【12】離婚宣言
急にストレートなタイトル。。。
「出張」は結局二ヶ月半にわたった。
英美と美香は相変わらず進には関心が無いし、戻ったことを恨めしく思っているようだ。
一ヶ月ほどしたある日の夜、二人に向けて話を切り出した。
「ふたりとも、再来週の日曜日、三人で食事にでも行かないか」
「はあ?」
「たまにはいいかなと。全部俺が出すから」
「冗談でしょ。娘に手を出すオヤジと外なんか歩きたくない」
「あたしもよ。世間でなんて言われるか」
「そうか。じゃあ、家の中でいいや。来週、大事な話があるんだ。ふたりとも、家にいてくれないか」
英美と美香の憮然とした表情は変わらない。会話もしたくないといったオーラを放っている。
「あんたとする話なんか無いよ。何をいまさら」
「そうですよ。あなたは黙って稼げばいいでしょう」
「頼むよ。個別でもいいんだけど、三人の方が一度に済むからお互い助かるだろ。一時間もあれば終わる」
「一時間も? 一分で済まないの?」
「俺から一方的に話して終わるなら一分でいいよ。でも一応一時間とってくれないか」
「あなたにそんな価値ないけど、稼いでるから、しょうがないわね。美香、あなたも今回だけ従ってあげて」
「めんどくさー。わかったよ、来週ね」
「よかった。じゃあ次の次の日曜日よろしく」
とにかく言質を得たことに安堵した進は、そのまま家を出た。
約束の日が来た。待ち合わせは昼の一時。
進は朝食の後に外出して、封筒に入れた冊子をもって約束の時間に戻った。着いたとわかると、英美も美香もすぐに二階から居間に降りてきた。
「はい。集まったでしょ。はやく終わらせてよ」
美香が本当にめんどくさそうにつぶやく。英美もふてくされながら進を見つめる。
進は立ったまま話を始める。
「そうだな。結論からいくか。離婚する」
「「……は?」」
「会社は辞めた。退職金で家のローンは完済させた。株は全部売って現金にした。貯金は全部で二億ある。売却益の税金も含め五千万は俺がもらう。残りの一億五千万は君らに渡す。家も君らに譲る。かわりに慰謝料や養育費のたぐいは払わない。こちらからの面会は一切望まない。詳しいことは資料にしたから読んでおいてくれ。荷物は半月後くらいに取りに来るから、同封の離婚届にサインしておいてほしい。これで話は終わりだ。それじゃ」
言うだけ言って、分厚い封筒と、そこから出した離婚届をテーブルの上に置いた。玄関に向かおうとすると、英美が大声をあげて呼び止めてきた。
「ちょ、ちょっと待って。いきなり何言ってるの?」
「言ったとおりだ。もう一分は過ぎてるぞ」
「ふざけないでよ! そんな話一分で済むわけ無いでしょ!」
英美の声がさらに大きくなる。
「大まじめだ。君らが一分で説明しろと言ったから要点だけ説明した。荷物を取りに来るときにいてくれる必要はないけど、離婚届のサインだけは頼む。俺のサインはしてあるから。じゃあこれで」
美香も理解が追いついていない。このまま出させてはいけないことだけは理解しているらしく、中傷するような発言で進を止めようとしている。
「は、はあ? バカなの? 何考えてんの? わけわからない」
「わからないならその資料を読んでくれ。全部書いてある。ちゃんと弁護士とも相談したし、法的にも問題なく効果のある資料だ。もういいだろ。時間とってくれてありがとう。邪魔して悪かったな」
「はあ? ま、まってよ! 話は終わって……」
「終わったんだよ。なにもかもな。じゃ」
少し寂しげな、しかしはっきりとした発言を残して、居間はふたりだけになった。
二人は何が起きたのかまったくわからず、玄関のドアが閉まる音でようやく我にかえった。
「いや、なんなのあれ。バカじゃないの。いきなり離婚なんて」
「そうよね。頭おかしくなったのかしら」
二人とも、自然に封書と離婚届に目がいく。離婚届には進の署名がすでにしてある。
「ねえお母さん、その資料と離婚届、どうするの?」
「捨てるに決まってるでしょ。読む気にもならない。そのうち泣いて謝ってくるんじゃないの」
「そうだよね。離婚する勇気もないくせにね。バカみたい。私たちをだませるとでも思ったのかな」
「ほんと浅はかな人。まあいいわ。やっぱり時間の無駄だった。わたし出かけるから」
英美は封書ごとゴミ箱に捨てる。ガコっと金属的な音がしたが、気にせずそのまま家を出た。美香は時間の無駄をしたなと訴えるように自分の部屋に戻っていった。
その日の夜、そして翌朝、進は帰ってこなかった。
その日の夜も、翌日も。
ついに切り出した離婚、しかし二人は本気にしません。
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