宿探し
馬車は町の中に無事入ることができ、停留所で停車する。
「明日の朝には出発するので、それまでにお戻りください」
御者は一礼して、馬たちのケアをする。
琉海たちは馬車から荷物を下ろし終え、
「さて、宿を探すか」
琉海が宿を探しにいこうとしたとき。
「待ってください。この町に私たち専用の宿がありますので、そちらに行きませんか」
「いや、そこまでしてもらう必要はありませよ」
琉海は断りを入れたのだが、思いがけない情報を聞かせられる。
「そういうわけにはいきません。それにこれから宿を取るのは大変だと思いますよ」
ティニアはそう言って視線を外した。
琉海はその視線を追う。
そこには宿屋の看板が見えた。
そして、その宿の前には『満室』の二文字が掲げられていた。
「この時間だとほとんどの宿が満室になってしまうんですよ。特に安いところほど空いてる場所は少ないですね」
「ほんとですか?」
「確認してみればわかると思いますよ」
琉海は疑いつつ、宿を探すことにした。
夜になったため、飲み歩く男たちが目立っていた。
宿の数も前の町に比べて多い気がする。
しかし、どの宿にも『満室』の看板が置かれていた。
「これは難しそうね」
静華がため息交じりに言う。
「じゃあ、行きましょうか」
ティニアはそう言って先頭を歩き出す。
町の中心に向かっていくと大きな屋敷が見えてくる。
「ここです」
「えっと……これって屋敷ですよね」
宿のようには見えない。というか、宿を示す看板がない。
「そうですよ。ここはスタント公爵家の別荘です」
「別荘……」
「私たち専用の宿に行くといったじゃないですか。それじゃ、行きましょう」
ティニアが先導してくれる。
王都への中間地点となるこの町には、貴族の別荘となる建物が多いそうだ。
屋敷の前には門番のように立つ警備兵がいた。
ティニアが近づくと、警備兵が扉を開ける。
ティニアはそのまま、中に入っていき、その後ろをアンジュが追随する。
琉海たちもティニアの後を追って屋敷に入った。
「おかえりなさいませ。ティニア様」
出迎えたのは、桃髪女性のメイドだった。
風格から琉海より一つか二つ年上の女性に見える。
「ただいま、メイリ。元気だったかしら」
「はい。健康に働かせてもらっています」
「そう。それは良かったわ」
メイリと呼ばれた女性は、ティニアと楽しそうに話している。
「アンジュも元気だった?」
メイリが聞くと、
「元気でなくては、ティニア様の警護は務まらない」
「あはは、アンジュは相変わらず、お堅いのね」
「メイリが軽すぎるだけだ」
アンジュはムスっとした顔をして、その表情にメイリは微笑みを浮かべる。
そうして一通り話し終えた後、メイリの視線は後ろにいた琉海たちに向かう。
「あら、お客様ですか?」
「私たちの命を助けてくれた方よ。ルイ様とシズカ様とエアリス様よ」
「まあ、ティニア様の窮地を助けてくれたのですか。家臣を代表してお礼を述べさせていただきます。ありがとうございます」
メイリがさっきまでの朗らかさを消し、真剣な雰囲気を放ち、礼を述べた。
「いえ、たまたま通りかかっただけですから」
「ルイ様はお強いですから、メイリも少し指南してもらったら、どうかしら?」
「……え?」
ティニアの突然の言葉に琉海は驚く。
「ティニア様が言うほどですか。それなら、ぜひ指南していただきたいですね」
メイリも乗り気のようだ。
「時間があるときでいいのでよかったら、お願いします」
ティニアが上目遣いで見て来る。
「そ、そうですね。時間があるときならいいですよ」
ティニアの可憐さに負けた琉海は頷いてしまった。
静華とエアリスの視線が痛い気がした。
「ありがとうございます。それで、今日は泊まられるんですよね」
「ええ、ルイ様たちにも部屋を用意してもらえるかしら」
「かしこまりました。では、案内しますのでこちらに」
メイリの案内で部屋に向かう琉海たち。
「こちらです」
琉海はたちが案内されたのは一つの部屋だった。
「リビングは共同ですが、寝室は中で三つにわかれているので安心してください」
メイリは女性の静華とエアリスにそう言う。
「惜しかったわね。琉海と一緒に寝れなくて」
エアリスがいたずらっぽく言うが、
「何を言っているのかしら」
エアリスに平然と返す静華。
あれ? と首を傾げたエアリス。
「何やっているんだよ。入るぞ」
琉海は部屋の扉を開けてみた。
室内はソファに豪華な装飾品、調度品が飾られていた。
キラキラと光りを放つ室内。
日本と変わらない室内の明るさ。
「すごい量の魔道具ね」
静華が天井を見て、光の正体を見つめる。
天井に並ぶのは、光を放つ魔道具だった。
エルフが作って市場に並ぶのだが、値段は高く、安い宿や村や貧困層には普及されていない代物らしい。
たしかに、前の町の宿や村では、蝋燭を使った火が主流だった。
「これでも、ここは公爵家の別荘ですから」
メイリの一言に琉海は貴族の凄さを実感させられた。
魔道具の使用方法を一通り聞き終え、琉海たちの部屋からメイリは退出した。
久々に三人になった琉海たち。
「なんか、色々と別世界だな」
この世界に来た頃も別世界に感じていたが、それに慣れると貴族の生活がものすごいことに気づかされた。
まあ、これでも日本での生活ほど、快適とは言えないのだが、それも遠い記憶のように感じる。
用意された部屋で琉海たちは思い思いに過ごしたのだった。




