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走れ勇者1

 俺たちは王宮の一室に居た。

 目の前には王子であるライオネルと、その側近のメルヴィンが険しい表情で俺たちのことを見ていた。俺が謁見の手続きを無視したことが原因だと思う。

 それに関しては俺が悪いとは思うけども、ライオネルに会いたいって連絡を出したら会うのに2日も待たされる。マジで、まどろっこしいことするなよといつも思うんだ。



「いきなり王宮に戻ってきたと思ったら、元奴隷を見つけてほしいとか馬鹿じゃないんですか?」


「勇者君になんてこと言うのよ!」


「はぁ……。あなたの仲間は礼儀知らずにも程がありますな、ライオネル殿下こやつらを追い出しても構いませんか?」



 だって、俺ってこの国の勇者よ、勇者!

 人々の希望の光を背負って立っている人だよ!?

 王族が俺を信用していないってどういうことだよ?!


 俺の嘆願書に目を通したメルヴィンがため息を付きつつ、こちらに嫌味を言ってきた。

 ちなみに嘆願書は、俺の無駄話に付き合っている暇が惜しいということで、待ち時間にメルヴィンに書かされたんだ。嘆願書の書式なんか知らないからとりあえず要望を書いた。

 サラが居なくなってから既に1週間が経過している。あんな可愛い子を野に放ったら、ロリコンやらペド野郎が群がるに決まっているんだ! 旅の間は俺たちが守っていたから安全だったが、俺たちから離れたらどんな危険な目に合うかあの子は知らないだろうから……。

 俺に対する態度が悪かったメルヴィンを咎めるようにブレンダが食って掛かっているが、そんな様子もシカトしていたライオネルが俺の書いた嘆願書を軽く眺め、ため息を付いた。



「メルヴィンの言うとおり、前に聖女のアリア殿の捜索をしたときは魔王討伐後の魔素の浄化という任があったゆえ国としても協力をしたが、ただの一般人にそのようなことはできない」


「一般人って……。サラは俺たちの仲間だったんだぞ!? どうでもいい存在なんかじゃない!」


「話を聞くに、その元奴隷だった子供はリョウから渡された金をコツコツ貯め、法に従い債務を整理してから出て行ったのだろう? 問題がどこにある?」


「そ、そんなの誰かに唆されたに決まっている!」


「では、そう思う根拠はなんだ? 私は手元に金があって何時でも奴隷という身分が捨てられるのであれば、さっさと解放されたいと思うのが真理だと思うがな。それとも何か? その子が唆されたという証拠でもあるのか?」



 いちいちライオネルが言っていることが正論過ぎてムカつくことこの上ない。アリアも同じように感じたのかライオネルに対して不満げな様子を隠そうともしなかった。

 ライオネルには証拠を出せと言われたが、証拠なんかはない。俺は思わず口ごもってしまった。

 奴隷商人が何かを知っているかと思ったが、あいつはサラの行き先なんかは知らなかった。サラの行方はシーに頼んで盗賊ギルドで捜してもらっているものの、それほど目立った成果は出ていないからここに来たのに……。



「まぁまぁ、殿下。勇者殿も言いたいことはあるでしょうが、今回限りということで力を貸してやっては頂けませんか?」


「何故だ。宰相?」


「ええ、私の手の者が盗賊ギルドに勇者殿が頻繁に出入りしているとの知らせをくれましてねぇ、そんな輩と付き合って評判が悪くなるくらいならばこちらで手配した方が良いかと思っただけです」



 痛烈な皮肉でブレンダが宰相にとびかかろうとしたが、クロエが慌てて止めてくれた。

 この宰相はミケーレさんのお兄さんだ。ミケーレさんと雰囲気が驚くほど良く似ているのに食えない性格の持ち主だ。しかも毒舌。

 ミケーレさんが国を捨てなければいけなくなった原因を作った俺は、完璧にこの人に嫌われている。

 宰相が言うことはもっともだ。勇者というのは国の看板を背負っているから下手な行動をとったりすると、国の評判が悪くなったりするからな……。

 シーの好意とはいえ、安易に裏組織を使うんじゃなかった……。



「はぁ……。わかった。私の力の及ぶ範囲内(・・・・・・・・・・)なら協力をしよう。ただし、いくらリョウの頼みと言えども私情を挟んだ依頼はこれが最後だ」


「あ、ありがとう! ライオネル!!」



 俺の私情でライオネルに頼るのはこれが最後であると釘を刺されてしまったが、ライオネルの立場を考えれば仕方ないことだ、今後は気を付けることにしよう。

 俺たちのパーティの資金繰りをどうにかしてくれていたのはサラだったから、サラが戻ってくるまでの資金繰りをどうするかを考える必要がある。

 でもまぁ、俺たちは結構な高給取りだからそのあたりは大丈夫だと思うんだよね。

 食と住は共通の財布から出して、装備に関しては自分たちでやりくりしてもらうのが一番だしなっ! 報酬を五等分にしておけば当面の資金的に問題はないだろう。




 サラが居なくなって二週間が経った。

 ライオネルやメルヴィンからはサラに関する情報は特になく、俺も段々と焦れてきた。

 何度も王宮に足を運ぶけれども、追加の情報もない。ライオネルに取り次ぎを頼もうとするが、そんな些末なことは殿下には報告はいきませんとメルヴィンに一喝されてしまう。

 だが、こちらもこれ以上は待てないと訴えるも忙しいと一蹴され、そんな暇があるなら討伐の一つでもしろと更に説教も加わった。

 そうこうしているうちに、パーティの財布の資金が乏しくなりはじめ、ギルドの依頼を引き受けることを優先しなければならなくなってきた。



「この依頼はどうかな?」


「いいんじゃないか? 何度も倒した魔物だから、それほど難しくはなかったような覚えがある」


「私も賛成です。町の近くにいるのならば、早めに駆除しないと民にさらに大きな被害が及ぶ恐れがありますし」



 依頼の内容を決めるときはクロエと相談して決定することにしている。戦闘に関しては、俺よりも経験豊富な彼女の意見が重要だった。

 近場に町があるために民衆にも被害が出つつあるために、緊急性が高い依頼でもあった。王国にはSランク冒険者が少ないために、俺たちが率先して引き受ける必要もあり、この依頼を受けることで決まった。



「これは、酷い……」


 

 馬車に揺られながら依頼の場所に付くと、予想外に酷い状況だった。

 町の近くであると言うこともあり、騎士団が魔物の群れをけん制しているために人的被害は出ていないものの、バリケードはところどころ破損しており、騎士たちを中心に負傷者が多数いる状況だった。



「アリアはすぐに負傷者の手当てをしてくれ! 俺たちはここの指揮官に会ってくる」


「わかりました!」



 負傷者たちはアリアたち任せ、俺とクロエは指揮官の元に向かうことにした。負傷者たちは治癒のプロフェッショナルであるアリアが居れば心配はないだろう。



「これはこれは、勇者殿。随分と遅いお付きですな」


「……遅くなり申し訳ない。王都からこの場所までかなり急いだのですが……」



 指揮官は俺たちを見るなり、眉間にシワを寄せた。これでも依頼を受けてからすぐに駆け付けたのにどういう言い草かと思ったが、負傷した騎士たちの様子を見る限り、そう言われてもおかしくないと考え、俺は謝罪をした。

 軍人である彼らは俺たちに不満を持ってはいるものの、この村の状況を詳しく教えてくれた。王国のギルドにはSランクの冒険者が少ないために、騎士団がかなりの頻度で魔物の討伐を引き受けている。そのため実力者も多い。だが、近頃災害級と呼ばれる魔物の被害が各地で報告されており各騎士団に討伐の命が下るのだが、災害級ともなるとそれに対応できる騎士団は第五騎士団のみになってしまうのだそうだ。精鋭ぞろいの第五騎士団も人手を各地に割いてしまっているため人手が足りないのが現状だった。

 この場にいる彼らも、第五騎士団と地元の領主の兵たちと冒険者で構成されている討伐隊なのだが、未熟な冒険者が手柄を欲し先走り、目当ての魔物に中途半端に傷をつけたことが不運の始まりだったと言う。

 傷を負った魔物は怒り狂ったように暴れ、手を出した冒険者は死亡。討伐に参加した騎士や兵たちにもかなりの負傷者を出す結果になり、こちらに対してかなりの警戒心を持つようになってしまったのだそうだ。

 俺も手負いの魔物の討伐をしたことがあったけど、あれは凄くやり難い。向こうも死にもの狂いで襲いかかってくるものだから、通常よりもかなりの強さになっていることが多い。



「魔物を見つけたのはどのあたりだ?」


「この川の付近の森です。そう遠くには行っていないと思います」


「群れを率いているとか、特異個体とかそういったことは?」


「あれは群れない。比較的大きな個体ではあったが、特に変わった特徴はなかった。傷があるのは左側だ、左目には矢が刺さっているはずだ」


「……クロエ、俺たちで行けそうか?」


「手負いの獣だから強さは侮れないだろうが……。私たちなら問題ないだろう」


「よし! 俺たちで行くぞ!」



 俺たちに対して毒づいていた騎士たちも、俺たちのパーティで討伐に行くと言うと揃って不安そうな顔をしたが、俺たちならいける。騎士たちの様子を見ていたクロエも、何度も戦ったことがある相手だから問題はないといい、俺たちは作戦を練るために部屋を後にした。



 村にただ一つある宿屋の一室で、アリアたちは待っていた。

 負傷者は手遅れになる者もいなかったようで、全員治療が済んだとの報告があった。犠牲になった冒険者は、運が悪かったとしか言いようがないが、功を先走ったのが運の尽きだったのだろう。



「ってわけで、俺たちで討伐をすることになった」


「そのつもりだったから、問題はないよー」


「騎士たちには一応俺たちの援護に回るように頼んできたけど、群れもないってことだから、特に問題もないだろう」


「シーも村の周りを見て来たけど、足跡の大きさはちょっと大きめくらいの個体みたいだったから、大丈夫だと思うニャ」



 斥候として周りを見てきてくれたシーの意見も騎士たちの話を合致したから、特に問題はなさそうだ。討伐の手順としても、大きさが差ほど変わらないみたいだから以前に倒した時と同じで問題なさそうだ。

 さて、英気を養うために俺たちは早めに休むことにした。アリアとシーは結構働いてくれたみたいだから、すぐに寝息が聞こえてきた。クロエはというと、明日の討伐で血が騒ぐようで、剣の手入れをしている。

 誰かに手を出そうにも、俺たちの部屋の周りは騎士たちの部屋だからね、彼女たちの色っぽい声を聞かせてヤルのも癪だから、今日のところは我慢した。






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