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呪魂転生 〜不運の象徴が征く異世界破呪の旅〜  作者: 鷹藤ナス
鬼を越え、龍を越え、至るは強者の道【龍獄の杜篇】
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Prologue:壊れかけの魂

 神々の聖域、天界。

 この日も輪廻の河の(ほとり)でひとりの女神が流れ行く魂たちを見つめていた。


 数多くの白く清らかな魂に混ざって一つだけ漆黒に染まり、ひび割れて、一際(ひときわ)異様な魂が彼女の目に留まった。


 まるで天界の意思に反するかのように禍々しいオーラを放っている黒い魂。偶然冥界への引導が渡されなかったのか、はたまた別の理由なのか――いずれにせよ一度目にした以上、見なかったことにはできない。女神は己の責務を全うすべく、真っ黒なその魂を恐る恐る拾い上げた。


『きゃっ!』


 静かな川面に響く女神の悲鳴。黒い魂が他者の干渉を拒絶したかのように、女神の手にバチッと衝撃が走った。


 本来なら新しく生まれてくる者たちの魂の管理は彼女の領分。無垢の魂を無事に送り出すのが彼女の使命である。だがこればかりは己の手に余ると判断したからか、魂の反発による手の痛みをそのままに、相談するべく神々の鎮座する円卓の間へと急いだ。






 ◆ ◆ ◆


 偶然輪廻の輪の中から見つけ出された今にも塵となって消えてしまいそうな魂。纏っている黒いオーラ、それは魂自身による淀みではなかった。何者かに課された呪いによって、かつてない程に()()()()それを前に神々は頭を悩ませる。


 鑑定の結果、判明したのは上級神である彼らでさえ手に余る呪いが4つも雁字搦め(がんじがらめ)になって掛けられていて、到底解呪・破呪の類のものはできそうにないということ。

 そして、それらの効果を打ち消せるようなレベルの祝福を与えようものなら、呪いが反発して魂が消滅してしまうということであった。


 まるで打つ手がないようなこの状況に、彼の神滅大戦で致命的な傷を負い、とてもこの場には出てくることができない創造神クリエを惜しむ声が溢れる。創造神である彼女ならばこの程度の呪い、破壊することなど造作もないであろうからだ。




『あっ、なら敢えてこそ、これと同類のものを掛けちゃえばいいんじゃないッスか?』




 ひとりの神がふとした提案。祝福でもなく、解呪でもなく、むしろの呪いの重ね掛け。通常とは真逆の発想に興味を持ったのか、他の神々も身を乗り出してそれを発案した神の方に視線を集める。


 新たに呪いを掛けるといっても、今の状態がさらに悪化するようなものを掛けては全く意味がない。そんなことをすれば魂の救済どころか瞬く間に消滅してしまう。つまり、今ある4つの呪いの効果を上手い具合に抑えつけられるような呪いでなくてはいけないのだ。


 自分たちでさえ手に負えないような代物を抑えつけられるようなものが果たして存在するのか……神々は頭を悩ませる。



『あ、あの……これとかどうでしょうか?』



 ここで天界の図書館の管理人をしている神がとある呪いを提案する。

 だがそれは、使い方をほんの僅かにでも誤れば不滅者である神すら脅かす牙となる禁呪の中の禁呪――“神呪(しんじゅ)”に該当するものであった。いくら穢された哀れな魂の救済のためとはいえ、そんな危険な代物を与えて良いのかどうか神々の中でも意見が割れる。





 渋る神もいるなか、魂を管理する女神はなんとしてもこの哀れな魂を救ってあげたいという思いが強かった。それは単に拾った者としての責任だけではない。

 彼女は感じ取っていた―――触れた時に微かに、けれど確かに伝わってきた前世の魂の持ち主の後悔の念を。その想いが彼女を突き動かす。


 しかし、その神呪を掛けるのも女神ひとりの力ではどうしようもない。上級神が力を合わせてようやっと1つ掛けるのが精一杯だからだ。なのでどうにかして彼らを説得し、協力してもらうほか道はない。



『―――皆さん、失敗するのが怖いんですか?』



 ざわつく円卓の間にポツリと響く女神の一声。その言葉に、何柱もの神たちが怒りを露わにした表情で女神を睨みつける。だがそれらをものともせず、女神は淡々と続ける。


『万が一にでも失敗して魂が消滅したら? 神呪が暴走したら? おそらくそう考えている者もいるでしょう。ですが、逆に考えてみてください。この壊れかけの魂のまま下界に送り出したとして、我々は黙ってそれを愚かにも見過ごした能無しとしてこの先過ごしてゆくのですか?』


『貴様、さっきから黙って聞いていれば良い気になりおって―――』


『では我々全員の力を以てしても、たかだか神呪1つを制御しきれる自信がないということですか?』


『そういう訳ではないが………』


『それなら皆さんで多数決を採りましょうよ、神呪をこの魂に与えるか否かの。私たちの大勢が賛同したのなら、正式なものとして承認されると思うんです』


 意見が割れる中で、出された結果には反対の者も強制的に従わざるを得ない、最も単純かつ公正な方法を女神は提案する。


『天界の掟にも従っているので、問題はないかと』


『俺も賛成ー!』


『わしも良いと思うぞ』


『では皆さん、この魂に5つ目の縛りとしてこちらの神呪を課して良いかの議決を採らせていただきます。賛成の皆様は挙手を―――』








 ◆ ◆ ◆


『この選択がどうかあなたを救いますように………』


 神々の祈りと共に新たな縛りを1つ追加されたその魂は、たちまち溢れ出る黒ぐろしさが消え、ひびも埋まり、他の魂と比べても遜色ない程に変化する。


『4つのうち最も危険なものの効果を和らげました。ですが、この先あなたが辿る道は決して平坦なものではないでしょう………いえ、むしろ周囲の者達と比べれば過酷とさえ言えるかもしれません。苦しいとは思いますが、決して諦めないでください。私たちがついています』


 女神の腕に優しく抱かれながら、壊れかけだった魂は徐々に温かさを取り戻していくかのように光りだす。


『さぁ、旅立ちの時間です。―――あなたの来世に幸あらんことを』


 他の神々が見守る中、初めに自身を拾い上げた女神によって再び輪廻の河に戻された魂は清らかな光に包まれてゆっくりと波間を漂っていった。






 そしてこの出来事から少しした後、地球のとある場所で一人の赤子が産声を上げる。“不運の象徴” 荒木京也(あらききょうや)の誕生である。

お忙しい中、本作に足を運んでいただき、ありがとうございます!

プロローグ、如何だったでしょうか?

この魂がどうなるのかは是非次の話でお楽しみください!!

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