煌武祭三日目 ◇白藤視点◇
《白藤視点》
煌武祭三日目の午後。この段階で、ほぼ半分の幕が終わっていた。
演武はバトルロワイヤル形式であるものの、勝ち抜き人数に制限は無い。
それどころか上帝様の鶴の一声で、一度退場した者も戦線復帰させられる事すらあるのだ。
強き者を一人残らず【聖獣】に召しあげる為の還元祭(笑)なんだから、まあ一応理には適っているが。
―――とはいえ、この時点で出場者は成人の部、青少年の部共に5分の1程度の人数に削られている。
大抵この3日でふるいに掛けられ、ここからは残った実力者達の本当の潰し合いが始まるのだった。
今日、明日で更にふるいにかけられ、そうして最終日まで残った選手は“耐久力テスト”も兼ね、1幕2時間の決勝戦が行われるのだ。
まあ、2時間演じ通す者なんて、そうそういないけどな。……と言うか、俺も煌武祭を観始めて10年になるが、未だかつて2時間をフルで演じ切った者はいない。
ここ最近で2時間を演じ切った者と言えば22年前、上帝様の【神獣】である獅王。そしてもう一人、15年前に孔雀の流を汲む若い護衛獣が演じきったそうだ。
その孔雀は現在聖獣に召し上げられてる筈だが、それらしき聖獣は宮内で見た事はない。
何処か遠方に配属されてるのか、戦死したのか……ま、今まで興味を持った事もないから、ぶっちゃけよく知らない。
最後に決勝戦の翌日の7日目、審議の末に上帝様がお選びになった【聖獣】が発表される。
選ばれた者達は儀式の為に宮に招き入れられ、選ばれなかった者はその日の内に郷を目指し解散させられる。
その選手達の解散と共に、祭は終わるというのが恒例だった。
―――そして今、実質の【本戦】を前に、上帝様は夏でも涼しい風の吹き抜ける【涼宮】に4人の大名達を招き、現状の中間審議をされているのだ。
上帝様と俺の座する台座の下には、獅王と唱、そして円慶が静かに控えている。そして時たま上帝様の直属の女官達が、優美な動きで大名達の茶の世話をしていた。
俺は無言で上帝様に撫でられながら、大人しく4大大名を見下ろしている。
帝国の南部を掌握し、国の【食】に関する生産の八割を担う、呉克大名。通称デーブ。
帝国の西部を掌握し、木材や鉄鋼【資源】に関する産出の七割を担う、黃詔薫大名。通称ゴリ。
帝国の東部を掌握し、密教や学問等の【文化】の聖地と呼ばれる主君、斉清大名。通称オネエ。
帝国の北部を掌握し、武器の製錬や【工業】の九割を担う、袁悼大名。通称ハラグロ。
これらの4名は、完全にこの国の裏側を掌握した上で、この審議に参加している。
これらは言うなれば、上帝様を大黒柱としてこの国を支える4本の支柱であった。
出された月餅をモリモリと食べていた呉克が、恵比寿顔で声を上げた。
「―――しかし今年は本当に質が良いですな」
それを受け、黃詔薫が腕を組んだまま頷く。
「うむ、ここ迄で残りが成人の部が651名、青少年の部が173名。ざっくりとになりますが、成人の部の半数は既に聖獣候補と見てよいのでは?」
斉清がふふふと妖艶に笑いながら、注釈をいれる。
「青少年の部も中々に有望なのがおりましてよ? 15年ぶりに、青少年の部から【聖獣】に成る者が現れるかもしれませんねえ」
すると袁悼が頭を振って、どこか懐かしげに言った。
「ふむ。思い出しますなぁ。彗星のごとく現れた宝鳥。孔雀の血を引くあの者は、確かに群を抜いておりましたね。……まぁそれに比べてしまえば、今年も青少年の部は“並み”と言わざるを得ませんが」
―――とその時、沈黙を守っていた上帝様が、その話の流れにストップをかけた。
「それは今よかろう」
その一言で一瞬場は沈黙し、それからまた何事も無かったかのように、大名達はそろそろと話を始めた。
「―――現状を見る限り、黒鷹、凪寅、馬尅は【聖獣】確定でしょうなぁ」
「それに猫憙も。力は無くとも、タイミングを合わせるのが絶妙でしたぞ」
「力と言えば楊鰐の右に出る者はおりませんでしたね」
「力だけではない。戦場に出るものは状況分析力にも長けておらねばならない。鼠毬、曹猿も見過ごせないしょう」
まあ、話といっても皆様好き勝手な事を仰るだけだけどな。
俺はもちろん発言などしないが、上帝様も黙ってその話にただ耳を傾けていた。
そしてしばらく話が進んだ頃、ふと斉清が俺に話を振ってきた。
「―――ふふ、聖獣選びの予想談義は私達にとって楽しいですが、姫君などには少し退屈では?」
急に巻き込まれた俺は、ハタと顔を上げ適当に躱す。
「いいえ? 皆様の慧眼を通した予想、聴いているだけで妾は楽しゅう御座います。どうぞお続けになってくださいまし」
暗に“俺には振ってくんな”と言ったつもりだったが、大名達は逆に気を良くしてしまい、俺に食いついてきてしまった。
呉克がにこにこと上機嫌で、俺に声を掛けてくる。
「慧眼とは畏れ多い。では我ら如きをそう評して下さる、白藤様の御目に止まった選手はございましたかな?」
馬鹿野郎。御目どころか俺は【聖獣】政策自体が反対だっつの。
「いいえ、妾に聖獣の選択権はございませぬ。母様の選定の邪魔になってはいけませんので、そのような者は“いない”とお答えさせて頂いても構いませぬか?」
上帝様をバックに俺は回答を渋った。だが袁悼がその言葉を引き継ぐ。
「姫君の仰る通りにございますね。―――ならば、我らの予想に上がった凪寅について、姫君ならどう評されたかを伺ってもよろしいでしょうか? なに、いずれは白藤様も選定をなされる御方。獅子の子とて、遊びで狩りの練習をするものです。少し戯れてみてもよろしいのではないかと思っただけですが」
……やっぱこいつは腹黒だ。俺の逃げ道を塞いできやがった。
俺が袁悼に答える前に、縋る様にチラリと上帝様を見上げれば、無言の中に「答えてやれ」とその目は語っていた。
俺は観念して頷いた。
「わかりました。では及ばずながら凪虎を評させて頂きましょう」
……これは多分試されてるんだ。
そう。次期皇帝に仕える価値があるか、大名達からの中間試験。
そして上帝様も、俺が大名共をどう黙らせられるか見てるんだ。
―――宮内に俺の味方はいない。
俺は改めてその事実を噛み締めながら、ニコリと微笑みを浮かべ言った。
「凪虎は【黄ノ七】出身。虎の血を汲む、今年で32歳を迎える護衛獣。瞬発力と怪力の持ち主にして、棒術の達人。一日目の87幕と、二日目の35幕で共に優勝しておりましたね。素晴らしかった思います」
大名達はうんうんと頷き、【黃ノ七】を領土に含む黃詔薫に至っては得意げににやにやと笑っている。
袁悼も顔だけは優しい笑顔で頷き、俺に言う。
「違いないです。流石は明晰なる我らが姫。―――しかしそれは“評”ではなく“データ”では?」
「そうですよ。ただ妾の評価の前に、妾が公表されている情報を把握していると、ご理解頂くための確認」
「と、いいますと?」
じっと俺を値踏みするように見る袁悼に、俺はクスリと無邪気に笑ってみせた。
「妾の考えで評するに、凪虎は“10段階評価”で言えば“2”……と言った所でございましょうか」
俺の一言に、大名達の顔が引き攣った。
同時に上帝様が、隣で盛大に吹き出す。
そしてシンと静まり返った宮内に、上帝様の笑い声だけが高々と響いた。




