ゴブリン喰らい探し2
俺は門を抜けた先で待つ事にした。服は、シルフィに冷やかされながらも無難なものを選べた気がする。これで3日は洗濯しなくても着る物が無くなるという事は無いだろう。
そして、一番先に来たのはルゥナだった。
「お待たせ。あのギルドマスター、私に根掘り葉掘り聞くんだから、面倒くさいったら無かったわ。私は回収しただけなんだから、これから現地を調べる冒険者に聞きなさいよね」
「ああ、大変だったのか? お疲れさん」
俺はルゥナをなだめつつ、クラウド隊長が来るのを待つ。そして、クラウド隊長もそれほど時間を置かずに現れた。
「待たせたかな? 必要なものを準備してきた。アキラくんの準備が良ければ、出発しよう」
「俺はいつでも構いません。それじゃあ、シルフィ、頼む」
「僕の魔力は、あれからさらに北の方に移動してますねー。どこへ向かっているのか分かりませんが、ほぼ真っすぐ北に向かっているから先回りできるんじゃないですかー?」
「クラウド隊長、サンドワームは真っすぐ北の方に移動しているみたいです。先回りできませんか?」
「それなら、馬車を使おう。ここには、移動用の馬車が常に用意されているから、それを借りてくる」
クラウド隊長は、門番の詰所の方へ向かい、そこから馬に乗って戻ってきた。
「えっと、馬車は?」
「俺達2人とルゥナさんだけなら、一頭の馬に全員乗れるだろう? それなら、馬だけの方が早いからな」
「俺、馬に乗った事ありませんよ」
「大丈夫、俺の前に座っていればいいから」
「私は、アキラの肩の上でいいわ」
俺は隊長に抱えられるようにして馬に乗る。どうせ抱えられるなら女性の方がうれしいのだが、今いないものを言ってもしょうがないので我慢するしかない。それに、隊長は鎧を着ているから肉体的な接触は全くないのが助かる。
俺は落ちないように、そして負担にならないように馬の体と俺を繋ぐ。見えない手綱をつけた感じだな。そして、尻の部分のエーテルは柔らかくしてあるので振動もそれほど感じないし、馬にとっても痛くないはずだ。
「へぇ、馬に乗ったことが無いという割に重心が安定しているじゃ無いか。これなら、多少走らせても大丈夫そうだな」
隊長が馬を走らせ、俺はサンドワームの位置を教えて位置の修正をする。馬車と違い、街道を走る必要がないからか、思ったよりも直線的にサンドワームを追えているので、それほど時間を置かずにサンドワームに追いつけそうだ。それに、思ったよりもサンドワームの移動は早くない。やっぱり、柔らかくしながらとはいえ、地面の中を進むのは大変なんだろうな。
「クラウド隊長、そろそろサンドワームに追いつけそうです。今は、あの辺の地面下に居ると思われます」
「ふむ。何も無い場所だけど、特に地面が盛り上がったりしているわけでもなく、居場所が分からないね」
シルフィの案内では、すでに視界の届く範囲に居る事になっているが、隊長の言う様に土が盛り上がったりしていないので場所が分からない。近づきすぎると、また食われる心配があるからこれ以上近づくこともできないし。
「よし、もう少し先に魔道具を仕込んだエサを設置しよう」
隊長は、すでにその辺のことを予想していたのか準備していたようだ。正直、俺は案内する事だけを考えていたので、追いついたあとのことは何も考えていなかった。隊長は馬を素早く走らせると、サンドワームの通る予定の場所にエサを設置する。サンドワームは、地面の振動に敏感だという事で、常に震える人形の様な物に発信機をつけたようだ。アイテムボックスからズルリと引っ張り出された人形を見て、一瞬人の死体に見えたので驚いたのは内緒だ。
「離れて様子を見よう。アキラくんは、もしサンドワームの進行方向が変わったら教えてくれ」
「分かりました」
幸い、サンドワームの進路が変わることは無く、エサの下を通るルートを取る。そして、エサの真下に来た時、エサが一瞬で消えた。
「あれがゴブリン喰らいのサンドワームか。確かに、普通のサンドワームと姿が少し違うね。土に潜るように進化したのか?」
「えっ、クラウド隊長はあの一瞬で姿を確認できたんですか?」
「これでも動体視力には自信があるよ。さて、これで任務は終了だけど、サンドワームはまだ北上を続けているみたいだな」
隊長は、板状のものをアイテムボックスからひっぱりだして見ている。どうやらあれが発信機と対になる魔道具らしいな。そこには、赤い点が北の方へ進んでいくのが見える。
「この先には何があるんですか?」
「特に何も無いよ。しいていえば、廃坑があるくらいかな? 昔、鉱石を取るのに掘っていたらしいんだけど、ずいぶん前に何もでなくなって放置されているんだ」
「へぇ、そうなんですか。それじゃあ、そこが目的地ってわけじゃなさそうですね」
しかし、予想と違い、サンドワームは廃坑の近くで止まる。そして、しばらくしてシルフィが声を上げた。
「アキラ~、僕の樹がどうやら無くなったみたいだよ。消化されちゃったかなー」
「魔法の樹も消化されるのか?」
「魔法の樹だから、ダメージを負えば消えるよー」
魔法だからこそ急に消えるという事か。これで俺達はサンドワームの居場所を知ることは出来なくなったな。あとはクラウド隊長に任せて帰るか?
「クラウド隊長、俺が感知していた痕跡がサンドワームから消えました。もう、居場所が分かりません」
「そうか。後は、俺の魔道具だけが頼りって事だな。ただ、サンドワームの動きが止まっているから、ここを新しい根城にするのかどうかを先に見極めたいんだ。もう少し付き合って貰えないかい?」
「それは構いませんけど・・・」
どうせ馬が無いと、帰るのにも時間がかかるからな。それに、廃坑も少し見てみたい。
サンドワームが止まった場所に向かうと、穴だらけの壁が見える。あれが掘りつくした後か。まるで、何かの巣の様だな。そう思っていると、壁から何かが出てきた。
「まさか、ゴブリンが住み着いているのか? もしそうなら、ゴブリン喰らいの目的地はここで合っているという事になるが、ここにゴブリンが住み着いているという情報は聞いていないな」
ゴブリンは、ゴブリン喰らいの出す臭いに釣られてきたのか、どんどんと穴から出てくる。思ったよりもたくさんのゴブリンが住み着いている様だな。そして、サンドワームの真上に来るとゴブリンの姿が消える。
「本当に、ゴブリンを集めて食べるみたいだな。わざわざゴブリンを討伐しなくても、サンドワームを放置するだけでゴブリンの数が減るなら助かるんだが・・・。まあ、その結論はもう少し情報を集めてから出す事になるだろう」
まだゴブリン喰らいが人間にとって安全かどうか分からないからな。まあ、近づいたら人間も食べられるから、ここに近づかなければある程度安全は確保できそうではある。
「グオォォォ!」
廃坑の奥から、雄叫びが上がる。すると、わらわらと出てきては食われていたゴブリン達が、慌てて廃坑の中に戻り始めた。
「今の咆哮は一体・・・。どうやら、ゴブリンを統率する何かが廃坑内に居る様だね」
「嫌な予感がするわ。今の咆哮には、魔力が乗っていたもの。もし、間近で聞いていたら、普通の冒険者なら恐慌か麻痺の状態異常が引き起こされるわね」
「そんなスキルを使うなんて、まさか上位のゴブリンが居るっていうのかい?」
「その可能性が高いわね。隊長として、どうするのかしら?」
「その正体も確認する必要があるだろうね。ルゥナさん、追加で依頼してもいいかい?」
「追加の依頼は報酬が高いわよ? それで良ければ手伝ってあげてもいいわ」
「はは・・・、分かったよ。それじゃあ、お願いするよ」
クラウド隊長が顔を引きつらせつつも、追加で依頼をルゥナにお願いする。
「それじゃあ、アキラ。私はちょっと調べてくるから待っていて」
「気を付けてな」
「僕も行くよー。どうせ待ってても暇ですしー」
「シルフィ、助かるわ。行きましょう」
ルゥナは飛び跳ねるように廃坑へ近づいて行く。その後ろをシルフィが飛んでついて行った。俺は、クラウド隊長と一緒に待機だな。