敵の敵もそれまた敵
唐突な俺の宣言にフィールド内の選手たちがどよめく。
いきなり現れた、しかもさして有名というわけでもない男が突然、「自分を標的にしてくれ」だなんて言い出すんだからそりゃ当然だ。
「オイオイ兄ちゃん、そりゃ少し俺達をナメ過ぎじゃねぇか?」
大剣を担いだ男が嘲るように言い放つ。
「放っておけ。これは俺たちにとって絶好のチャンスなんだぜ? 上手く行けばすぐにライバルが一人消えるんだからな!」
例の狼男が鋭い爪を俺に向けながら、そのギラついた目を光らせニヤッと笑う。
「ってなわけで早速、俺から行かせてもらおうか!」
一瞬で距離を詰めてくる狼男。それと同時に魔法使いのエルフが俺達諸共吹き飛ばそうと魔法を展開し始める。
「フンッ!」
ものすごい風切り音を放ちながら振り下ろされる4本の爪。即座に、土魔法で形成した籠手でその威力を受け流すようにして躱す。
次いで反対の手から繰り出される爪撃を後ろに仰け反る形で避け、すぐ後ろに迫る、エルフの女が放ったバカみたいにデカい火の弾を風魔法で真っ二つにして捌く。二つに割られた火の弾は未だ周りで観戦しているだけの奴ら目掛けて容赦なく突っ込んでいき、盛大に爆ぜる。
あーぁ、早くも脱落者が一人出たみたいだ。場外に飛ばされてゲームオーバー、お疲れ様です!
敵の攻撃を別のヤツに当てて、なるべく自分が動かずに相手の数を少しずつ減らしていくこの戦法。龍獄の杜で集団で襲ってくるモンスター相手に戦ってた経験がここで活きてくるな。
敵の敵は味方? 違う違う。敵の敵もそれまた敵なので自滅は大歓迎だ。ハハハッ、これだから乱戦は楽しい!
今回の予選では俺は敢えて鮮変萬果を使わない。マスラルと闘りあったときみたいに、なるべくこの拳とちょっとした小手先の魔法だけで粘るつもりだ。これは俺のオッズを上げすぎないためにも絶対に死守しなきゃならない。
でもそれだけではどうにもならなくなったら、そのときは仕方なく使うけどな。まぁ、そればかりはそうならないことを祈るしかない。
「その頑丈そうに固めた拳は飾りかァ!?」
狼のしなるような身体の特性を存分に活かした蹴りが俺の腹目掛けて打ち込まれる。だが、俺が着ているのはそんなそよ風みたいな攻撃じゃビクともしない世界最高峰の防具。むしろダメージを受けるのはそっちの方だったりしてな。
「チッ……! お前、腹に何か仕込んでやがるのか?」
「いいや、何も?」
先程までの火の弾に変わり、降り注ぐ氷の槍を回避しながら俺と狼男はフィールド内を駆ける。あ、また余波で一人消えた。
「もう! ちょこまかとすばしっこい奴らね! いいわ、まずその足から潰してあげる。
―――大地の精霊よ、その威を発し地を揺るがせ! 【大爆震】!!」
エルフの魔法使いがそう叫ぶと、俺達が立っているフィールドの地面がぐにゃりと歪み始め、まるで波打つかのようにその上にいる者達を空中に放り投げる。
「こりゃ中々マズイぜ……」
俺の隣で同じく吹き飛ばされた狼男が呟く。
宙に浮いてる状態で攻撃をもらえば、もれなく揃って場外行きだ。今の攻撃で既に何人かはふっ飛んでったけど。ってか結局あいつら何もできずに場外で負けてるのなんか可哀想に思えてきたな、南無南無。
「穿ち抜け、【氷槍】!!」
さっき頭上から降ってきた氷の槍が、今度は空中にいる俺たち目掛けて真正面から猛スピードで打ち出される。
視界を埋め尽くす氷槍。一本の点としての攻撃なら大したことはないが、面として物量攻撃になると厄介だ。無数の棘が均一にこちらに向かって迫りくるこの感覚。剣山に生けられる花もこんな気分なのかもしれないな。
『ご主人様、鮮変萬果は使わなくてよろしいんですか』
『あぁ、大丈夫だ。考えなしなわけじゃない。ここは一つあのオッサンの技を借りるつもりさ』
マスラルが俺との模擬戦闘で使ったユニークスキル【雷霆】。アレを腕に纏った状態を再現できればイケるはずだ。
さぁ、来た! いくぜ一発勝負ッ!
「弾けろッ!!」
右腕一本にこれでもかと言うほど収束させた雷。それを思いっきり眼前に迫る氷槍にブチかます。
本来、絶縁体に近い性質を持つ氷に電気を通すことは難しい。だがそんな氷でも、ある一定値を超える高電圧下では絶縁破壊が起こり、電流が強制的に流れる。
また、流れた超高圧電流は大量の熱を生み、氷を溶かす。それにより発生した水にさらに追加で熱が加わることで水は一気に気化し、水蒸気爆発が起こるのだ。
そして今ここで、それと全く同じコトが起こった。
俺の拳を中心に吹き飛んだ氷槍の束。溶けた氷槍の表面から立ち昇る蒸気がその威力を物語っている。
「フゥンッ!!」
氷槍でできた分厚い氷の壁に空いた大穴から地上を見下ろすと、その大剣を地面に突き刺し、唯一空中への放出を免れた男がこの隙を突かんとすべくエルフの女目掛けて突進するのが目に入る。
良い機転の効かせ方だ。魔法使い相手を相手にするときには、前衛職ほど肉体強度のない術師本人を攻撃するのが定石だしな。―――マスラルは例外として。
だけど、やはりそこはこの大会に出場する力のある魔法使い。その対策もバッチリってわけらしい。
「なっ!?」
地面からいきなり生えてきた木の根っこのようなものに足を取られ、派手にすっ転ぶ大剣使い。死角から伸びてきた木の根には流石に気が付かなかったようだ。
「まずあなたから処理してあげる!」
何やら呪文を唱えたかと思うと、男の足を掴んでいた木の根が急激に成長し、まるで自我があるかのように男を大きく振り回して場外へ放り投げた。
これでフィールドに残っているのは俺と狼男、そしてエルフの魔法使いの3人だけとなった。所謂三つ巴ってやつだな。
「よし、これであとはあなた達だけね―――ッ!?」
狼男はエルフの女の意識が大剣使いに割かれていたその一瞬で距離を詰めていた。
ほんの少しだけ制御が緩み、速度と威力が落ちた氷槍をまるで水をかくように弾き飛ばし、その反動で着地。タラリアの空中歩行機能頼りで降りてきた俺と違って、アレは完全に野性味のある動きだった。
特段防具も着けていない魔法使いに狼男の鋭い爪が迫る。
―――ガキィィィン!!!
硬い物どうしが激しくぶつかったような音がフィールドに響き渡った。
「ふぅ、事前に準備しといてよかった」
4本の爪は彼女の周囲を覆うようにして展開された障壁のようなものに阻まれ、届くことはなかった。
「チッ、対物理障壁か!」
「そうよ。ガロウ、あなたのその爪じゃ、まず破ることなんてできない程のね」
対物理障壁……厄介だな。
いやまぁ、魔法でアホみたいに爆撃すれば攻略は難しくないとは思うけど、それじゃあわざわざこの戦闘スタイルを取った意味がない。どう攻略するかは悩みどころだ。
『ご主人様、あの障壁を破る面白い方法がありますよ』
『俺そんな便利なスキル持ってないぞ』
『アレは神龍ゼロノスみたいな絶対防御を付したものじゃないんです。それは即ち、ダメージを与え続ければいずれは崩壊するということ……』
『つまり解決策は“ひたすら殴れ”ってことか?』
『その通りです!』
自信たっぷりな声しやがって……
面白くもなんともねぇ、クッッソ脳筋なやり方じゃねーか! そういうのは俺じゃなくてあのオッサンの性分なんだよな!!
―――いや待て待て、ここは頭を使おう。俺はアレと違ってちゃんとした人間なんだ。ただ殴るだけじゃなくて、もっと効率的に障壁を壊せる方法があるじゃないか。
『ご主人様、今ちょっと悪い顔しましたね』
『そんなことないよ、ナビさん。ただ少し意地の悪いやり方を見つけだだけさ』




