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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
ヒカリの魔法

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24/59

新たな暮らし


 謁見から7日後、あたしはまた転居した。

 今度はお屋敷からすぐ隣の一軒家。ここもラディウスの邸宅の敷地内らしい。

 隣といっても一度お屋敷を出て塀をぐるりと回って、周囲にある林を抜けなきゃいけないから、徒歩でも10分はかかる。

 家が林の中にあるのは目隠しが一番の目的。外からも中からも見通しが悪いから、様子が見えにくい。

 林を含めた家の周辺には防御魔法、隠匿魔法、防音魔法がかけられているので、自由に散策していい、と言われた。

「防御と隠匿は分かりますけど、防音はなぜ?」

 ヘルムートにそう尋ねると、

「ヒカリは剣と弓、護身術の習得がしたいのでしょう?弓も剣も、練習の音で何の武器を使っているのか知れてしまう。それを避けたいのです。特にあなたは魔法が使えない分、手の内が少ないですから」

「な、なるほど?」

 

 弓練習のため的はあちこちに設置され、剣の打ち込み台もある。謁見での約束通り、防具も弓も剣も家の外の納屋に置かれていた。


 家はシンプルな外観の平屋。外には小さいながらも畑がある。

 室内は寝室、キッチン、トイレ、風呂、仕事部屋があり、メイドさんはいない。

「身の回りのことは自身ですることになりますが、そこは我慢してください」

 ヘルムートはそう言ったがあたしは大歓迎で、やっとプライベート空間が手に入ったと大喜びした。

「食事も洗濯も好きにしていいってことですよね?」

 嬉々として言うあたしに、ヘルムートは何故か引いていた。

「え、ええ……。外に洗濯場もあります。食料は外の保管庫に置きますので、好きに使って下さい」

「やったー!」

 ガッツポーズして喜んでいると、

「……そんなに嬉しいですか?」

 と不思議そうな顔をされた。

 

 彼らにとっては家事全般は使用人の仕事だから、信じられなかったようだ。

 でもこっちは一般人。メイドさんなんて居ないのが普通だ。

 


 一軒家の生活はかなり快適だった。食事は火起こしが心配だったが、魔導具を置いてくれたから問題なく出来た。

 好きな時間に起きて仕事して、庭の一角にある畑でハーブや野菜、少しの薬草を世話する。

 本は変わらずお屋敷の図書室を使っていいと言われたから、外出はそこに行く程度で、基本的に一軒家の敷地内にいた。

 街に出たい時はお屋敷前にいる門番に言うか、伝書鳥の魔導具を使って言付ける。

 一気に人と会う機会が減ったのが寂しいが、稽古の時は会話が出来た。

 


 ヘルムートは弓の講師にエッダ、剣はヘナンという初めて会う男性をつけてくれた。

 このヘナンはソルセリルで初めて見る人間で、グスタフの配下らしい。180センチも身長があるとは思えない猫背。膝も曲げているから、一見すると凄く姿勢が悪く自信なさげに映るが、剣の腕は一級。グスタフも一目置いていると聞いた。性格は物静で武士のような威圧感があるから、あたしはすぐに「師匠」と呼ぶようになった。

 彼からは短剣と一般的な長さの剣、両方を教えもらっている。

 言葉少ないけど教え方は上手で、あたしは外でもよく素振りをするのが日課になった。

 

 エッダからは基礎の立ち方、弓の持ち方、構え方から指導を受けた。弓は日本と少し違ったけどすぐに慣れて、2人で弓の早撃ち、的の射抜き勝負をした。やっぱりエッダの方が上手だけど、十分ストレス発散になる。


 街の監視役の時とは違って、稽古になるとエッダは多弁。

「お前はもう少し筋力をつけろ。細っこい体じゃ、威力のある矢は放てないぞ?腕、背中、体幹、下半身の筋肉だ」

「―――それって全身じゃない?」

「嫌ならもう辞める」

「嫌とは言ってないよ!」

 剣を持つにも筋力はあったほうがいい。自己流だけど、部活の時を思い出してストレッチや筋トレを初めた。

 

 こうしてあたしの日常は少しずつ仕事以外にも日課が増えていった。



  

 ヘルムートとエッダとは距離が縮まってきたけど、相変わらずグスタフとはなかなか接点がなかった。師匠に、

「グスタフさんと少し話したいんですけど……」

 とお願いしてみたけど、

「あのお方は忙しい」

 と断られてしまった。

 

 会議室での大暴れの件を謝りたいんだけどな……。

 

 腹心3人の中で唯一直接話したことがないのがグスタフだ。師匠の上司でもあるから、ヘナンさんをつけてくれたお礼も言いたいのに……。

 どうすれば会えるだろうと眉根を寄せて考えていると、見かねた師匠が、

「機会があれば声をかけておく……」

と言ってくれたので、「出来るだけ早めにお願いします!」と頼んでおいた。


 

 すると、翌日にグスタフがやって来た。

 突然の訪問で、畑を見に行こうと玄関ドアを開けたら大柄の男性が立っていたのでかなり驚いた。

「うわぁ!!」

 飛び退いて尻もちをついたあたしにグスタフは、

「そこまで驚くか?」

 と呆れたようにあたしを見下ろしている。

「急にドア前に巨体があれば驚きますよ!」

 思わず反論したあたしに、

「お前が俺を呼びつけたんだろう?」

 とズカズカ家に入ってきた。 


 そうなんだけど……。 

 この国の男性陣はどうしてレディの部屋に入るのを躊躇しないんだ?

 以前の騎士といいグスタフと言い、よくわからない。

 病床の女性の部屋には入るのを躊躇うのに……。


 少し苦い気分になりつつも、まぁいいか……とあたしも家に戻った。

「お茶でも淹れましょうか?」

「いや、いらん。話だけチャッチャと済ませてくれ」

 豪快な仕草でリビングの椅子に座ると、グスタフは腕組みをしてあたしと向き合った。

 

 こうして対面するとよくわかるが、グスタフは本当に筋肉がスゴイ。ボディビルダーを直に見たことがないが、あんな感じの筋肉のつき方だ。羽根があるから一応飛べるんだよね?この巨体でも浮くのかな……。今のところお目にかかったことは無いけど、機会があれば見れるかもしれない。

 

「んで?俺に用事ってのはなんだ?」

「いえ、用事といいますか……。以前の会議室での騒動の事を謝りたくて……」

「謝る?」

 怪訝そうに言うグスタフは、意味が分からないと言う顔をしていた。

「陛下には直接謝ってただろう?」

「いや、ラディウスにじゃなくてグスタフさんにです」

「俺?なぜ?」

「随分と大暴れして、怪我もさせてしまったとヘルムートさんから聞いたので……。お詫びしたいなと思って」

 さらに分からないと眉間のシワを寄せたグスタフは、

「別に怪我なんてかすり傷だけだった。それもお前が作った薬で治ったしたな。なんの問題もない」

「そうかもしれませんけど……。礼儀として謝罪したかったんです」

「ああ、そういう意味か……。なら、余計に不要だ。俺は迷惑とは思っちゃいねぇ。陛下が敗北したのはいただけなかったがな」

「そ、そうですか……」

「当然だろう?国の大将が敗れたら終わりだ。あれは完全に陛下が負けだったが、武将としてむざむざ大将が倒されたのはいい気分じゃねぇ。だからお前のことは好きじゃねぇ」

 うーん。潔いまでの宣言。

 いっそ気持ちがいい。

「だからといって、無下に扱う気もない。実際、お前が作った薬や容器で俺の部下たちが助かっているのは本当だしな」

「そ、そうですか……」

「んで?それで終わりか?」

「いえ、剣の師匠……ヘナンさんをつけてくれたことも、お礼を言いたくて」

「ヘナンはヘルムートが選んだ。俺は許可を出したにすぎん。礼など不要だ」

「でも、直属の上司はグスタフさんですよね?ならグスタフさんにお礼を言うのが筋かと……」

「まぁそうだが……」

 

 ここまで話して分かったのは、グスタフは 分かりやすく武人的性格という事。

 強い人が上。主君への忠誠心が篤くて名誉を重視する。だからラディウスを負かしたあたしのことは嫌い。でも責任感はあるから、あたしが作った薬や容器にお世話になっていることは認めてる。

 いかにも威風堂々な武人。きっと部下達からの信頼も得ているんだろうな。


「グスタフさん、怪我を負わせたことはすいませんでした。あと、部下のヘナンさんにはよく教えてもらっています。勉強になることばかりで、助かってます。ありがとうございます」

 あたしは深々と頭を下げる。

 グスタフは「そうか……」と短く言うと、顎を引き唇を少し歪めて無言で、じっとあたしを見た。

 探るような目つきは居心地が悪くて、気持ちがムズムズする。

 なんだろう?見た目の威圧感だけじゃなくて、疑われているような不安が沸いてくる……。まるで警察に睨まれてドキッとする気持ちに似ていた。

 見続けていたくないのに、目を逸らせない……。

 

 重い空気に耐えかねていると、

「ヒカリは、自分の力がまだ嫌いか?」

 初めてグスタフ方から話しかけてきた。

 

「……好きではないです。きっと、ずっと好きにはなれない……。でも、使ってみて分かったんです。この力はもうあたしの一部だって。思うように扱える……。だから完全に嫌いにはなれない」

「なくすことが出来るなら、そうしたいか?」

「――そんな事できるんですか?」

「いや。基本的に死なない限り消えない。スキルと同じでな」

「……そう、ですか」

 

 スキルも召喚と代償に与えられる力も、DNAに埋め込まれるんだろう。だから死ぬまで消えない。なら、受け入れるしかない。どう使うのかは自分次第だ。

 

「ラディウスが言ってた通り、魔法が使えないあたしにとって、この世界は生きにくい。だから魔法から身を守る手段があるのはいいことなんでしょう……。実際、この力に助けられてる」

「……陛下を打ち負かした時はどう思った?スカッとしたか?」

「いいえ……。部屋の惨状を見て後悔しました。理性を失って感情的になったのが恥ずかしくなったし、何より、エッダの怯えるような顔とグスタフさんの厳しい表情を見て自己嫌悪に陥りそうでした――」

「…………そうか。人に向けて使おうとは、到底思えんか?」 

「ええ……。力は自分自身を守る盾にするつもりです」

「力を盾とし、弓や剣を覚えて身を守る、か?」

「そうですね……。それでも死ぬ時は簡単に死ぬんでしょうけど」

 

 仕事柄、命の散り際だけは見てきた。信じられないほど粘る事もあれば、呆気ないほどに終わる事もあると知っている。

 あたしにとってはこの世界は日本にいた時より死が近い。既に3回は死にかけているし。

 だから自分の命は自分で守らなきゃと思った。

 

「――俺からしてみれば、持てる手段は使うべきだと思う。剣を持ってるのに使わず死ぬのはおかしいからな。お前が授かった力も盾としてだけじゃなく、剣にもすべきだ」

「武人らしい意見ですね……。でも一般人のあたしにはできない。剣を使う以前に、持つ覚悟からしなくちゃいけないんです。人に向けたらきっと震えてしまう……」

 想像しただけで怖い。

 遠慮なく振るうなんでできないだろう。

「――自身を守る手段と考えるなら、それも一つの答えだろう。惜しいとは思うがな」

 グスタフは立ち上がると、

「ヘナンからは色々と学ぶといい。剣術においては右に出るものはいない腕前だからな」

 高い位置からあたしを見下ろす。

 誰かを斬るためではなく、自身を守るための剣と答えたあたしに、賛同はしてい目だった。

 

「せいぜい足掻けよ、異世界人」

 

 

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