お前等所詮饅頭
ふと、ずっと自分の話をしていた飽明が、不要な気を使ったのかオレに話を振ってきた。
「蒼狼君は演武に出てるんだよね? 勝ち抜き戦だって話に聞くけど、まだ残ってたりするの?」
「え……あ、いや……」
残ってるとはいえ、あんな無様な試合に胸を張ることが出来ず、オレは思わず口籠る。
「あ、ゴメン。……もしかしてもう負けちゃった? だけどそれならさ、夕方一緒にまた話さない? それまでに予約も捌いて、蒼狼君の分の饅頭も作っておくから、ね! いや、本当は直ぐにでも蒼狼君に饅頭を渡したいんだけど、今は予約もなしに渡したりしたら、暴動が起きそうなほどカツカツで……」
「いや、いいんだ。それにオレは、また夜の部に出ないといけないから」
オレが慌ててそう断れば、飽明は一度キョトンと目を瞬かせ、直ぐに華が咲いた様な笑顔を浮かべた。
「そうなんだ! 凄いね、蒼狼君って強いんだ! 頑張ってね、演武は見に行けないけど応援してるよ!」
「あ、……いや、その……」
オレは眩しい笑顔でそう言ってくる飽明を止めようとしたが、徹夜ハイテンションに陥っている飽明は止まらない。
「今年は白藤様が【神獣】を選ばれる年だっていうから、強者揃いだってお父っちゃんが言ってたよ。それなのに三日目まで残ってるとか凄いね! やっぱり蒼狼君も【神獣】になりたかったりするの!? いやぁ、でもあの姫様にお仕えできるとか、誰でも目指すよねー! 白藤様って、本当に女の私から見ても可愛過ぎるものぉ!」
キャーキャーと騒ぐ飽明の言葉が、オレの胸にクリティカルヒットで突き刺さり、オレは思わず膝を抱えてボソリと呟く。
「―――……いや、オレ如きが神獣にとか、考えるのもおこがましいし……聖獣ですら無理そうなのに……」
……と、隣で騒いでいた飽明の声が止んだ。そして少しの沈黙の後、少し低い声で尋ねてきた。
「なんで?」
「なんでって……えっと、最近気づいたんだけど、身内にも隊長にも反対されてたんだ。『やりたいならやればいい。だけど、応援はしない』ってな感じでさ」
オレはそう言って深い溜め息を吐いた。
騒いで意気込んでたのが自分だけだったと思えば、今となっては虚しさしか残らない。
すると隣に居た飽明の表情が、急に渋い感じに歪んだ。
「―――……ふっ」
「!?」
そして、何故か鼻で笑われた。
「な、なんだよっ、結構真剣に凹んでんだからなっ!」
予想外の反応に、オレが思わず口を尖らせ抗議をすると、飽明は手をひらひらと振りながら謝ってきた。
「あっはー、ゴメン。でもそれって、私にも経験あったからぁ。ほら、蒼狼君には話したでしょ? あの出店自体が、お父っちゃんの反対を押し切ってやったものなの」
「……まぁ。喧嘩してたって言ってたな……」
「まだ表面だけでも反対しないだけマシだよぉ、だって私なんか、場所の申請から出店費用、箱材の手配に開発に仕入れ……全部自分。お父っちゃんてば、欠片も手伝ってくれなかったんだからぁ」
「良く出来たな?」
「大変だったよぉ。だから初日閑古鳥が鳴いた時は、本当にもう……生きるのが辛かったわ……」
「……」
確かにマジ泣きしてたな。
「だけど蒼狼君は、まだ形だけでも協力してくれてる人がいる。それに、まだ勝ち残ってるって事は、実力だってあるんでしょう? いけるいける!」
応援してくれる飽明を有り難く感じながらも、オレは首を横に振った。
「……いやでも、周りは本当にオレなんかより強いやつばっかだし……。そもそもオレの出てる所詮青少年の部なんて、成人の部の為の賑やかしみたいなもんだから……」
……それに禁止はされてないものの、過去に“女”が神獣に……いや、聖獣になったという話すら聞いたことがない。
オレがまた眉間に皺を寄せ黙り込むと、飽明が身を乗り出して尋ねてきた。
「じゃあさじゃあさ、蒼狼君はどんな人なら【神獣】にふさわしいと思うわけ? 今年集まった中で、この人こそはって、思った人はいた?」
「いや、オレが選ぶわけじゃないからな。そんなの分かるわけない」
「そうっ、そうなんだよ!」
「ん?」
ビシッと指を突きつけ、力強く言う飽明。
オレが首を傾げていると、飽明はキラキラとした目で熱く語りだした。
「結局選ぶのは蒼狼君じゃない。選ぶのはお客様なの。だから蒼狼君今できる事は、饅頭を売り込むことだよ!」
「ま、饅頭を……?」
なんで饅頭を売り込む?
「―――……じゃなかった。選ぶのは【白藤様】で、蒼狼君が売り込むのは【自分】を売り込む、だった。饅頭は私の話だよねぇ」
「……ぷ」
照れながら頭を掻く飽明に、オレは思わず吹き出した。
「あははー。……だけどさ、本当に大変なのは目に止めてもらってからなんだよ? 私も蒼狼君にチャンスをもらって、ああして行列のできる店になった。だけど、実際こうなってみると、嬉しいより今は“もっとこうしておけばよかった”って後悔ばっかだもの。―――仕入れ経路の確保も甘かったし、受注してた箱だってとっくに無い。もっと真面目に修行しとけば饅頭を包むのだってもっと早く出来てただろうし……ねぇ?」
飽明はそう言って、申し訳なさそうに笑った。
「だから足りない部分を補填するために、私ここ2日は2時間ずつしか寝てないの。……だけど辛くても、私は私の饅頭を期待してくれてるお客さんを、もう裏切れない。……暇だった頃には戻れないんだよ」
「……」
「眠すぎて投げ出したくなったりもするけどさ、私、蒼狼君に言ったよね。“お客さんを馬鹿にしない美味しい饅頭を出すこと”がこの店を出した理由。……だから私、絶対に手は抜かないんだよ。ここでやめたら、なんの意味もなくなるから」
そう言い切った飽明に、オレは感心して思った事をそのまま伝えた。
「……飽明は、カッコいいな」
「えー、蒼狼君だってカッコいいよぉ?」
媚のない、冗談混じりのその言葉にオレ達はまた声を揃えて笑った。
「じゃあ、私の抱負を言ったから次は蒼狼君ね! 蒼狼君は、なぜ聖獣を目指すのですか? ハイどうぞ!」
そう言って手を差し出してくる飽明に、オレはノリで答えた。
「始めは父親に言われたからだった。だけど今は、白藤様を守りたい……力になりたいから……かな」
「おぉー! それって最早【神獣】の域の抱負ですよぉー!」
そう言って、手を叩いてくる飽明にオレは笑った。
「おこがましいなんて言ってたけど、蒼狼君は白藤様の【神獣】になりたいんでしょ? なんでそこまで卑屈になってるのかは知らないけど、ちゃんと蒼狼君にもチャンスはあるよ。レッツアピールだ!」
「はは、だけど何をアピールするんだよ?」
「とりあえず顔はカッコいいから出していこう。後は白藤様を護りたいーってアピールの演武をするとか? いや、そもそも演武で何をするかとか、私見たことないからよく分かってないんだけどさ」
「いや……」
オレはふと考える。
……白藤様を背後に守っている事を想定した動きの演武ってことか。結構、ハードルが高いな。……いやしかし、その位出来ないで、お側にお仕え出来る筈もないか。
そしてオレは頷いた。
「うん、やってみる。オレ、売り込んでみるよ」
「うん! 頑張れ!」
飽明はそう言って、またガッツポーズを作って笑った。




