第37話 やりたいこと、いっぱいあるの
「え……い、いいのっ!?本当にっ!?」
「ええ♪これからも城下町へ行くことを許可してあげる。もちろん、いろんなルールを作るけれど」
ベルハリア王国の中庭に、ティアネの歓喜の声が響き渡る。
煌王祭が終わり、とある平和な昼下がり。
ティアネたちはリーヴェ直々のお茶会に招かれ、中庭の一角で優雅な時を過ごしていた。
隣で小動物のように肩を震わせ、唾液を飲み込むことしかできないアルスティ。
「ただ普通にお話がしたかっただけよ。アルスティさんたちも気にしないで、ラクにしてね♪」
仮にも一国の国王とテーブルを囲んでいる事実に、全身の筋肉が硬直する。
ティーカップを持つ所作、お菓子をつまむ動作、腕を上げる角度……その他振る舞いすべてに“品”があるリーヴェたちの動きに、まったくついていくことができない。
「セニーナなんか一緒に座ってもくれないしっ!はい、じゃあ私が直接食べさせてあげるっ♪」
「んむぐ、はむ……んむ、んむ……ありがとうございます」
「え、ええぇっと……り、リーヴェ様……先ほど、その……」
「ああ♪商売許可証のことね。安心して。娘を導いてくれたお礼として……私の方から伝えておいてあげましょう」
「……っ!ありがとう、ござぃぁふす!」
「貴方さえよければ、メイドとしての働き口も用意しておきますからね♪イルゥニが気に入っていたわ♪」
「こ、こここっ、光栄です……!」
併せて、この昼下がりの『謁見』の機会を作ってくれたイルゥニへ感謝を述べる。
「それと……セニーナ。貴方も気に病むことはないわ。むしろ……ティアネを護ってくれて、ありがとう」
「……リーヴェ様……」
アルスティほどではないが、緊張によりこわばりがあったセニーナの雰囲気も幾分か和らぐ。
「そして……まだ、あるのでしょう?ティア」
「もちろんっ!ねえ、次は城下町のもっと外っ!私、ベルハリア王国の外に出てみたいのっ!」
「それはダメ♪認めることはできないわ。確定的にね」
何を言われるかわかりきっていたかのように目を閉じながら微笑み、ティーカップを持つ。
「えぇえ~~っ!!いいでしょっ!?アルスティとセニーナも一緒だからっ!」
「貴方の成長は目を見張るものがあるけれど、それでも、よ。この国の敷地内だけなら、私の目も届くから」
「んにににに……絶対言うと思った……!」
前のめりになり、肩で息をするように不満を表現していたティアネだが、意外にもすぐに落ち着き、「ふんっ」と鼻をならしてから綺麗に座り直す。
「(あれ……けっこう素直に、引き下がってる……?)」
「どうせ何言ったって認めてくれないのはわかってるからねっ。ね、そろそろ行きましょう、ふたりとも!」
「へ?……あっ、も、もうこんなに時間が……」
「楽しい時間ほど、んむ…んぐ、んむ…すぐに過ぎるとは、よくんむ……」
激しく椅子を鳴らすことなく立ち上がり、リーヴェに向けて手をかざすティアネ。
「お母様、ごちそうさまっ!片付けはしなくて平気っ?」
「ええ、私とイルゥニがやっておくわ。じゃあね♪」
「じゃあねっ!わからず屋のお母様っ!私の部屋に行きましょ、みんなっ!」
振り返り、指を自室へ向けながら宣言し、中庭から離れるティアネ。
「えっあ、あっ……ご、ごちそうさま、でしたっ!す、すす、すっごく美味しかったですっ!」
「ふふ♪お土産もあるわよ♪緊張で喉を通らなかったかもしれないでしょう?後ろに立ってる護衛騎士さんにも食べさせてあげて♪」
小包を取り出し、アルスティの手に添えるように自らの手を重ねるリーヴェ。
「(ぜ、全然味わかんなかったのバレてる~っ……!)」
せわしない動きで深々と頭を下げ、慌ただしくティアネを追いかけるアルスティ。
「……リーヴェ様。失礼致します」
「ええ♪また後でね♪」
静寂が訪れた中庭で、静かに佇むリーヴェ。
「――さて……どうなってしまうのかしらね……」
我が家の堅牢な城壁を眺めつつ、未来への不安と――確かな期待を込めて、小さく呟いた。
―
「カンタンな話よ。またこっそり出ちゃえばいいのっ♪」
「や、やっぱりですかぁ~~……」
「姫様。さすがに国外への脱走は私でも……」
再度、ティアネの自室。
かつて作戦会議に何度も使ったテーブルを囲みながら、“次”に繋げる会議を始める。
「さすがにダメかしら?じゃあ……じゃあもう、直接言っちゃいましょっ!お母様にっ♪」
手をぱんと叩き、本人にとってはベストアイデアのように語りだす。
「お母様がどうすれば納得してもらえるのか、考えてもらうのっ!試練でも、なんでも……それを私たちが突破して、認めさせるのよっ!国の外に出ていいルールを作ってもらうまで、しつこく言い続けてやるわっ!♪」
認められないのなら、認めさせればいい。
つまりは『何度でも正面から交渉する』事に変わりはないのだが、今回の脱出劇を経てティアネの精神はより屈強に育っていた。
「あんなに難しかった事もやり遂げた私たちなら、絶対にやれるわっ♪お母様公認で、ベルハリア王国の外に出てみせるのよっ!」
大ぶりで手を広げる動作は、自身の夢の大きさを表すように。
自信たっぷりの笑顔は、これからの未来の可能性を示すかのように。
広いのに狭い。大きいのに小さい。
そんな奇妙な感覚を抱き続けた自分の城。
そこから出たばかりのティアネの人生の歯車が――ゆっくりと、回りはじめた。
お読みいただき、ありがとうございました!
これにてお話は一区切りとなります。
また時間が取れたり、思いついたものがあれば続けられればなと思います!




