旅路と入国
10日の道中で、あたしはキールから色々な事が聞けた。
まず、魔法とスキルの違い。
魔法は学んで習得するもので、通常は魔法学校に通うか弟子入りするらしい。誰かから教えを受けてしか施行できない。
逆にスキルは生まれながら持っている魔法の事で、自然と使い方もわかるらしい。体の一部というわけだ。
こちらは遺伝もあるそうで、家柄によっては強いこだわりを持って配偶者を選ぶと言われた。
一方で、異質なのが力。
召喚の際にしか付与されず、非常にレアな呼び方になる。そのため魔法と説明するかスキルと言う方が素性がバレないと教えてもらった。
しかし特例的な力を授かった場合、隠しきれない事が多く、その場合は国の監視が付くことが多いのだそう。
昔は各国でも召喚儀式をやっていたが、非人道的であると100年以上前に廃止された儀式らしい。
それを復活させたのがアザルス王国というわけだ。
「私は80年生きていますが、召喚者の話を聞いたのは祖父からでした。親の代以降の世代は、誰も召喚者に会ったことはありません。ですから、今こうしてお話できているのはとても貴重な時間なのです」
キールはそう話してくれた。
それにしても80歳なんだ……。全然分からない。
ちなみに、獣人族の平均寿命は120歳らしい。キールは「あと20年で隠居の古株です」と笑っていた。
「魔法はあたしたち異世界人でも使えるんでしょうか?」
こちらの質問には「たぶん」と返される。
「祖父から魔法を使った異世界人の話も聞いた覚えがあるので、学べば使えるのでは?」
と言われた。
「魔力があれば魔法は使えますから。でも魔力量は個人差が大きいので、少ない人は使えないと思います」
「魔力量ってどうやって調べるんですか?」
「鑑定魔法ですね。魔力量は生まれながらに決まっているので、一度見れば十分ですよ」
なるほど……。
そこも再鑑定で知れるわけか………。
平均的な魔力量は1000ほど。
騎士団に入れるのは1800以上。
魔法が使えないのは500以下。
これが目安だと教えてもらった。
「魔力量が一番多いのはラディウス様ですね。5000はありますから」
「5000?!」
規格外にもほどがある。
「魔力量だけでなく、スキルも複数持ちでいらっしゃいます。さらに魔法も習得しているので、敵なしですね」
チートじゃないですか………。
さすが魔王を名乗るだけはある。
そうなると、あたしはそんなチートな人から「面白い!」と言われたわけだ。
複雑な心境………。
この世界の知識が深まった頃、ソルセリルに入国した。キールは改めてソルセリルについて説明してくれる。
複数種族が暮らす混合国で、王都周辺にも徐々に街や村ができている。今は王都が1番栄えており人口も多く、あたし達はそこに向かっている。
アザルス王国よりも北西にあるため冬は寒く、地域によっては雪が降るらしい。
気候は4期に分かれており、聞く限り日本と同じ四季という認識でよさそうだった。
今は冬の終わりかけ。木々は葉をつけず高い山々も寒い色をしていたが、地面に目を落とせば薄っすらと緑の場所が見える。
入国して一番初めに感じたのは、美しい街と景色が広がる国、だった。
自然が豊かで気持ちがいい。
そしてキールの言う通り、王都に近づくにつれて道の幅が広がり、平らにならされていた。石橋も崩れておらず所々に装飾の彫りがなされ、見た目にも美しい。
建物も花壇も噴水もお店も、造形、使われているレンガの色、壁の彫りが統一されおり、まとまりがあって綺麗だった。それにどこを見ても人々が行き交って活気がある。これぞ王都、という感じ。
そして一際目を引くのが3階建てのお屋敷。城とは呼べない規模だが、アザルス王国の城よりよほど豪華で美しく、目を見張るものがあった。
「皆さんの居住区はあちらです。あくまで仮なのですが…」
キールがそう言って指差した方向を見て、全員が息を呑んだ。
あれって…………アパートですか?
こちらの世界では珍しい2階建て。一棟に6世帯は住める構造だ。それが5棟並んでひとブロックで区切られている。そのブロックが10個あり、さながら団地だった。
しかもこれが仮住まい。
「1ヶ月程度で仕上げたので、不備があれば言ってくださいね」
この規模を1ヶ月で!?
地球なら仕事放棄したくなるレベルのブラック企業だ。
全員があんぐりと口を空けていた。
もちろん魔法を使っているのだろうが、それにしても大仕事だっただろう。
恐るべき魔族の技術力と仕事力。
居住区はラターナ村と同様の分け方をされた。その方が環境に慣れやすいだろうとの配慮だった。
つくづく魔族の皆さんは優しい。
アザルス王国とは大違い。
あたしは指示された部屋に入る。中は学生が住む1LDKのようだった。
ベットとトイレ、シャワー室。小さいながらにキッチンとリビング。
はっきり言って、住むには十分な部屋だ。しかもすき間風が入って来ない。最高じゃないですか。
ここまでしてくれ、魔族の皆さんにはすこぶる感謝しかなかった。
アザルス王国を出国できて本当に良かった。
あたしは自身の力のことについてまだまだ不安があっが、この時ばかりは忘れていた。
いよいよソルセリルに入りました。
ここからヒカリの新たな生活が始まります。
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