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恋敵には実力では敵いません

 初めての魔物の討伐で挫折を味わってから、俺はさらに剣術の稽古に励むようになった。ミケーレさんをはじめとして、騎士団の実力者に一撃を入れることもできるようになり、魔法を同時に使った戦闘方法も編み出そうと頑張った。

 それと同時に魔物の討伐には積極的に関わって実戦経験を積んだ。勇者のパーティに加わることになる聖女のアリアとの関係も良好で、そろそろ旅立つ頃になるんじゃないかという話も出てきた。



「リョウ、そろそろパーティに加わる人員の選定に入るが、誰か希望者は居るか?」


「ああ、そうだな……。できればミケーレさんが一緒なら頼もしいと思う。俺の担当教官をしてくれてたし、気心知れているっていうか」


「ミケーレか? 一応聞いては見るが、彼女は難しいと思うぞ?」


「俺は強制なんかしたりしないよ。こっちでも会う機会があるから直接聞いてみる」



 このころになると王子は俺の友人のような関係になった。パーティメンバーに誰を選ぶかと聞かれたときに、真っ先に思い浮かんだのがミケーレさんだった。

 そのことを伝えると王子は怪訝な顔になった。この国の五指に入るほど騎士として優秀で、今後は皇太子の婚約者の護衛隊の任に就くだろうから、彼女をパーティに加えるのは難しいだろうと言った。

 でも直接会って話してみなければわからないじゃないか、騎士は国や民を守る者だろう? 俺はパーティに勧誘はするけど、強制はしないと王子に言うと彼はそれならいいと言ってくれた。



 次の日、剣術の訓練でミケーレさんに俺のパーティに入ってほしいと頼んでみた。

 王子には無理だろうなと言われていたからダメで元々だけど、本人に聞かないと納得できなかったんだ。



「ごめんなさい。私はリョウのパーティに入ることはできない。第一王子様の婚約者セレスティア様が嫁いでこられたら私は姫直属の騎士として護衛隊をまとめなきゃいけないのよ。そういうわけで私はこの城を出るわけにはいかないの。まぁ他の理由もあるけどね」


「……他の理由って、クライフ大隊長がいるから?」


「えっ、知っていたの!? 近いうちに彼と婚約するの。セレスティア様にお仕えするには既婚者でなければいけなかったから、予定よりも少し早まっちゃったけど。もう、せっかく結婚式の招待状を送って驚かそうとしていたのに!」



 ミケーレさんにはすがすがしい程きっぱりとお断りされてしまった。次に配置になる部署も決まっていて、恋人であるロビン=クライフとの結婚も決まっている。幸せそうな彼女を見て、俺は胸が痛くなると同時に仄暗い感情が湧き上がってくるのを感じた。





 その後、俺は王子にミケーレさんの勧誘に失敗したことを伝えた。王子はだから無理だといっただろうと、彼女よりも強い人も騎士団の中に居るからその人たちに合わせてやろうと言ってくれた。

 勇者としてやらなくてはいけないことは他にもあったから、俺はそちらに力を入れることにした。

 一般常識に関することは、おおよそ身に着けてられたと言われたため、今後は後援者になってくれる貴族との親睦を図るために夜会に出なければいけないとのことで、今は作法の先生が付いている。ザマスって語尾につけたくなるくらいツンツンした女性だったけど、地味な服装をしているわりにグラマラスな体系をしていて、ニコッと微笑みかけて小さなことや容姿を褒めていたらわりとすぐに落ちた。


 先生から作法に関して合格点が出たころに、王家主催の舞踏会が開かれることになった。この国の貴族や有力者が勢ぞろいしており、その貴族のご令嬢も参加していた。華やかなドレスに身を包んだ彼女たちからダンスの誘いがかなり舞い込んだけど、作法のレッスンでダンスに関してはまだ不安が残っていたので、申し訳ないけれど辞退させてもらった。

 音楽に合わせて踊っている人たちを眺めていると、近衛騎士団の団長に声をかけられた。この人は公爵という爵位を持ちながらも騎士団を率いている人物だと教えてもらったことがあった。



「勇者殿は今宵の催しはお楽しみですかな?」


「はい、初めてなので緊張はしていますが」



 貴族と話をする際は言質を取られることに気をつけろと教わったから、無難な受け答えをしておいた。っていうか、今までミケーレさん以外の近衛騎士団の人とは関わりがなかったので、何の用事だろうとおもった。



「一つお聞きしたいことがございまして。勇者殿のパーティに加える者は、既にお決まりですかな?」


「あ、いや……。お恥ずかしながら俺の剣術指南役をされているミケーレさんを誘ったのですが、断られてしまいまして……」


「彼女は優秀ですからな、勇者殿がお誘いになるのもわかる」



 俺はミケーレさんをパーティに勧誘した話をしたが、やはり近衛騎士団長もミケーレさんが抜ける穴は大きいと感じていたのだろう。少しばかり気まずくて言い訳をしてしまった。



「ところで、勇者殿は彼女をどうしてもパーティに迎え入れたいとお考えのようですが、違いますかな?」


「ええ、俺がここに来てからずっと稽古に付き合ってくれましたから、彼女みたいに気心している人がいると安心だったんですけど。こればかりは仕方ないと思っておりますので……」


「それでしたら、私が騎士団長として命令をしましょう」


「えっ!?」


「彼女が抜ける穴は確かに大きい。我が国の騎士の中でも特に優秀な者の一人ですからな。しかし、その穴を埋める人材を他の騎士団より引き抜くことができますから、大丈夫ですよ。たとえば、クライフ大隊長ならその穴埋めにぴったりな人材ですからな」


「……」


「駄目で元々と考えていたのなら、少しばかり待ってみるのも一興かと思いますがね」



 近衛騎士団長のあまりの言い分に俺は何も言い返せなかった。もしミケーレさんが俺のパーティに入ってくれるなら、とても喜ばしいが彼女の幸せをぶち壊すことになる。そうなったら俺に対して彼女はもう笑いかけてくれなくなるだろう。

 近衛騎士団長は不敵な笑みを浮かべているのを見た俺は、一抹の不安を感じながら彼が舞踏会の人ごみに消えていくのを呆然と見送ったのだった。







 しばらくしたのち、クライフ大隊長が近衛騎士団に異動となった。彼の異動に伴い第五騎士団のクライフ隊は解体され他の隊に吸収されることになった。ロビン=クライフ本人はたかが中流貴族出身でさらには妾腹だということで、近衛騎士団では冷遇され不当な扱いを受けるようになったらしい。俺のところには噂しか聞こえてこなかったが、なんでもSランク超えのドラゴンの討伐や、本来なら近衛騎士には任されないはずの遠征などに行かされるようになったという話を聞いた。

 最終的には、国に忠誠を誓う者に対する処遇がこれかと近衛騎士団長に対して怒鳴りつけ、ロビン=クライフは騎士団を辞めた。

 それと同じくしてミケーレさんにも勇者のパーティに加わるよう辞令が出たが、彼女も辞令を拒否しロビン=クライフを追うように騎士団を去って行った。


 俺が彼女をパーティに欲しいと望んだが為に、二人の人生を狂わせてしまったことを後悔した。王国で一番の騎士だったロビン=クライフが騎士団を辞めたことが次第に広まり、彼とミケーレさんを慕う騎士たちからの非難めいた視線が怖くなり、俺は王子にパーティメンバーは旅の中で探すと言って、逃げるようにアリアと一緒に旅に出た。



 そして旅をしていくうちに、聖女のアリアをはじめとして、商人見習いだったサラ、エルフの魔導師ブレンダ、竜族の戦士のクロエ、獣人のシーフのシーと知り合ってパーティを組むことになった。

 今はまだ、みんなに支えられている未熟な勇者でミケーレさんたちに合わせる顔がないけれど、魔王の討伐をして俺が魔王を倒した勇者だと自信を持って胸を張れるようになったら、彼女たちを探して謝ろうと思う。


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