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夢ある仕事はハイリスク

翌朝、採集した薬草を入れるためのカゴをギルドで借りた俺は、オリージネを出る人たちの列に並んでいた。まだ開門してないせいか、列は一向に動く気配を見せない。


体感時間はまだ朝6時くらいだ。こんなに早いのにここまで大勢の人がいるなんて思いもしなかった。

周りの人の話を小耳に挟んだ限り、冒険者の移動は基本自分の足か乗り合いの馬車しかないから、朝はすごく早いんだと。その代わりに、日が落ちる前にはさっさと切り上げて酒を(あお)るのが一般的らしい。


実際、昨晩のギルドは昼間っから酔いつぶれてた人達も含め、何人もが顔を赤くしてジョッキに注がれたエールを浴びるように飲んでいた。その中には他のメンバーより少し背丈が小さめの人も何人かいたけど、その人達は然程酔いが回ってないようだった気がする。身長が低い分、アルコールの分解能力が高いんだろうか。



「あっ、ハラルドさん! おはようございます!」


並んでいる人たちの列の前方から歩いてきた見知った顔に、咄嗟に声を掛ける。


「おう、昨日ぶりだな、キョーヤ! うーん、見たところ今から初依頼に行くって感じか?」


「はい、薬草採集ですね。ちゃんと見分けられるか心配ですが」


「なーに、そんなこと心配すんな! 薬草なんて適当に採って帰ってギルドの人に分類してもらえばいいんだからよ。

あっ、っていうか俺も聞いたぞ、昨日のギルド闘技場での話! あのアーク兄弟を一瞬で伸したんだってな!? すげぇ快挙じゃねーか!」


ワハハハと笑いながらハラルドさんが俺の肩を叩く。


「まぁ、なんと言いますか、二人での連携は息が合ってていいと思うんですけど、個人個人で見ると戦闘力は別にそこまで高くないっていうか……」


「それはそうだな。だから奴らは二人でCランク認定なんだし。でも俺達が奴らを煙たがってたのは別に理由があるんだよ」


「別の理由、ですか?」


「実はだな、奴らアーク兄弟は一応今は廃嫡されたとは言え、辺境伯の息子たちなんだ」


「辺境伯………?」


「あぁ、ここエレフセリア王国と隣接するベルム帝国の丁度国境付近に領地を構えてる御貴族様さ。ご先祖様が冒険者をしていて、遺跡発掘において偉大な功績を立てたおかげで、当時のエレフセリア国王から領地に加え爵位まで下賜されたんだと。

ホントに夢があるよなー、冒険者! それに比べて門衛なんて仕事はよぉ―――」



………エレフセリア王国? ベルム帝国!?

待て待て待て、どっちとも初耳な名前なんだが!?


確かにこの世界に来てから聞いた地名と言えば、いまいるこのオリージネくらいで国名とかはさっぱり聞かねーなとは思ってはいたけど、まさかここで来るとは!


「…………」


「ん? どうしたキョーヤ? 何か変なことでもあったか?」


それとも、俺の愚痴うるさかった? と頭を掻きながら笑うハラルド。


「え、あ、いや、何でもないです! 大丈夫です! だけどちょっと気になることがあってですね……」


「言ってみろ言ってみろ、俺に答えられることだったら何でも教えてやるぞ」


なんて気前のいい人なんだ。世界中、皆ハラルドみたいな性格になればいいのに。

……いや、それだと少々喧しいか。


「俺、遠い場所から目的もなくただ旅してきてここに辿り着いたんで、この辺の土地勘が全くないんですよ。だから国名もそうだし、ここオリージネの周りにも何があるのかとか、なーんも分からないんですよねぇ……」


「そう言えばそうだったな。まさかそんな状態でいきなり初依頼に行くとは思わなかったぜ。そうだ、ちょっとこのまま並んで待ってろ!」


そう言うと、ハラルドは門の方に向かって少し不安定な姿勢で走っていった。





◆ ◆ ◆


ハラルドが去ってから数分後、ついに門が開いたのか、列が一気に動き始めた。するとそこに、あせあせと彼が小走りで戻って来る。


「悪い、待たせた待たせた! ほらこれ、今のキョーヤに必要だと思ってな! 存分に使ってやってくれ」


一般的な筆箱くらいの大きさに丸められた、羊皮紙……? これは………!!


「そいつは、この周辺の地形とか街の名前を記した簡単な地図さ」


「いいでんすか!? こんな貴重なもの!」


この文明の発達具合からして、地図なんてものは大変貴重なものに違いない。ましてやパピルス紙じゃなくて羊皮紙製だ。一体いくらするんだコレ。まさか請求されたり……


「遠慮なく持ってけ。それは俺が冒険者をやってたときに使ってたもので、今は全く役に立ってないからな。それに、机の中で埃被ったままでいるより、外に連れ出してもらった方がそいつも喜ぶさ」


10秒前のふざけた思考にマジ殴りをカマしてやりたい。俺はこんな良い人になんて失礼なことを………とりあえず頬を軽く一つねり。


「急にどうした? なんでいきなり頬をつねって……」


「大丈夫です、気にしないで下さい。愚かな阿呆への戒めみたいなもんです。というかハラルドさんって元・冒険者だったんですか?」


「ハハハ、そうだぞ? これでもBランクの上位の方だったから、かなり強かったんだぜ?」


「……失礼かもしれませんが、それなのに今なんで門衛を?」


「よくあることさ。酷い怪我をしたり、強力な呪いに掛かったりして引退を余儀なくされることは多々あるんだよ。冒険者ってのは夢があると同時に、常に危険が付き纏う職業だからな。

かく言う俺も、モンスターに付けられた傷が原因で左足が上手く動かなくなっちまってな。こうなったらもう続けるのは中々に厳しい」


ハラルドは少し寂しそうな表情でコンコンと左足を叩く。


「治癒魔法とかでも治らないんですか?」


「あぁ、治癒師が治せるのはあくまでも発生直後の怪我だ。俺の場合、傷を負ってから街に戻るまでかなり時間がかかっちまったから、奥深くの傷までは完全に治し切れなかったんだ」


治癒師の治癒魔法も完璧じゃないってことだな。でも、だとしたら、俺が龍獄の杜で破天丸と殺りあったときに腕とか体を再生させたのは何に当たるんだ……?


「だけどこんな話も聞いたことがある。とある薬草から造り出された霊薬は治癒魔法でも治せないどんな重い病や怪我も立ちどころに完治させちまうってやつだ」


「そんな凄い薬草なんて実際にあるんですか?」


「あぁ。そいつは純粋で濃い魔力が何千年もかけてゆっくり染み込んだ土壌にのみ生育する“エリクシール草”、『神の霊薬』とも呼ばれるエリクサーの原料となる薬草さ。

ただ滅多に見つからないし、採取方法もかなり厳しいらしい。噂では採取してから五分以内に調合を始めないと枯れてしまうとか何とか」


「それじゃあ俺がもしひょっこり見つけてきても使えないってことですね……」


「ハハハッ! この周辺にそんな貴重なモンが生えてるわけないだろー! まっ、最初の依頼なんだ、気負わず楽しんでやってこい!」


門を出る所までついて来てくれたハラルドにお礼を言い、俺は貰った地図を手に森へ向かって歩き出した。

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