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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
ヒカリの魔法

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魔法属性


 住居を移って1カ月もすると、すっかり今の生活に慣れた。弓も剣も少しは扱いに慣れ、自主練も動きがカタチになってきたと言われ浮かれていた。

 田岸さんに色々報告したかったが、謁見以降、一度も会っていない。お互いに社会人だから仕方ないけど、メールも電話もないこの世界では距離を感じてしまう。

 だから手紙のやり取りを始めた。他愛もない日常を綴るだけだったが、数少ない楽しみの一つになった。

 

 田岸さんは手紙に添えて紅茶、栞、コースターと物を添付してくれ、それがどれも可愛くて思わず顔が緩んだ。

 中でも重宝したのが文具。ペンケース、付箋、メモ帳は実用性があるから特に使っていた。次に街に出る機会があれば、田岸さんにお店に連れてってもらおう。


 

 日常で変わったことと言えば、主に家でやっていた仕事を、城でやるようになった事。これは仕事で関わる人が増えたからだ。

 回復魔法師不在時の対応について、ヘルムート1人の判断じゃ決められないことが多く、回復魔法師長、診療所所長、治療部隊、製薬部隊の面々と顔を合わせる。

 とはいっても、あたしは聞かれた質問に応えるだけで、アドバイザーの立ち位置だ。

 彼らは非常に仕事熱心で、特に急変時の心臓マッサージやAEDの技術に興味津々だった。医学的根拠からAEDの作動技術について色々と聞かれたが、結構タジタジした。だって、どの動作を魔法で補えるか尋ねられるから。魔法が使えないあたしにはさっぱりな質問ばかりだった。

 彼らにはあたしのことを『看護師の召喚者』としか説明していない。魔法量が少ないことを話せば、うっかり力の事やその弱点が漏れるかもしれないとヘルムートは警戒していた。

「秘密を知るのは極一部の者だけでいいのです」

 彼からは会議が始まる前にそう言われていた。


 でも、

「必要な魔法があれば教えるので、是非とも見せていただきたいです!やはり雷魔法でしょうか?その場合の出力は?加減を間違えるとどうなりますか?」

 と迫られた時は焦った。

「わたしは魔法をろくに扱えないので……」

 言葉を濁して逃げ切ったが、いつまでもこの言い訳が通じるわけがない。

 会議後、ヘルムートと対策を話し合うためそのまま城に残ることになった。


  

 夕方、あたしはヘルムートの執務室のソファに座っていた。

 彼の性格が出ている部屋で、派手すぎない洒落たデザインの小物が目に付き、センスの良さが伺える。

 本棚には分厚い本が巻数ごとに並び、机の上も整理整頓されていた。

 

 あたしの机と大違い……。ヘルムートにはとても見せられないな。


  

 室内を観察していると、程なくしてヘルムートが入ってきた。 

「どうにもやる気が溢れてましたね……」

 ふぅ……と疲れを吐き出すように息をするその顔は疲労が濃く見え、また問題を背負わせてしまったと申し訳なくなる。 

「強く興味を持ってくれたのはいいのですが……ヒカリの魔法で実践して見せてくれと、かなり詰め寄られましたね……。今後それを回避するためには、それなりの理由が必要です。一番手っ取り早いのは『雷魔法の適性がない』と言うことでしょうが……。『なら他の属性魔法を見せてくれ』と言われた時に手詰まりになります」

 唸るヘルムートだが、あたしは別の言葉が気になった。

「魔法の適性?そんなものがあるんですか?」

「もちろん、あります。一番適性があるのが生まれた時に持っているスキルです。わたしの場合は風ですね。他の属性魔法を習得出来ないわけではないですが、やはり適性のあり、なしでは魔法の威力、発動速度が格段に違います」

「あぁ…。だからみんな持っている魔法属性が違うんですね」 

 せっかく魔法が使えるなら、土・風・火・雷・水、全ての属性魔法を覚えればいいのに、と安易に考えていたが、やらない理由が分かった。


 ヘルムートは口を真一文字にして考え込んでいた。見ているだけでも、彼の頭の中が渦を巻くように動いてるのが分かる。

 あたしは邪魔にならないよう、貝のようにじっと口を閉じて待った。ここはヘルムートの頭脳頼りだ。

 

「一番良いのは、ヒカリが魔力の提供を受けることでしょうかね……」 

 考えがまとまったらしいヘルムートは、ポソリとこぼす。

「魔力提供……?」

「ヒカリに適正がある魔法力を魔導具に移し、そこを原動力にして魔法を施行する方法です」

「でも、あたしに魔法が使えますか?『力』が邪魔をしません?」

「ヒカリが望まなければ力は発動しません。そこは心配ないかと。問題は誰から提供を受けるか、です。できるだけスキルを多く持った人がふさわしい。ヒカリの適性に合わせられますから。それに魔力量が多く、ヒカリの力の事を知っている人物……」

 眉根を寄せたヘルムートは、誰か心当たりがありそうだった。

 あたしにもある。

 条件に当てはまる人が一人だけいる。



 あたしとヘルムートは豪華な扉の前に立っていた。

 魔力提供の交渉をするため、お目当ての人物に会いに来たのだ。 

 正直、乗る気はしない。

 すこぶる言い出しにくいし、気が重い。

 だけど今後の事を考えれば、魔力提供があった方が都合が良さそうとも理解できた。

 

 ヘルムートは軽くノックをすると、 

「ラディウス様、少々よろしいですか?」

「入れ」

 扉の向こうからくぐもった声がすぐに返ってきた。

 ヘルムートに気が付かれないよう、あたしは静かにため息をつく。

 お願いするのが嫌だ……。凄く気が引ける………。


 扉を開けると、ヘルムートの後ろに続いて部屋に入るが、腰に大きな石でも結んでいるかのように足が重かった。

 

 魔王の部屋は落ち着いた色合いで、見るからに高級なソファー、本棚、机、椅子が並んで重厚感がある。天井に吊り下げられたシャンデリアが圧倒的な威厳を放っていた。

 ラディウスは仕事中なのか、椅子に座ってペンを走らせている。書類に見を向けたまま、

「午前中に持ってきた書類ならまだ終わってないぞ。夜までには取り掛かれるが、渡すのは明日だ」

 苦そうに言った。

 机には書類の束が乱雑に置かれている。斜めになっていて崩れそうだ。

 凄く忙しそう……。

 こんな状態で頼み事なんてしていいのかな……。

  

 ヘルムートは見慣れた光景なのか表情を変えず、

「いえ、その件ではありません」

「ならなんだ?」

「ヒカリの事でご相談があります」

 意外な言葉にやっと顔を上げたラディウスは、来訪者がヘルムート1人でないと初めて気がついた。

「……珍しい組み合わせだな」

 目を丸くしたラディウスは、まじまじとあたし達を見る。

「そもそもヒカリが城にいるなんて初めてじゃないか」

 それはそうだろう。会議室には何度も来たが、こんな上層階まで来たことはない。

「回復魔法師不在の件で話し合いがありましたので、登城しています。実はその会議の場で――」


 ヘルムートが経緯を説明する間、あたしはひたすらに机の一点を見ていた。

 以前、かなり威圧的に「ラディウスの力は必要ない!」と宣言した手前、かなり恥ずかしいし、身勝手とは思う。 

 きっと「図々しいし奴め」と嫌な顔をするか、「俺の力は必要ないんじゃなかったのか?」と意地悪な笑みを浮かべるか……。 

 どちらにしろ、断られるんだろうな……。

 あたしは酷い文句を言われる覚悟を決めた。

 

「……ですから、魔力提供をお願いするならラディウス様が最も適役かと思いまして。お力添えいただけないかと、こうしてヒカリと共に参りました」 

 ラディウスは説明を聞き終わると、唇を水平に結んだまま黙り込んだ。

 これまでのあたしの言動と仕打ち、ヘルムートが今し方語った内容を頭に落とし込み、どちらが重いか天秤にかけているのだと思った。


 しばらく無言が続き、静寂が部屋を包む。

 どうにも落ち着かず、とうとう皮膚がヒリヒリと痛むような沈黙に耐えかねて、「やっぱり結構です」と口を開きかけた時、

「いいだろう。魔法具はヘルムートで準備しろ」

 思ってもいなかった返答が返ってきた。

 

 あたしは思わず顔をガバっと上げて「い、いいの?」困惑した声を出た。

 目がぱちぱち瞬いたのを見て、

「なんだ?その以外だ、という顔は?」

 不愉快そうにラディウスは口をへの字にした。

「……いや、実際に意外だと思ったから………」

「ヘルムートの話を聞く限り、適役は俺しかいないだろう。魔力量もあるし、定期的に魔力を奪われても支障はない」

 

 それはそうかもしれないけど……

 どんな心境の変化?

 これまでのラディウスとまるで違う。

 あれだけ強くラディウスを否定したのに、こんな頼み事をして怒らないなんて……。

 

 驚きと苦さ《にがさ》と申し訳なさが複雑に混ざり合ってぶつかり、心の中で音を立てて跳ねた。

 笑えばいいのか、喜べばいいのか、謝ればいいのか……。

 困った挙句、分からなくなって、

「あの……ありがとう………」

 お礼を言っていた。

 随分と小声で控えめな言い方に、

「――なんだ、その心のない物言いは?」

 ラディウスが呆れたように眉をひそめる。

「気にいならいのか?」

 誤解を与えてしまった事に慌てて、「違うよ」と即座に否定した。

 

 ここはあたしが素直にならないと……。

 また口論になるのは嫌だ。

 

「だって………前、『ラディウスの力なんて必要ない』って酷い事言ったのに……。協力してくれるんだと思って…………」 

「なんだ。一応負い目は感じているのか」

 そのセリフに思わず「当たり前じゃない」と返してしまった。ラディウスは、

「それくらい威勢がいいほうがヒカリらしいぞ」

 いつもの意地悪な目で軽く笑う。

 褒められている気はしなくて、口を尖らせ、

「この恩は何かで返すよ」

 意地を張って言い返した。

 しかし、彼はまた意外な事を言った。 

「ヒカリが負い目を感じる必要はない。きっと俺の方が先に『もらった』からな」

 

 ――もらった?

 何を?


 その問いは椅子から立ち上がった音で防がれ、喉の奥へと流れ去った。

「早速、ヒカリの適応属性を調べるか」

 ラディウスの動きを目で追う。

 彼はあたしの目の前に来て「手を出せ」と仁王立ちした。でも以前のような威圧感や迫力はなくて、傲慢さを感じない。

 素直に両手を差し出すと、それ程強くない力で手を握られる。

「ヒカリは自分の魔力を感じたことがあるか?」

「ない。そもそも感じるものなの?」

「普通はな」

 そうなんだ。

 魔力量が少ないから使うこともない。だから魔力なんて意識してこなかった。

「今からお前の魔法属性を調べる。自身の魔力をヒカリも感じようとしてみろ。……間違っても力を発動させるなよ」

「そんなことしないよ!」

 ムキになって言葉を荒げてしまう。力の異質な感覚は分かるから、誤発動なんてしない。

 ラディウスは口角を上げて笑い「そのままじっとしていろ」と目を閉じた。


 ラディウスの手は、患者の脈を測っている医療者のような、職業的な繊密さがった。

 あたしも目を閉じると、数秒で何か流れてくるのを感じ始める。

 サラサラと流れるようだったり、ピリピリしたり、ドロッと気持ち悪かったり、くすぐったかったり、纏わりつくような重さだったり……。


 不思議な感覚でいると「終わったぞ」急に手を離された。

「えっ?もう?」

 かなり早かった。

 こんな短時間で分かるんだ……。


「ヒカリは風と水だな。水の方が適性が高い。風は合わないことはないが、提供するなら水の方がいいだろう」

 説明し終わると、さっさと机に戻っていった。

「――2属性ですか……。大半を水属性にあてがうなら、併用も可能そうですね……」

 何やら難しい事を考えているのだろ、ヘルムートは口元に手を添えブツブツ言っている。

 

 あたし水属性なんだ……。

 それが何を意味するのか、どんな魔法が使えるのか知らないけど、これから魔法の勉強も必要になる。

 忙しくなるなぁ……。

 

 早速、図書室のどこに魔法の本があったか思い出していると、

「近いうちに魔導具を準備します。完成したらお渡ししますから、大人しく待っていて下さい」

 ヘルムートから言われ、あたしは一人、魔王の執務室から出された。

 

 

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