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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
それぞれの思惑

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30/64

特訓と動向探り


 ヘルムートの話し通り、あたしは6日後に家に戻った。

 守りを強化すると言ってたけど、見た目はなんにも変わらない。

 まぁ、見て分かるものじゃないから仕方ない。


 家に入るとヘルムートと2人で膝を突き合わせて、いくつか大事な話し合いをした。


 一つはいざという時の対応。

「大抵のことなら防護魔法が反応しますので、私かラディウス様に伝わります」

「指輪の使用はどうしましょう?もしあたしが力を発動させたら、魔道具である指輪は壊れてしまうんじゃ……」

「ええ。おそらく使い物にならなくなるでしょう。しかし、そこは心配しなくてよろしい」

「でも、貴重な物なんですよね?」

「確かに貴重で文化財的な価値がある品ですが、ヒカリが心配することではありません」

「いやいや……。そこまで価値のある物なら、心配しますよ……」

「とにかく、自身の力の発動が必要と思ったなら迷わず発動して下さい。いいですね?」 

 あたしは返事が出来なかった。

 指輪の貴重性を考えると、同じ指輪ものが幾つもあるとは思えない。代用品はあるかもしれないけど……。

 無言でいるあたしに追い討ちをかけるように「いいですね?」と顔を覗き込んできた。


「……力を発動したい場合、一旦指輪を外して範囲外に置くのはアリですか?」

「――ありですが、緊急時にそこまでの余裕があるとは思えません」

「そうですけど……。もし置き去りにした場合、指輪の魔力は悪用されませんかね?」

「本来は誰でも使用可能な魔道具ですが、ヒカリしか使えないよう術式を加えているので安心して下さい」

 これには驚いた。ラディウスからは『追加の魔法付与は出来ない』って聞いてたのに……。

「かなり複雑な術式がかけられてるから、上書きは出来ないんじゃなかったんですか?」

「ええ。かなり苦労しました。原動力となるのはラディウス様の魔力ですからね。その強大な力を悪用されるのを防ぐための対策でもあります」

 

 ヘルムートがここまで言うのなら、相当な苦労があったんだろうな……。

 やっぱり壊すとか出来ない……。


「自身の力の力を発動するか、指輪の魔力を使って魔法を行使するか。その決断はヒカリにしかできません。どうか、その判断を誤らないように」

 そこは正直なところ、自信はない。きっとそういうのは場数をこなさないと出来ないだろうし……。

 あたしの顔に迷いを見たのだろう。ヘルムートは、

「どうしても判断出来なければ、風魔法でわたしかラディウス様に助けを求めても構いません」

 そう言ってくれた。随分と親切だな……。

 最初の頃と比べると待遇が違う。

 あたしが残した功績、とやらのおかげなのかな?

「風魔法……ですね。分かりました」

「練習がてら、たまに飛ばしても構いませんから。いざという時に使えなくては意味がありません」

「は、はい……」


 

 次に話し合ったのは仕事の話。

 現時点であたしが必要と考えている事を伝えた。

 外科的処置に必要な器具の確保、それを持ち運ぶ方法、回復魔法師が活躍する患者を選別するトリアージ、切開、止血、縫合など取り入れたい処置方法、ポーションの使い方、等級1と2の回復魔法が使える人材の活かし方、あとは麻酔と麻薬と消毒。

「麻酔……」

「使い方を誤れば毒になります。図書室の薬草図鑑にはなかったので、毒薬の方に書かれているのかなと思ったんです。禁書庫とかありますか?」

「城にはありますが、閲覧禁止にされている書物もありますから……。私は入室できるので、今度見ておきます。該当の薬草があれば、お知らせします」

「助かります」

 なんとか一歩進めそうだ。自分が動ける範囲では手詰まりになるところだったから助かった。

「それにしても、随分と考えなくてはいけない項目がありますね……」

 先ほどあたしが挙げた内容を書き留めた紙を見ながら、ヘルムートは唸った。

「中でもこの『とりあーじ』というもの……。かなりの批判がきそうです」

「でも実際の現場では必要なことです。誰だって回復魔法師の治療を望むでしょうから。必要ない人まで診ていたら、今までと変わりませんよ。傷に見合った回復が出来ればいいんですから、そこをしっかり選別して治していかないと」

「それはそうですが……。要人達だけでなく、患者もいい顔をしないでしょうね……」

「そこを何とか説得するのがあたし達でしょ?」

「わかっています。国民全員の要望を聞いていては、国は回りません。出来るだけ多くをすくっていきたいですがね……」

「頑張りましょうね、ヘルムートさん。物凄く頼りにしてますから」

 ヘルムートは困ったように笑うと、

「私なんて頼っても、共倒れになるだけかも知れませんよ?」

「そんなわけないですよ!ヘルムートさんがいなくては途端に動くものも動かなくなります。ラディウスだってそう思ってるはずですよ?」

 そう言うと、少し目に影が落ちた。

「…………私はそこまで優秀ではありません」

 顔に、何か憂鬱な影が漂っている。謙遜しているわけではないと分かる表情に、あたしはしばし言葉が出なかった。

 ヘルムートは沈んだ微笑を作ると、

「出来る限りのことはやりますが、この計画の要はヒカリです。そこは忘れないように」

 釘を刺すようにそう言った。

 今は深く追求してはいけない気がして、

「分かってますよ」

 とだけ返事した。



 ヘルムートが帰ると、あたしは久々に剣と弓の自主練をした。

 かなり期間が空いてしまい、素振りをしただけで体が鈍っているとすぐに分かった。ストレッチ、軽いジョギングをすると練習用の剣を取り、ヘナン師匠に教えてもらった型を練習する。


 体を動かしながら、頭ではこれからの事を考えた。

 

 とりあえず、今後の方針をヘルムートに伝えた。

 外科的処置に必要な道具は、一から考案する必要がある。職人と話し合い、意見の擦り寄せをしなくちゃいけない。器具を入れる頑丈な鞄もいるから、革製品の職人さんとはまた顔を合わせることになるだろう。

 トリアージについては紙だとすぐに破けてしまうから、魔法で色分けをしたほうがいい。以前アザルス王国で見た体が光る魔法……。あれが応用できないかな。ヘルムートに聞けばよかった……。

 それに具体的な外科的処置。あたしは外科の経験はあっても野外での処置、それも戦場での経験はない。また図書室に行って色々調べなきゃ……。城の図書室の方が資料は多いだろうから、今度連れてってもらおう。

 あとは、あたし自身の魔法について。風魔法と水魔法で、上手く反撃する方法を考えなくちゃ。消費魔力が少なくて、簡単に相手の動きを封じる魔法……。気絶させるか、動けなくする程度の魔法でいい。逃げる時間稼ぎが出来ればいいんだから……。具体的な方法は追々考えよう。


 残るは武器をいかに上手く使うか……。

 あたしは一通りの素振りを終えると、手にしている剣を見た。

 これに力をのせられないかな……。

 手に持っているから、バリアを発動させればこの剣にも届かないだろうか?

 あたしは解除の呪文「エルマージ」を唱えると指輪を外し、安全な場所に置いた。

 剣を構え、いつものようにバリアを発動させると、剣先まで力がゆき渡る。試しに手から離してみると、地面に転がった剣は判定除外されてバリアが消える。また掴むとバリアに包まれた。

 なるほど……。手にしていればあたしの一部と判断されるらしい。

 なら弓はどうだろう?

 バリア発動のまま矢を射ると、10メートル先の的に刺さったままバリアは数秒発動していた。

 体から離れたあとでも、わずかな時間であれば力の効果は持続するらしい。魔獣や魔物であれば、狙って射止められそうだ。

 あたしはそのまま、バリア付与の矢の最大飛距離を調べるため、矢を放ち続けた。林の木に当てると枯れちゃうから、ちゃんと的だけに当てるように集中する。これがかなりいい練習になった。

 

 気がつけば日が傾きかけていたから、相当な時間集中していた思う。

 でもゾーンに入ったあたしは楽しくて夢中になってて、時間感覚が無くなっていた。

 だから「そろそろ休憩したらどうだ?」と声をかけられて、飛び上がるほど驚いた。

 振り返ると、また長身のザンバラ髪の男がいて、丸太の椅子に座っている。

「い、いつからいたの?」

「30分ほど前からだ」

 

 嘘……。全然気が付かなかった…………。

 

 呆然とするあたしを見て、

「気がついてなかったろう?随分と熱心だっからな」

 可笑しそうに口元を歪める。

「…………ねぇ、ラディウスでいいんだよね?」

 念のため確認すると「当たり前だろう」と不機嫌な顔になった。

「前回と同じ姿だろうが?」

「そうだけど……。警戒するに越したことはないでしょ?」

 ラディウスは変身を解かないまま、あたしに近づいてきた。まだちょっと不安で少し後ずさると、ラディウスはさらに不機嫌な顔になって、

「逃げるな。俺と分かる見分け方を教えてやる」

 と足を進めてきた。

 あたしはなんとか後退をやめる。ラディウスは目の前で立ち止まり、グイッと顔を近づけてきた。

 自身の目を指している。

「容姿は変えられる魔法だがな、目だけはいじれない。この目を覚えておけ」

 銀の虹彩がきらめく瞳。こんな目を持ってるのはラディウスだけだから、確かに分かりやすそうだ。

「あとは声と身長だな。これも変えられない」

「分かった」

 そう返事をした途端、あたしはハッとした。

「こんな話していいの?また盗聴されてたら、情報がバレちゃうよ?!」

 小声でそう言うと、

「すでに対策済みだから心配するな。小声になる必要もない」

 容姿をいつものラディウスに戻すと、家の中に入るよう視線で促された。


 

「家の対策は前より厳重だ。隙がないわけじゃないが、少しは緊張を解け」

 お茶をテーブルに置くとあたしも席につき、

「具体的どんな対策をしてるの?」

 前から気になっていた質問をした。

「ヒカリが知る必要はない。こういうのは知らないほうがいいもんだ」

 

 それはそれで不安だな……。

 

「プライバシーは守れてるんだよね?」

「ぷらいばし?」

「個人情報!あたしが家の中で何をしてるか、誰と話してるかとか。私生活が全部分かる、なんてことないんでしょ?」

「そこまで分かるか。許可なく立ち入る者があれば分かるがな」 

 よかった……。

「じゃあ、さっき練習してた剣と弓の事もバレない?」

「ああ。もともと隠蔽魔法がかかってるからな。あれは力の応用を考えていたのか?」

「うん。バリアだけじゃなくて、武器にも力を付与できれば攻撃力が上がるでしょ?」

「……攻撃力というより、致死率だろうが」

 まぁ、そうとも言うかな……。

「剣の腕も弓の威力もまだまだだから、少しかすめるだけでも効果が出るようにしたくて」

「随分と好戦的になったな?人は殺したくないんじゃなかったのか?」

「人には向けないよ。あれは魔獣とか魔物向け。人相手には魔法で何とかならないかなって考え中。動きを封じて逃げる時間を稼げればいいから、簡単な方法を模索する予定」

「ふん……。まぁせいぜい頑張れ」

 応援してくれるなんて、ラディウスもなんだか優しいな……。

「それよりヒカリ、大切な物を忘れていないか?」

「……………………大切な物?」

 ラディウスは懐からソエイラの指輪を取り出した。

「あっ!!!」

 練習に夢中で、すっかり忘れていた。おまけにラディウス話かけられたから、そのまま素通りして家に入ってしまった。

 あたしは慌てて指輪をもらおうとしたけど、ラディウスはあたしの伸ばした手が届かない所に、高く掲げてしまう。

「こんなんじゃ、簡単に盗まれるぞ」

 ぐぅの音も出ず、

「すいません……」

 小声で誤った。

「まったく……。せっかく魔力補給をしても装着を忘れては意味がないぞ?」

「…………わかってるよ」

 ラディウスが指輪を返してくれると、すぐに定位置の指にはめた。

「外したの初めてだから、完全に忘れてた……。ラディウスに話しかけられなかったら、ちゃんと思い出してたからね?」

「俺のせいか?」

 八つ当たりみたいだけど、ちょっとは事実だ。

 ラディウスは面白くない、と顔を歪めると不貞腐れたように、

「本当に俺のことを見直したのか?」

とこぼした。

「ヘルムートから聞いてはいるが、ヒカリの態度を見ていると、どうもそうは思えん」 

 え?何?

 何か期待してたの? 

「王様扱いされるって、期待して来たの?」

「違う!そこまで暇じゃない!」

 ぶすっと腕組みすると、黙り込んでしまう。

 本当に子どもみたいだな……。

「ごめんって。少し八つ当たりは入ってた」

 簡単な謝罪ではダメなのか、口を尖らせたままじっとあたしを見ている。

「ほら、前に言ってたお菓子あげるからさ」

 気分転換も兼ねて、お屋敷のキッチンを借りて作った焼菓子を目の前に差し出す。

「ここに持ってきても平気だったし、毒は入ってないよ」

 あたしは一つ手に取ると、パクっと噛みついた。

 昨日焼いたから少し硬い。

「雨の時期だからすぐに傷みそう……。昨日作ったからまだ平気だけど、早めに食べた方がいいかな。ほら、ラディウスも食べてよ」

「俺は処理係か……」

 文句を言いつつも、一つ手に取り食べている。

「これで少し借りは返せたね」

 笑って言うと、

「だから、菓子ごときで返せると思うな」

 結局、ラディウスは3個食べていた。


 

「そろそろ各国から表だった動向探りが始まる。早速、2カ国が公式にソルセリルにやって来るぞ。ヒカリも当然、会うことになる」

 ティータイムが終わると、ラディウスが本題を話し始めた。

「ち、ちょっと待って……。あたしも会うの?」

「当然だろう。ヒカリを見に来るんだからな」 

 ……珍獣じゃないんだから…………。

「アラシャとグラータの2カ国だ。あと数日で到着予定だな。先に来るのはアラシャだ」

「公式にってことは、ラディウスもお迎えするんでしょ?」

「ああ。近いうちにヒカリの衣装が城に届く。しばらく城へのいき来が増えるぞ」

「えぇ……。またドレス?」

「当たり前だ。他国の王に会うのに貧相な格好ができるか」

「こ、国王に会うの?!」 

「――誰と会うと思ったんだ?」

 

 まさか直々に国王があたしを見にくるなんて、考えてもいなかった。重鎮って聞いていたから、それこそ腹心の部下とばかり想像していた。

 また謁見になるのか……。

 

 考えて青くなるあたしを見て、ラディウスは「今から緊張してどうする……」と呆れていた。

「俺と会う時のように、自由奔放に振る舞っていればいいだろう?」

「それはちょっと……。他国の王様だし……。」

「待て、それはどういう意味だ?」 

 聞き捨てならない、とばかりにラディウスは前のめりになった。

「だって王様だよ?失礼になるじゃん」

「………………俺は失礼になってもいい、という事か?」

「うーん……。ラディウスとは色々とあったから、今更って思う」

 ラディウスはまた半目になっている。

 やっぱり王様扱いを期待してるじゃん……。

「お前はいちいち俺の気分を下げる事を言わないと気がすまないのか?」

 また不貞腐れて無言になるのも面倒なので、

「はいはい陛下。それで?あたしはいつ城に行けば良いんでしょうか?」

「……………………3日後だ。また使いの者がここへ来るから、それを待て」

「承知しました」


 アラシャとグラータか。

 国名を聞いてもさっぱり分からない。

 まずは国を調べる事から始めないとな……。明日、早速図書室へ行こう。

 城へ行くなら、ついでに図書館も見たいな。謁見が終わったあと、立ち寄れないか当日聞いてみよう。


 ここ数日の予定を考えていると、いつの間にかラディウスは立ち上がってドアの前に立っていた。

「くれぐれも医療体制案などを話すなよ?国内にさえ公式に発表していないんだ。他国に先に知られるわけにはいかないからな」

「うん。気をつける」

「……………………もう敬語が取れているぞ」

「あ、本当だ」

 ラディウスは大きなため息をつくと、私邸に帰っていった。



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