爪よ爆ぜろ 刃よ疾走れ
「まさか、本当にメリンダの障壁を破っちまうとはな。それよりお前、そんな剣みたいなのを腰にぶら下げといて魔法使いなのか」
魔法使いのエルフ―――メリンダが退場し、フィールドに残された俺とガロウは互いに少しずつ距離を取りながら言葉を交わす。
「残念だが、俺は魔法使いでもない」
「あ? じゃあなんだ、魔法も使える格闘家か?」
「違うな。俺は魔剣士ってやつだ」
「……マジかお前、あの中途半端役職?」
予想に反した俺の回答にガロウは一瞬呆けた表情になる。
「そんな顔するなよ。でも考えてみろ、どっちも極めたら最強だろ?」
「ハッ、そんなの理想論でしかねぇ! が、仮にお前が本気で魔剣士だって言うんなら、その剣抜いてみな」
完全に墓穴掘ったね、コレは。予選は拳だけでいきたかったんだけどな。ついうっかり口が滑っちまった。ナビさんの呆れ顔が脳裏に浮かぶ。
ま、でも最後の一人だしサクッと終わらせれば問題ないか。観客にも見えない程の一瞬で。
「悪いがこっちにも色々事情があるんだ。すぐに終わっちまうけど文句言うなよ?」
「ハッ、俺がお前の体を掻っ切るほうが先だぜ」
「―――行くぞ」
コイツは油断していい相手じゃない。メリンダの放った氷槍を躱したあの動き、あの野生の感覚は厄介だ。だからこそ、本気の一撃で必ず仕留める。
半身に構え、鞘と柄に手を掛ける。納刀したままの鮮変萬果に風属性の魔力を流し込み、それと同時に鞘の中で刃に沿って風の魔力を高速で循環させる。
今にも刃が外に飛び出していきそうなのを抑えつつ、それを一気に解放して全てを断ち切るこの斬撃。
――頼むからどこぞのオッサンみたいに勘で避けてくれるなよ?
「身体強化ッ!」
胸の前で両拳をかち合わせるとガロウの身体が銀色のオーラに包まれ、全体的にマッシブな肉体へと変化する。
体勢を低くして思い切りフィールドの床を蹴り、とても生身とは思えない、まるで弾丸のような速度でこちらに向かって迫ってくる。
「爆ぜろ、爆爪ォッ!」
激しいエネルギーが集約され、紅く破壊的なオーラを纏った鋭い爪がパチパチと火花を放ちながら俺に向けられる。
だがその技が俺に届くことはない。
今、お前が踏み込んだそこはもう、斬撃範囲内だ。
一思いに―――散れ。
「―――嵐刃、斬空ッ!」
鞘から抜き放たれた緑色の刀身。
不可視の斬撃が、一瞬で目の前の全てを斬り捨て去る。
◆ ◆ ◆
他の3グループより試合が一足先に終了し、俺は係員に「決勝選手合同控室【A】」と書かれた、かなり大きめの会議室のような部屋に案内された。
入って正面奥には大きなトーナメント表。今はまだ俺の名前しか表示されてないけど、ここにあと15人分の名前が追加されるわけだ。
ちなみに俺は第4グループ勝者らしいから、左から4番目の位置に名前がある。
しかも驚きなのが、このトーナメント表。壁とかに貼っつけてあるんじゃなくてしっかりとホログラムみたいに空間に投影されてるんだよな。
ここまでの技術があるならビルとかもっと凄い建築物が建っててもおかしくないとは思うんだけど、なぜかその辺は中世風のままなのが余計不思議でしょうがない。
「あー、ヒマだ」
隅に置いてあるソファにドカッと腰掛け、天井を仰ぎ見る。
ここに連れてこられたからといって、決勝戦まで特に何もすることがない。こんなことなら即決戦に持ち込むべきじゃなかったかもな。
『ご主人様、もし暇ならあちらの映像でも見ていたらどうですか?』
さも当然かのように、トーナメント表を挟んで部屋の両方の壁側へ投影されている闘技場のライブ配信映像。1〜4までの番号が映っているが、4番はもう誰もいないので何も変化もない静止画と化している。3番も土埃は舞っているものの、もう動きがないみたいだ。
『決勝戦で当たるかもしれない相手を見ておくのもいいと思いますよ?』
「だって多分俺の相手の3番グループの試合、もう終わってるぞ? なら別に見なくても……」
『そこで勝ち進んだらその次に当たる相手は、この1、2番のどちらかの勝者になるんですから見ておいて損はないと思いますけどね』
「ま、確かにそうだな。でも今見ちまったら後での楽しみが……」
『……お金、いいんですか?』
「是非見させていただきます! 目バチバチに開いて隅から隅まで観察いたします!」
頭の中で呆れたような溜め息が聞こえる。
◆ ◆ ◆
『ダイン選手、その屈強な肉体で戦斧を一振り! 皆まとめて吹き飛んだァー!!』
映像を通してでも伝わってくる迫力のある、よく通る声。
俺の時もあんな感じで実況やってくれてたのかもな。フィールド内では実況の声は全く聞こえなかったから、録画とかあるなら後で観てみたいもんだ。
『第1グループもこれで残るは二人きり! さぁて、決勝への切符はどっちが獲るんだーッ!?』
『だ、第2グループも見てみましょう……こちらもそろそろ決着が付く模様です。どうやらこのグループは珍しく、人族だけの集まりだったようですね』
『しかもそっちのグループ、魔法職一人もいないでしょ! 全員が剣持って斬り合ってさぁ、くじ運どうなってるんだーって言いたくなるわ。おっ、あの金髪くん結構強いな!』
『このグループは残り三人となっていますが、内二人が協力して金髪の選手を狙っているようです……』
『同時攻撃を……ハイ、躱す! そう、んでそこから切り返してぇ―――決まったァァ!!』
司会二人に注目されていた金髪の長剣使いが、見事向かってくる二人の剣士を斬り伏せて勝負が決まる。でも正直なところで言えばあの剣士、ガロウにも勝てるかは怪しいだろうな。
そんなことを考えていると、トーナメント表の3番の空欄が淡く光り、控室の扉がガチャリと開いた。




