煌武祭前日 ◇蒼狼視点◇
《蒼狼視点》
煌武祭前日、普段泥まみれのオレ達の訓練は異様な迄に一変していた。
各群の代表者達が集まり、各々が衣装を合わせているのだ。
色に規定はないが、演武に支障がないか、近衛兵に属する聖獣によりを確認がされる。
一人あたり2分もかからないが、これだけの人数がいれば丸1日かかりだった。
護衛獣には戦争以外になまわりとする職があった。
それは主に女達の仕事で、糸紬や染色や機織り等、衣に準ずる仕事だ。
男達は聖獣になる為にその武を示し、女達はその技術の全てを衣装に込めて示すのだ。
事実、紺婆も昔は知る人ぞ知る織物師だったが、オレが煌武祭に出場するようになって、一気にその名が世に知れ渡ったという。
その何れかが宮殿にも上がったという話もあるが、流石にそれは誇張されているのではないかと疑っていた。
オレは【朱ノ三】からの選抜メンバーと共に順番を待ちながら、様々な趣向の凝らされた華やかな衣装に目を向けていた。
オレの衣装は白地をベースに、透ける青い生地の装飾が入っていた。
上の着物は肩に生地が無い詰め襟なのだが、肘から下にかけて透ける生地の飾り布が、振り袖のように吊るされているのが特徴的だ。
そして頭にはゆったりと白い布を巻き、それを留めるために、例の青い紐飾りの華が縫い留めてあった。
一方豹牙の衣装は黒。
単色のように見えるが、よく見れば薄っすらと金糸が織り込まれていて、更に透かし織りになっている為、生地自体が輝いて見えた。
胸元を大きく開けた着物に、やはり袖は無い上羽織を羽織っていて、帯で留めず流し着た膝下までの長い裾は、一歩豹牙が歩く毎に、空気を含んでヒラリと揺れる。
そしてその顔には、豹の口元を模した陶器の面が、顎下から鼻の上まで被せられていた。
豹牙がオレの隣に並ぶと、じろりとオレを見下ろしながら言ってきた。
「何だよ、その格好は」
「お前こそ何だ。そのマスク」
「うるせぇな。てめぇに殴られた腫れが引かなかったんだよ」
「オレはお前に殴られたとこ五針縫った。晒してここに立てるかよ」
オレは面倒臭いと思いつつ、似たような答えを返し、頭に巻いた白布に飾られた青い花結いを押さえた。
豹牙は苛立たしげに吐き捨てて来る。
「何だよ、……女みてぇ」
「お前だって男みてぇだ」
「当たり前だろ」
「そうだな」
オレはそう言った後、ハタと思い至り豹牙を見上げた。
「……お前もしかして、今の嫌味のつもりだったのか? 言っとくが村の女達はオレやお前なんかよりよっぽど立派に仕事をこなしている。オレ達がこうして煌武祭に出場できることだって女達のおかげだ。あの人たちを馬鹿にしたら、ぜったい許さねぇ」
真っ直ぐ豹牙を見上げてそう返せば、豹牙は何故か白けた顔でオレを見下ろしてきた。
「……何だよその“普段粗暴だけど、いざとなれば王子”なキャラは。そんな事してるから村の女達が勘違いするんだぞ」
「はぁ? 何だよそのキャラ。意味わかんねぇし」
だけど豹牙はうんざりした顔で『無自覚め……』とだけポツリと言うと、向こうを向いてしまった。
「何だよ。お前だって躱しまくってんだろが……」
どうも気まずくなって、オレがそう言うと豹牙は向こうを向いたままボソリと言った。
「他の奴なんて必要ないね。俺が側に置くのは気に入った唯一の番だけだ」
そんな豹牙を、オレは肩を竦めながら鼻で笑った。
「……何だよ。“俺様系王子”キャラかよ。キモっ」
「うるせぇよ!」
「それよかさぁ、今年なんか人数多くないか? 例年だと規定人数出して来ない群だってあるのにさぁ」
「無視か!? いい度胸だなコラぁ!」
「黙れ」
「「はいっ」」
引率の象奉隊長に睨まれた。……てかオレはデカイ声なんて出してないのに。
象奉隊長は、溜息混じりにさっきオレが投げた問いかけに答えてくれた。
「ったく……。今年の人数の多さはあれだ。白藤様の【神獣選び】の年だからだよ」
「神獣選び?」
オレが内心白藤様の名に驚いていると、豹牙が首を傾げて象奉隊長に尋ねた。―――たまにはいい仕事するじゃねえか豹牙。
「お前ら知らないのか? 皇帝の嫡子様は十三を迎えるその年の煌武祭で、近衛兵よりさらに親しい側近の護衛【神獣】をお選びになるんだよ。神獣様となれば片時も離れる事なく皇帝陛下やその嫡子様をお守りする事となる。現皇帝様の神獣はあの方だ……ほら“獅王様”」
「獅王様って、三千の軍をお一人で壊滅させたって言う伝説の!?」
「そう、そのお方だ。今は表舞台に立たれていないから、話題には登ってこないがな。……ついでに言うとその話本当だぞ? 神獣になられる前、現役時代の獅王様が実際に立てた武功だ」
「すっげぇ!」
盛り上がる象奉隊長と豹牙を、オレは一言も発することなく目を見開いて聞いていた。
……て言うか……白藤様と
24時間片時も離れる事の無い
側近
……だと?




