族の国に何かされたんですか?国民を殺されたとか、国土に侵入されたとか……」

「いいえ。何もされていません。魔族の国といっても平和主義で、手を出さない限り何もしてきません」

 

 そんな国にわざわざ戦争をふっかけたの……?

 あたしは開いた口が塞がらなくなった。

 本当にバカだ。

 これではどちらが魔の者か分からない。

 

「ヒカリの気持ちは分かりますよ?唖然とするでしょう?しかし、それがこの国の王族なのです」

 

 あたしは呆れてため息をついた。

 謁見でろくな国じゃないと思ってたけど、想像以上にクズだった……。


「国民が異世界人に冷たい視線を向ける理由が分かりましたか?莫大な費用を費やし召喚を続け、自分たちの生活を圧制し続ける国に、ほとほと嫌気がさしています。そして国の金で衣食住を保障されている私たちを恨む」

「…………ごもっともです」

 

 とてもじゃないが、村の外を歩けそうにない……。

 国王からは明日から仕事をしろ、と言われたが、そんな痛い視線を浴びてまでする意味があるんだろうか?

 

「あの……そんな状況でも仕事に行くんですか?」

「ええ。行かないとラターナ村全体がペナルティを食らいます」

「そ、そんな……!」

 

 理不尽過ぎる!

 

「行くといっても、僅か数時間です。今は戦争前ということで国民の意欲がすこぶる落ちていますから、これといった仕事もありません。なにより物資が少なく物価は高騰していますから、日用品を買おうにも、買えない状態です。頼りの綱だった周辺諸国からの物資援助もなくなっていますからね」

 

 もはや国として破綻している……。 

 国民が気の毒でならない。 

 しかし、戦争前ならさっさと国外に逃げてしまえばいいのに……。今からでも遅くはないのでは?

 あたしはロイドさんにそう疑問をぶつけてみたが、すでに不可能だと言われた。

「国境は既に封鎖されています。入国は出来るが出国が出来ない」 

 万事休す――。

 

 本当に、なんて国に来てしまったのだろう。

 状況はあたしが考えていた何倍も悪かった。

 早々に国を出ようと思っていたのに、国境が封鎖されているのなら意味はない。こうなると、魔族の皆様がこの国を滅ぼしてくれるのを待つだけという事……。


 魔族の方々はあたしの力を見逃してくれるだろうか?

 …………いや、普通に考えれば討伐対象だよね――。

 怖い想像しか出来なくなってしまった。 


  

 すっかり意気消沈してしまったあたしは、冷めたお茶を飲んだ。

 こんな気持ちで今夜眠れるだろうか………。

 明日の朝起きたら、悪い夢だったという可能性は――――ないよね……。


  

 はぁ……と落胆のため息をつくと、ロイドさんが声を明るくして言った。

「随分と暗い話になってしまったので、一つ召喚者にとってのメリットをお話しましょう」

「メリット?」

「召喚者は寿命が伸びるんです。5年で1歳の換算で、見た目もすぐには変わりません。私もこう見えて72歳なんですよ?」

「えっ?!」

 どう見ても50代後半にしか見えない。

 恐るべき、召喚の力……。

 どういう仕組みと原理なのかは分からないが、5年で1歳ということは、あたしが現在26歳だから……外観年齢80歳のおばあちゃんになるまでに240年かかることになる。

 

 怖い…それは少し怖い………。

 そんな途方もない時間をどう過ごせばいいのか………。

 

 困惑しているあたしに反し、ロイドさんは楽しげに言った。

「戦争が終わって自由になったら、十分に人生を謳歌できる時間があります。好きな国に行って、好きな場所を見つけて暮らせる。旅をするのもいいかもしれません。この世界には人間だけでなくドワーフにエルフ、巨人、有翼人、妖精もいますから、地球では決して会えない人達と繋がりが出来ますよ?知らない食べ物、植物、景色が広がっています。それこそ世界中に。考えるだけで少しワクワクしませんか?」

 ロイドさんはこれまでの暗い話を吹き飛ばすかのように、ニコッと笑った。

 

 確かに、旅はいいかもしれない。

 この世界がどんなものか、あたしもロイドさんも知らない。知らないというのは最大の魅力だ。探究心が高まる。

 

 この世界にはどうしようもない独裁国家のアザルス王国だけがあるわけじゃない。ちゃんと牽制をかけようとしてくれる真っ当な国々がある。そこへいけば、こことは違う待遇を得られるかもしれない。力の事を隠せれば、他の住人と変わらない生活ができるかもしれない。

 

 あたしは少し希望を見いだせた。

 ロイドさんに笑うと、

「なかなか素敵な世界ですね。ワクワクするし、楽しみな事がたくさん待っていそうです」

思い起こした気持ちを素直に言葉にした。

「そうでしょう?暗いことばかりじゃありません。どうか、少しずつこの世界に慣れていって下さい。ヒカリには我々がついてますから」

 

 

読んでいただきありがとうございます!とても励みになっています。

誤字・脱字報告もありがとうございます。助かっております。

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