孤独
2章「孤独」
『ごめん、ミリー。』
足元には無数の酒の空き瓶。
宵闇の中、差し込む一筋の月光。
左手には、鈍く光を携えた一丁の拳銃を。
右手には、鋭く光を携えた一振りのナイフを。
もう、決めた事なんだ。
『こんな手紙、素面で書けなかったな。
・・・嘘でも、ミリーを泣かせたくなかった。』
シュナイザー様、泣いていらっしゃるんですか?
ベルムの孫のカインは忠実に尽くしてくれる侍従だ。
唯一、この計画を知っている共犯者。
カイン、後は、手筈どおりに。
この夜、シュナイザー=ワルトリンゲンは居城にしている領主館から忽然と姿を消した。
もちろん、行方を知る人間などいない。
奇しくもこの日、先代ワルトリンゲン侯爵夫妻の命日まで三ヶ月を数えた日だった。
『シュナが行方不明って本当なの?カイン。』
本当です。昨日の夜は、たくさんのお酒を所望されていらっしゃいましたが・・・。
いつもと変わらない・・・。
もう、泣きそうなミレイユ様にこの事を伝えるのは嫌なんだけどな・・・。
本当です。
答える声が震える。
『・・・う、そ。
嘘よ、こんなの。シュナは嘘でも、別れなんて言わない。
残される事が、どんなに辛い事か分かるっ、て・・・。』
涙をこぼすミレイユに手紙を最後まで読むことは出来なかった。
『ミレイユ様にはシュナイザー様が不在時の領主代理の仕事を全うしていただきたい。
そして、もしもシュナイザー様の死亡が判明したときには、ミレイユ様にワルトリンゲン女侯爵の継承権が譲られます。』
本来なら、ワルトリンゲン家の家督はシュナの父上、故ワルトリンゲン先代候の弟なり甥なりの男系氏族に、つまり、シュナの叔父か従兄弟に譲られるべきなのだ。
『なぜ?なぜ、あたしに継承権があるの?』
あたしの問いに手紙を読み上げていたカインが、顔を上げる。
ポルックス男爵家に置かれましては父母の亡くなりし時、一方ならぬ恩恵を受け、その恩義に報いるべく、有事の際には、ミレイユ=ポルックス男爵令嬢に家督を譲りたい。
公式にシュナイザー様が家督を継承されたときに、家督相続者が居ない事について言及されたときの言葉だ。
でも、本当は。
ミレイユ様を想うシュナイザー様の心が表れた結果だと思っている。
シュナイザー様、お早くミレイユ様の元に生きてお戻りください。
ワルトリンゲン家に仕える皆が総意です。
あなたは孤独の星のもとで生きているのではない――――。




