武王祭開幕
「何とか間に合ったな」
いい歳したオッサンとその息子くらいの年齢の野郎が揃って街中を駆け抜けていく様は、さぞかし見ていてコメントしづらいものだったと思う。
「朝からこんなにダッシュする羽目になるとは思いませんでしたよ」
互いの利益が合致して協力することにした俺とマスラルは、武王祭が開催される町の中央にある巨大な闘技場の裏に来ていた。表側にある観客達の入場口と違い、こちらは選手専用の出入り口。係員らしき人が何人も慌ただしく行ったり来たりしている。
「いい準備運動になっただろ? それよりキョーヤ、俺が走りながら話したことは覚えてるな」
「はい、今大会の大まかなルールと戦闘の方式ですよね? それならバッチリです」
この武王祭とやらは参加者の人数が毎回かなり多いため、午前中に予選を、午後に決勝を行うらしい。何でも、世界中の力自慢が男女、職業問わず参戦してくるらしいから毎回かなり盛り上がるそうだ。
だけどあまりにも人数が多いからか、冒険者として出場できるのはCランク以上の者だけだとか。まぁそれでも最終的にトータルで160人くらいは予選に出るっていうんだから、かなりの規模だというのは想像に難くない。
午前の部は、今回集まった160と数人を大体10人1グループの計16のグループに適当に分け、そのグループ内での乱戦形式。最後まで舞台に立っていた者だけが決勝に進める、というものだそう。闘技場の広さの関係で一度に4グループまでしかできないそうだが、戦闘スペースが狭くなるよりかは断然コッチの方が良い。
午後の部は、予選で勝ち残った16人がトーナメント形式で闘い、見事4回勝ち抜いた者が優勝者となる仕組みだ。
でも残念なことに、Sランク冒険者たちはあまりにも強すぎて大会が成り立たなくなってしまうからという理由で出場は認められていないんだとか。本部席から解説・実況役として参加するらしい。
あって直接話してみたいし、何なら彼らの強さをこの目で見てみたかったけど、その顔を拝めるだけで今は良しとするしかないみたいだな。
「そろそろ時間だ。例の件は俺に任せておけ。100でいいんだよな?」
直ぐ側にいる係員の人に聞こえないよう小さな声でマスラルが俺に確認してくる。
「合ってますよ。じゃ、優勝もぎ取ってくるんで、終わったらメシでも行きましょう」
「ハハッ! 期待してるぞ!」
背中を軽くパンと叩かれ、俺は選手用入口へと向かった。
◆ ◆ ◆
マスラルと別れて10分。
俺たち出場選手は係員に案内され、闘技場内に入場した。4つの大きな円形状をした石製のフィールドが場内に設置され、その中でも俺が連れて来られたのは一番本部席とやらに近いフィールド。
そしてここに立った瞬間に分かった―――いや、強制的に知覚させられた。
空席はいくつかあるものの、目の前に並べられている12個の椅子に座っている者達から放たれている圧倒的なオーラ。己こそがこの世界で最強であると云わんばかりの風格。
―――間違いない。こいつらがSランク冒険者だ!
その中の一人がバッと席から立ち上がると、係員からマイクのような物を受け取り、観客全員からよく見えるバルコニーのような場所までツカツカと歩く。
すると、騒がしかった会場が一瞬で水を打ったように静まり返った。
「知ってる人も多いと思うけど一応自己紹介しとく。アタシはSランク冒険者やらせてもらってるシェーン! 今日はそこのウーロンと一緒に解説と実況を担当させてもらうよ。アタシはあんまり口が上手いほうじゃないから、皆で盛り上げていこうなッ!」
Sランク冒険者シェーンか……すごくハキハキと喋るヤツだな。なんか少々脳筋な感じもするけど、まぁ冒険者なんだし大抵皆そんなもんか。
「会場の皆、準備はいいか!? 只今を以って、第100回武王祭の開祭を宣言するッ!! 盛り上がっていこうぜッ!!」
「「「「「ウオオォォォォォォ!!!」」」」」
覇気の籠ったシェーンの声が広い闘技場に響く。その声に観客達も呼応するように叫び、場内が一気に熱に包まれた。なんか客席の一部から「姐さん今日もカッコいいーーー!!」みたいな叫び声が聞こえた気がするけど多分気の所為だと思う。
………というか、危うくスルー仕掛けたけどなんでマイクなんかがあるんだよ。これもアレか? また賢者様か?
「はい、じゃあウーロン! 説明の続き任せた!」
「え、あ、はい……どうも、リュウ=ウーロンと申します………こんな燃え粕みたいな自分ですが、精一杯頑張りますんで……今日一日よろしく……おねがいします」
「ほら、もっとシャキッとしな!!」
「は、はいぃ……ではまずルール説明から……―――」
集まっているSランクの中でも一番放つオーラが弱く(それでもAランク冒険者なんかに比べれば強いが)、ナヨナヨしい声で喋るウーロンという男が先程俺がマスラルから受けた説明を少し詳しく話し始めた。
………………
…………
……
「―――以上が今大会の規定となります。……それでは1分後に自分が合図をするので……それと同時に第1予選を開始します」
ウーロンがそう言い終えると、俺と同じフィールドにいる9人が素早く互いに距離を取るべく散開する。開始の合図を待つ中、フィールド内には互いを見つめ合い、牽制するかのような視線が飛び交う。
だけどこうして見ると皆種族も使う武器種もバラバラだ。隣の男は自分の体ほどもある大剣、目の前にいるエルフの女は格好からして魔法使い。ケモミミ生やしたワイルドな狼男みたいなのもいるし、中々にユニークな面子が集まってる。
「それではいきますよ……第1予選、始めっ!」
会場全体に鳴り響くゴングの重い音。それが空気を震わせると同時に、皆が一斉に動き出す。
動き出すといっても、無闇に動けば他の者からの標的になることは間違いないからか、慎重にジリジリと距離を詰めるだけ。
この予選は慣れない乱戦方式。人間相手の多対一を経験するいい機会だと思ったけど皆が足踏みしてるんじゃ意味がない。
ならどうするかって?
そんなの簡単なことさ。俺が注目を集めればいい。ここは一芝居打ってやろうじゃないか。
睨み合いが続く中、俺は堂々とフィールドの中央に向けて歩き始める。何人か目を見開き驚いた表情をしているが、当然だろう。俺が今からやろうとしているのは、普通ならやらないであろう自殺行為に等しいんだから。
真ん中にスッと立った俺は周りの奴らをくるりと一瞥して、敢えて煽るような口調で高らかに宣言する。
「聞け! 今から俺が一人でお前ら全員相手してやる。自信がある奴から掛かって来いッ!」




