一期一会?
平日の予定外投稿です!
「何が食いたい?」
柵を越えてすぐ、オレの顔色を覗う様にそう言ってきた象奉隊長。
オレは人混みをなるべく避けたくて、ボソリといった。
「……華饅頭」
「げ、あのクソ高い饅頭か。しょうがないな」
オレが言ったのは、めちゃくちゃ旨い饅頭を置いているくせに、誰からも見向きもされない閑散とした店。
鬱々とした気分で俯いて歩いていると、ふと困惑した様な象奉隊長のぼやく声が聴こえた。
「―――……しかし、さっきから続いてるこの行列はなんだ?」
……行列?
オレが顔を上げてふと見れば、確かに何十人もの人達が足を止め並んでいる。
護衛獣はいないが、そこそこ身なりの良い若い街の人達ばかりだ。
首を傾げつつも更に少し歩いた時、象奉隊長が突然カエルを潰したような声を上げた。
「……ゲ……っ」
「どうしたんすか?」
「……この行列の先頭、お前の言ってた饅頭屋に延びてるぞ」
「え!?」
オレは思わずピョンピョンと飛び跳ね、その列の先頭を見ようと試みた……が、見えない。ぶっちゃけた所、オレは同年代の中でも身長が低い方なのだ。
それでも懸命に行列の先頭を見ようとしていると、突然オレの身体が浮き上がり、そのまま象奉隊長の肩に載せられた。
「見えたか?」
「はい……見えたす」
どうやら象奉隊長につまみ上げられた様だ。
見晴らしのいいそこからは、饅頭屋の様子がよく見える。
紙の花を飾り付けられた露店で、二人の恰幅の良い女が手際よく饅頭を売り捌き、中ではあの時の饅頭屋の眼鏡娘とガタイの良い男が、背中を丸めて必死に饅頭を包んでいた。
とても良く見える……が、これは少々恥ずかしい。
「これはちょっと饅頭を買うのは無理じゃないか? あれを並ぶとなると日が暮れるぞ」
象奉隊長の言葉にオレが頷いて、もう降りようと身を捩ったその時だった。
饅頭を包んでいた眼鏡娘が肩をほぐそうとして顔を上げ、その拍子にオレに気が付いたのだ。
「……っあぁ!」
「え」
そして、何故かオレをガッツリ指差してきた。
オレは降りようとしていた事も忘れ、咄嗟に手近にあった象奉隊長の耳を引き寄せ、隠れようと試みた。
だがまぁ無駄な抵抗で、眼鏡娘はバネの様に立ち上がると店の中に向かって叫んだ。
「お父っちゃん! ちょっと私休憩に入るから後よろしく!!」
「てぇやんでい! バーロォー! こんだけ客を待たせといて抜けるたぁ何処のすっとこどっこいでい!?」
……あれが前に言ってた、あの子父親か。……なんていうか……クセがすご……。
「もうっ! すっとこどっこいはお父っちゃんよ! 前に言ったでしょ。神よっ、神がご帰還されたの! 今行かないと祟られるよ!? ううん、お父っちゃんが神を蔑ろにするなら、私もう独立するから!」
「ババ、バ、バーロォー! それを早く言えってぇんだ、こんちくしょうめ!!」
「じゃぁ抜けまーす! あ、康さん! 今日の分はラスト200箱だから、そろそろカウントお願いします」
「ハイよ!」
オレ達が啞然と眺めているあっという間に、露店内ではそんなやり取りがなされ、眼鏡娘がこちらに走ってきた。
「神っ、神っ!! お待ちしておりましたですぅー!!」
……何を言ってるんだあの娘は。
オレは象奉隊長の肩にしっかりと座り直して言った。
「象奉隊長、逃げましょう」
「無理だ。この人混みで俺が走れば、市井の皆様を跳ね飛ばしてしまう」
オレの咄嗟の判断も虚しく、眼鏡娘は直ぐ様こちらに走りより、そのまま何故か象奉隊長に抱きついた。
象奉隊長が、オレを路に下ろしながら困惑気味に言う。
「な、なぜ俺?」
「す、すみませんん……朝3時からぶっ通しで饅頭を包み続けてて……脚が……腕が言う事聞かなくてえぇ……」
良く見れば確かに眼鏡娘の言う通り、その腕と足はふるふると大きく震えていた。
「だ、大丈夫か?」
「はっ、はいぃ! まだまだ行けますともぉっ……ゴホッゥエホッ……ゴホゴホっ!」
「大丈夫じゃなさそうだ。てか、何処に行くんだよ……。象奉隊長、この子“糖欠乏状態”になりかけてます。オレへの奢りはいいんで、この子に何か……水分と飯を買ってきてやってもらえませんか? あそこの日陰で休ませておきますんで」
「あ、ああ……俺がいない間に勝手に動くなよ?」
オレが頷き腕を差し出すと、饅頭屋はヨロヨロとオレの腕に縋りついてきた。
「優しい! やっぱり神ぃ!」
「神じゃない。オレは蒼狼だ饅頭屋」
「えへ。私は飽明。饅頭屋屋じゃなくて飽明って呼んでくれれば嬉しいです。よろしくね、蒼狼君」
「……うん。……よ、よろしく」
その眼鏡の向こうから放たれた輝く笑顔に、オレは思わず素直に頷いてしまう。
以前は、泣きっ面だったから分からなかったが、その笑顔は思わずドキリとするほどに可愛らしかった。
◆◆◆
それから象奉隊長が人混みの向こうへ消えた後、オレと飽明は他愛ない話をしながら、木陰で休んでいた。
「―――へぇ、あの後そんな事があったんだ。」
「分からないけど、多分帝様に繋がりのあられる高貴なるお方だったんじゃないかな?」
「高貴なるお方ねぇ……? そんな汗だくで走ってくるか?」
「うーん。そこは謎なんだよねぇ」
そう言ってヘラリと笑う飽明。オレもくくっと、喉を鳴らして笑い返した。
飽明とはほとんど初対面であったのに、話せば不思議と気が合った。
村で女の子達と話す機会はあまりないのだが、話せば顔を赤らめ、どこか自分を売り込もうとする様な素振りを見せる。
だけど飽明は……どちらかと言えば気を張らないで過ごせる、桃猿の様な“友達”。
そんな感じだった。




