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入宮㊤ ◇蒼狼視点◇

しばし蒼狼が続きます


《蒼狼視点》



 オレは宗麟殿に渡された着物に着替えながら、ハッキリと自分の立ち位置を把握した。



 ―――オレは、この宮に仕える者達に歓迎されていない!




 ◇◇◇




 ……と、気付いたのは、この白藤宮の敷居を跨いでからのことだった。


 護衛獣達の住居群を後にしたオレは、かつて踏みいったことのない門を抜け、第3城壁と第2城壁を抜けて行った。

 第三城壁内は、皇族の方々が四季折々の行事をなさるための広大な庭園となっていた。その広さと美しさにも驚いたが、やはり一番驚いたのは、庭に滝があった事だった。

 そしてその庭園を抜けて第2城壁を潜れば、今度は打って変わって目まぐるしい市場の様な賑わいを見せる人々の群れに驚いた。

 第2城壁の内側は、この国の最も賢い学者や高位の文官達が集まる行政区。

 平屋建ての漆喰の建物が碁盤の目のように並ぶこの場所こそ、この国を動かす中枢なのだと聞いたことがあった。


 そこも通り抜け、最後の第1城壁が見えてきた頃、突然の前をゆく聖獣達が向きを変えた。


「あの、こちらではないのですか?」


 思わずそう声を掛けると、聖獣の一人が言葉を返してくれた。


「あの朱門を越えれば上帝陛下のおわす本宮へと続いております。皇族専用通路で繋がっているとの話もありますが、我等は白藤宮への一般的な入り口である、紫晶門から入る事になっております」

「そ、そうなのですか……」


 分からないことの多すぎるオレは、それ以上何も言えずまた黙って聖獣達の後に続いた。




 ◇◇



「では、我々はこれで」


 紫晶門と呼ばれるアメジストが嵌め込まれた石門の前に着いた時、オレを連れてきてくれた聖獣達がそう言って立ち止まった。

 そして同時に、彼らの前方から落ち着いた女性の声が上がった。


「ようこそ、蒼狼。この度は神獣に選抜されおめでとう存じます。私はこの皇姫白藤様のおわす【白藤宮】の女官長、円慶と申す者。そして後ろの者は皇姫白藤様直属の女官である宗麟、梅鈴、花梨です。共にこの白藤宮の最奥にて、姫君のお世話をさせていただいている者どもにあります。どうぞよしなに」


 そう言ったのは、白地に紫のラインが入った、動き安さを重視した華服を着た30歳を超えた辺りの女性。

 そして後ろに控えるのは、白地に桃色のラインが入った同じく華服を着た、前の女性よりは一回りほど若い女性達。

 彼女等はそれぞれに美しく、その所作一つ一つ全てに決まり事でもあるような足並みの揃った動きをして、その顔に施された薄化粧すら全く同じだった。


「ありがとうございます。オレは蒼狼。本日よりこちらでお仕えさせて頂く命を受けました。よろしくお願いいたします」

「はい、ではこれより宮に上がって頂きます。―――ただし宮内では自身を“私”と称してください。宮には様々な決まり事が御座いますが、先ずはそこから改めてゆきましょう」

「はっ、はい!」


 円慶殿の言葉に、オレは慌てて頷いた。

 そんなオレに、円慶殿は欠片と微笑むことなく「では行きましょう」とだけ言い、踵を返した。

 逆に宗麟殿、梅鈴殿、花梨殿は逆に、たおやかな笑顔を顔に浮かべたまま、それを崩すことなく踵を返す。

 オレは彼女等について歩き始めたが、聖獣達は門をくぐることなく去っていった。……礼も言えなかった。

 そしてオレはまた歩き始めたのだが、数歩歩んだ所でふと首を傾げた。前を行く梅鈴殿と花梨殿から、何故か以前嗅いだことのある匂いを感じたのだ。


 ―――何処だった?


 その後ろ姿をじっと見つめながら考えていたが、とうとう思い出す事は出来なかった。


 女官殿達に連れられ、屋根の付いた廊下の様な道を進むと、前方に切り立った崖が現れた。

 そこに続く道は階段となり、崖の隙間を縫うよに上方へと続いている。

 それは言ってみれば天然の要塞。この道を使う以外、鳥系の護衛獣でもなければ、越えることは不可能だろう。

 そして宮側も同じ事を考えたのか、階段の途中に30メートル間隔に警護に立つ聖獣達は殆どが鳥獣型だった。

 いずれもオレより屈強そうな者達だったが、オレが前を通り抜けると深々と頭を下げてくれて、オレもその都度深々と頭を下げ返した。


 そしてその断崖を登りきれば、俺はまた目を見開いた。


 山の上にあったのは象牙の様に輝く白磁の御殿と、澄んだ清水をたたえた美しい湖のある庭園。

 その絶景に見惚れオレが思わず歩みを止めると、すぐさま円慶殿に声をかけられた。


「ここが姫君の御住居区にございます。右手前にある長い平屋が、この宮に従事する者達の寝所と、物資保管庫その奥が医療所と厨房にございます。……と言っても、ここに仕える者は私共を含め15名程。すぐに覚えることができるでしょう。そしてそれ以外の者は、全て部外者と把握頂ければよろしいです」


 ……つまり処罰対象ということか。こんな厳重な宮に侵入する者なんているのか?

 オレがそんな事を考えていると、円慶殿はまた歩き始めた。


「そして正面に見える白磁の城が、白藤宮本殿です。下の土台は区分けされていて、姫君は日々をこの本堂で舞踊や楽芸、書殿では勉学等に励まれ過ごされております。そして城の上に一等高く伸びる塔が、白藤様の許しがなければ何人も入る事のできない、姫君のプライベートルームでございます。―――現状お許しが出ているのは私と三女官のみでしたが、今後は蒼狼も入室が許されることになるでしょう」

「はい」


 オレは頷き塔を一度見上げると、また円慶殿に付いて歩き始めた。


 

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