闘魂派!! 陸奥屋プロレス!
さて、武将にチャレンジ♡
というコンテンツは、できる者とできない者との明暗を明確に浮き彫りにし、その達成者は真のツワモノとして掲示板で散々に罵られることとなった。
しかし、六人制試合に戻ると奇っ怪な事案が発生発生していた。
これを見たときにトヨムなどは、腹を抱えて笑い出したほどである。
いつもの六人制試合に出場したときのことである。
「リュウ先生……あれ、何に見えます?」
シャルローネさんが可笑しなことを訊いてきた。敵陣を指差している。まあ、敵が六人シフトを組んで立っていたのだが……。
「んんんっ!?」
思わず唸ってしまった。
「……シャルローネさん、私の目がどうにかしたのでなければ、和服に羽織に袴のプレイヤーに見えるのだが……」
「偶然ですね、リュウ先生。私にもそう見えます」
つまり、私と同じ服装の対戦者が……六人。それも和装の似合うアジア顔なんぞではなく、中世ヨーロッパ風というか、金髪碧眼の濃ゆい顔立ち。どう見ても和装には不釣りな面構えである。
そのクセ手にしているのは直剣諸刃の西洋武器。カイコの繭玉にスパイクを生やした長得物というのだから似合わないことこの上ない。
「のう、リュウ先生……。儂ぁ気付いたんじゃがのう……」
「言わないでくれ、セキトリ」
「じゃあアタイが言うね。もしかしてアレ、旦那や士郎先生の真似なんじゃ……」
「そうか、トヨム小隊長? 儂は偽物気取りかと思ったぞい」
「なんにしてもリュウ先生……人気者ですね〜〜……羨ましくありませんが」
シャルローネさんも言ってくれるものだ。
まあ、それだけ私や士郎さんのチャレンジ動画が再生回数を伸ばしたのだろう。
しかし私や士郎さんにとっては着慣れた稽古着なのだが、彼ら一般人にとってはどのような感覚なのであろうか? せっかくの和装なのだから、高評価であってもらいたいのだが。
しかし私の望みは叶わないだろう。銅鑼と同時に駆け出した彼らの姿を見て、確信した。
普通に走ってきたのだ。腕を振ってカカトで着地してという、和装にはまったく合わないフォームで走ってくる。
稽古着はそれほど厳密ではないが、それでも和装というのは基本的にワンピースである。よって腕と脚を逆に出す逆足の動きではすぐに着崩れを起こしてしまうのだ。
そら見ろ、もう上衣が肌けて襦袢丸出し、というか胸の合わせが開いてしまっている。
顔形は私の方が坂本龍馬なのだが、衣服のだらしなさはあちらが坂本龍馬だ。
肌けた衣服が手足に絡みつき、あるいは得物が絡みついてどうにもならなさそうだ。
「こんなこと旦那に言っても仕方ないんだけどさ〜〜、あの洋人サムライ。すっごく格好悪いよね?」
「うむ、大変に格好が悪い」
「で、私たちはすっかり楽しませてもらったんだけど、小隊長。あちらさん方をどうやって楽しませてましょう?」
シャルローネさんだ。トヨムが主張した「我々はみんなプロレスラー」という主義である。それを貫こうというのだ。
「まずはアタイが行くか……」
チャレンジコンテンツ以降、トヨムは柔道着の上衣にレギンス。ヒジ、ヒザ、スネにパットを当てて白い地下足袋を履いている。スネのレガースはスーパールーズソックスの下に仕込んであった。トヨムは拳を突き上げて出撃を宣言する。
「柔〇丸、セットアップ!」
やめんかアホたれ。トヨムの掛け声に、私は心の中でだけツッコミを入れる。そうだトヨム、お前は〇王丸ではなく、ジャイアント・トヨムだろうが。
そこを思い出したのだろう、ダッとストロング・スタイルのダッシュを見せようとしたトヨムは、泰然としたジャイアント・プロレスの動きに変わる。手を目の上にかざしたポーズから、親指で額を掻いて、「アッポ〜」と呟く。
もちろん胸をそびやかし、両肩を後ろに引いた、堂々とした「東洋の巨人」、あるいは「世界のジャイアント」といった構えである。
チビチビのトヨムなのだが、この試合はやけに頼もしく見えてしまう。そのトヨムにまず、メイスがタバコになって襲いかかった。しかしトヨムは右の手刀で、これを軽く払うだけ。次に襲ってきたのは直刃の剣、これもトヨムは軽く後退してかわす。
かわされた剣士の一人が泳いだ。トヨムはスッとその首に手をかけた。剣士の手首も取っている。そこからロープに振った!
しかしここはリング、四角いジャングルではない。剣士はメイスの使い手に背中から衝突した。
残念ながらキルには繋がらなかったが、トヨムに気落ちの雰囲気は無い。むしろハッスルしたように、近くの剣士に逆水平チョップ。メイスの使い手は胸を蹴りつける十六文キック。メイスの男は両手を上げて得物を放り出して倒れていった。
延髄斬り、空手チョップ。日本で人気の出るエースは、みな打撃技をフィニッシュホールドとしている。我らが『褐色の巨人……実はチビ』もまた、打撃技を駆使して大暴れ。強いぞ僕らのジャイアント・トヨム!
というやつだ。
その動きはまさしく東洋の巨人ジャイアント馬場そのものである。
「馬場さんサイコー!」
思わず私は声援を送ったが、小隊メンバーはみんな不思議そうな顔をしていた。
「あの……リュウ先生……馬場さんって誰ですか?」
シャルローネさんの言葉に、マミさんもカエデさんも深くうなずいている。
しまった! この娘たちはジャイアント馬場を知らない世代なのだ!
というか、かんがえてもみれば馬場さんが亡くなったのはもう二十年も前の話ではないか。……思えば遠くにきたもんだ。
いや、気を取り直せ、私。彼女らの疑問に答えることなく、けしかけてやらなければ。
「みんな、トヨム一人を戦わせるな! 行くぞ!」
まずはセキトリが突進、その勢いそのままに敵を片腕ですくい上げ、ボディ・スラムをお見舞いする。豪快に相手を持ち上げて、背中から叩きつける派手な技。この一発でキルを取る。
シャルローネさんはメイスを棒高跳びの要領で使い、両足の裏で敵を吹っ飛ばすドロップキック。マミさんはラリアットで大きな敵をなぎ倒した。
ではカエデさんは? キューティーを冠したカエデさん。そのやられっぷりは往年のミミ萩原を見るような思いであった。
かろうじて楯で深刻なダメージを防いではいるものの、カエデさんは敵にいいようになぶられ弄ばれ、地面に這いつくばっていた。
しかし逆転の一発を狙った眼差しは、まだ生き生きと輝いている。ああっ、また楯ごとふきとばされた。
もう立ち上がることもできないのか、それともフェイク……業界用語でケーフィーなのか?
カエデさんは大の字になってしまった。そこへトドメとばかり、敵の和装軍団は押し寄せるが、トヨムとシャルローネさんがカットに入る。セキトリも回しを取って上手投げで応戦していた。
どうにか立ち上がるカエデさんだが、すでに半死半生。虚ろな眼差しで足元をフラつかせていた。殺到する打ち漏らしの敵兵。しかしカエデさんは機敏だった。相撲の小手投げで群がる敵をバッタバッタと投げ捨てる。
小手投げは相撲では弱者の技でしかない。
その小手投げを選択したカエデさんのセンスときたら。まさにトヨム小隊切ってのプロレスラーと絶賛したくなった。
そしてここからが肝心要の主題である。敵チームは楽しんでくれているだろうか?
私たち小隊の動きは決して鋭敏ではない。しかし何故かそれでもキルが取れない。いつももう一歩のところでカットが入ったり逃げられたりして、敵のフラストレーションは最高潮なのではないかと思う。
ただ、敵は下手過ぎた。というか一般プレイヤーの領域そのままなのである。だからまともにクリティカルも取れないし、キルなど夢のまた夢。この程度の実力でよくもまあ、打たれれば死人部屋送りという和装に手を出したものだと、呆れる次第ではあった。
それでも私たちは僅差で有利という状況を維持し続ける。あと一人キルに繋げれば逆転も可能だよ、というシチュエーションを拵え、存分にもてなしていた。
それが通じているのか、敵は果敢に攻めてくる。ヘッポコ攻撃ではあるが。
それをときには受けて、見せ場を作っているうちに試合終了となったのだ。