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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
アザルス王国編

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2/9

召喚


 少し時を遡って、あたしの状況を説明しよう。

 ここへ来たのは約2ヶ月前。

 来た、と言ったが、正確には召喚された。


 

 仕事終わり、自宅に入って荷物を置いた時だった。

 突然光に包まれて、眩しくて目を閉じた僅かな間に、世界は一変した。

 

 目を開けたら見知らぬ場所に立っていたのだ。

 鎧とサーコートに身を包んだ人たち、足首まであるマントをまとった険しい顔をした人、背丈ほどもある杖を持つ人、そして一番質素な服を着た金髪の男性。他にも何人か人がいたが、覚えていない。

 皆、静かにあたしを見つめていた。鋭い視線が痛いくらいで、ニコリともしていない。それどころか、涙を浮かべて憎々しげに睨む者もいる。

「えっ?えっ?」

 突然の状況に混乱したのはもちろんだが、人から恨みを込めた目を向けられたことがなかったので戸惑った。しかも初対面で、ひと言も口をきいていない人に。

 

 部屋にはあたししか声を出す人はおらず、本当に静かだった。 

 誰も何も言わないので、キョロキョロと辺りを見回し状況を確認する。

 足元には白い線が複雑に描かれ、線の外には黒い焦げたような跡がある。何か燃やしたのだろうか?

 白い線は何か分かる。ファンタジー映画や漫画でよく見る魔法陣だ。

 あたしは魔法陣の中心に立っていた。

 

 鎧やローブなど中世的な服装の人達。魔法陣。見知らぬ人。覚えのない場所。

 これは……この状況は…………

 映画もアニメも漫画もあまり見ないが、なんとなくは知っている。

 これは……召喚というやつでは? 


 知り得る限りの情報を整理してまとめると、そう結論が出た。

 もちろん、すぐに現実とは思わなかった。

 夢かドッキリか幻覚か。

 夢はともかく、ドッキリを仕掛けられるような有名人ではない。幻覚なら早々に病院に行ったほうがいい。

 一番の希望は夢だが、残念ながら眠った覚えはなかった。


 人間、本当に驚いた時は声も出ないもので、茫然自失としていると、質素な服を着た金髪男性が話しかけてきた。

「Where are you from?」

 簡単な英語で助かった。中学以来の英会話だったが、これくらいなら分かる。

「I'm from Japan」

 そう返すと別の男性と変わり、

「はじめまして。私は田岸晃なぎしのぼるです」

柔和な笑顔で挨拶された。

 しかしその笑顔の中に憂いが見て取れ、既に嫌な予感がした。

「井瀬光凛です」

 聞き慣れた日本語に少し安心した。軽く会釈すると早速「あの、どういう状況なんでしょうか?」と周りを見渡しながら質問した。

「ここは有り体に言うと、異世界です」

 …………やっぱり召喚だった。

 当たっても嬉しくない。むしろ外れて欲しかった。

「あなたはアザルス王国に召喚されたのです。この国では一つの職業につき一人を召喚するという風習がありまして、あたなが選ばれました」

「は、はぁ……」

「選ばれたといってもランダムなので、ほぼ運です。召喚者の年齢、国籍、性別は関係ありません。職業のみでピックアップされた人の中から、貴方がたまたま選ばれた。貴方は医療従事者ですね?」

「はい……」

 田岸さんの言う通り、あたしは看護師だ。

 医療従事者ではあるが、随分と大きなカテゴリーで選別したものだと思った。

 国籍も関係ないとなると、地球にいる全ての医療従事者の中からあたしが選ばれたということになる。

 どれくらいの確率なんだ?

 宝くじの1等を当てるよりも難しい気がした。

「貴方にはこの国で医療従事者としての仕事をしてもらいます。この召喚には国費が使われているため、貴方は国の者としての働きが求められます。そのかわり衣食住は保障され、給与もでます。国家公務員のようなものです」

 衣食住保障の国家公務員。しかも給与あり。

 随分な優遇処置だ。条件が良すぎて逆に怪しい。

 休日がないとか昼夜関係なく労働させられるとか、劣悪な環境なのではなかろうか。

 しかし一番気になるのは拒否権があるか、だ。

「ちなみに、断ることは?」

「出来ません。日本にも帰れません。日本どころか、地球に帰れません」

 帰還不可能の強制召喚。

 浅い知識でも、異世界召喚は帰還できない話しがほとんどだと知っている。この召喚も例に漏れず、返品不可。

 つまり、ここで生きていくしかない、と言うわけだ。 

「あの……なら、田岸さんも?」

 目の前で日本語を話す彼もまた、同じ立場なのだろうか?

「はい。貴方と同じ境遇の者です」

「――本当に帰れないんですか?」

「本当に帰れません。方法もありません」

「召喚できるのに、帰還させることは出来ないんですか?」

「一度外に出た血を体内に戻そうとするのと同じです。不可能でしょ?」

「……そうですね」

 医療従事者に分かりやすく例えてくれたが、言われているのは同じ事。


 そうか……。もう帰れないのか…………。


 がっくりと肩を落とすほど、取り乱してはいなかった。召喚者という立場にしては冷静だったと思う。


 正直言えば、日本に多くの未練はない。

 大きな震災で両親兄弟を亡くして天涯孤独の身だったあたしは、看護師の仕事をしつつ一人暮らしをしていた。2年前から恋人もおらず、ペットも飼っていないから待っている人もいない。

 急に召喚されて困る事は少なかった。

 

 押し黙ったあたしを見て、絶望して声が出ないと思ったのだろう。田岸さんは気遣わしげに「大丈夫ですか?」と尋ねてくれた。

「いえ、大丈夫なはずありませんね……。突然の事で混乱しているでしょう」

「そう……ですね。普通はそうなんでしょうね……」

「別室でさらに説明します。移動しましょう」

 そのあとに、さらに小声で、

「あまり日本語で話していると、あとが怖いので……」

 意味深なことを言った。



 

 その後、この世界の言語の会話、読み、書きを可能にしてもらった。言語は一つしかないので、これで全て事足りるらしい。

 魔法らしく、言葉一つで作業は完結してしまった。何かが変わった実感はなかったが、目の前の魔術師らしき男性が話す言葉が分かったので、成功したらしい。

 男性は自身の名前も名乗らず、役人らしく淡々と次の流れを説明した。

「それでは、授かった力の鑑定をします」

「力の鑑定?」

「召喚者は召喚の代償として、特殊な力を授かります。自身で選ぶことはできず、無作為に与えられる力なので拒否も否定もできません」

 つまり召喚者の強制的な特権というわけだ。

 つくづく理不尽だ。

 

 魔術師らしい男性はあたしに手のひらを向けると、なにやらぶつぶつ唱えた。この世界の言語が分かるようになったが、何を言っているのかは分からなかった。

 数分の詠唱後、空中になにやら文字が浮かび上がる。

 あたしからは逆方向で読めなかった。

 男性は関心薄く眺めていたが、一行目あたりを読み終える頃には目が見開いていた。驚愕した顔で口をあんぐりと開け、アワアワと慌てだす。

 そしてあたしと空中に浮かんだ文字を交互に見ている。

 ……なんなんだ、一体。

「おっ、おい!ちょっと……」

 男性は室内にいた同僚らしき別の人に声をかけている。

 魔術師らしき男女が数人近くに寄ってきて、同じように文面に目を走らせる。そして男性と同じように驚愕した。中には生唾を呑む者もいて、あからさまにあたしを睨んでいる。

 なんの説明も解説もなく、その態度はあんまりじゃないの?

 あたしは「あの、なんですか?」機嫌悪く言葉を返した。

 そこまで強く言ったわけじゃなかったが、魔術師達はビクリと体を震わせた。

 そこまでビビらなくても……。

「このままここで待て……。いや………お待ちください」

 なんで急に敬語?


 魔術師達は揃ってさっさと部屋を出ていった。残されたのは騎士らしき見張りが2人と、田岸さんだけ。

 あたしは田岸さんに視線を送ったが、小さく肩をすくめるだけだった。どうやら田岸さんにも空中に浮かんだ文字は見えなかったらしい。


 待つこと10分ほど。

 今度は見るからに豪華なローブを羽織った老人が入ってきた。あたしの前に立つとやはり名乗りもせず、いきなり手のひらを向けて詠唱した。

 また空中に文字が浮かび、それをじっと読む。読み進むにつれてどんどん眉間のシワが深くなり、険しい顔になった。

 こんな時になんだが、眉間のシワで鉛筆が挟めそうだと思ってしまった。

「……国王陛下に報告を。この者には見張りをつけろ」

 そう言い捨てると、部屋を出ていってしまう。

 …………たがら、失礼にも程があるでしょ。


 この時すでに、あたしの中でこの国の印象は良くなかった。

 騎士や魔術師の態度。言葉遣い。なによりずっと漂う陰鬱な空気。全てが不穏だった。

 そしてそれを決定づけたのは、国王陛下との謁見の場だった。


  

 国王陛下はそれはそれは豪奢な服と装飾品を身にまとっていた。すべての指にキラキラの宝石が光る指輪をつけ、首が折れるんじゃないかというくらいのネックレスを幾重もかけている。

 国王がそれなら王妃はもっと派手で、ドレスもティアラも、手に持つ扇も宝石でキラキラだ。

 しかしその衣装に不釣り合いなほど、謁見室はみすぼらしかった。王宮の謁見室という国の重要な場所にも関わらず、壁には薄っすらヒビが見える。足元の絨毯は色褪せ、長年使い古されていた。燭台は折れて欠けているし、タペストリーは日焼けしている。

 

 ……この王族はダメなヤツだ。

 私利私欲のままに税金を使い、国民のために使っていない。

 一目でそれが分かった。

 そうなると、衣食住が保障されるという話も怪しい。本当に最低限しか保障されないんだろうな。

 

「召喚者、名前は?」

 文字通り上から目線で、国王陛下は玉座からあたしを見下ろして尋ねた。

「井瀬光凛です」

「ヒカリ、そなたは我がアザルス王国に医療従事者として召喚された。明日から早速、その力を発揮してもらう」

 明日から?

 性急にも程があるのでは?

 もちろん王族に向かって勝手に口を開くことはできないので、黙って続きを待つ。

「そなたの召喚者としての力は『魔力がある者を殺す力』だ。魔族との戦争を控える我が国としては、願ってもいない力だ」

 ……………。

 …………………………。

 ………………………………はい?

 魔力がある者を殺す力?

 

「召喚に使った者のためにも、存分にその力を発揮してくれ」 

 悪意に満ちた、としか言えない笑顔を見せる。

 思わず背筋が冷えた。

 とっておきの兵器を手に入れた。そんな顔だった。

「ヒカリには1区での居住を許可する」

 1区?なんのこと?

 なんの説明もなく謁見は終了し、隣の騎士達から立つように促され、そのまま謁見室をあとにした。 


 

 魔力がある者を殺す力。

 これがあたしの身のフリを大きく左右する力となる。

 

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