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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
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【ぷりん】


 女子力向上委員会。

 あまりにも女子力の欠けているさいはて荘女性陣に嘆いたなっちゃんによって創立されて、記念すべき第一回集会が行われた。


「と、いうわけでプリンつくろぉ~」

「要はスイート作って食べる会な」

「ぷりん……」

「ぷりん、いいですね。でもようきがないかも」

「プリンに使えるようなちっちゃな耐熱容器、ないよね」


 メンバーは当然の如く、さいはて荘の女性オンリー。つまりは女子会。ってか、そういえば元軍人たちも男子会を開いたりしてんのかな。元国王と元軍人、爺が三人で呑みに行くのは時々あったけど。


「耐熱ボウルで作ればいいんじゃね」

「一気に女子力飛散したね」


 耐熱ボウルで作るでかでかプリン。それはそれで楽しそうだ。


「えぇ~!? 容器ないのぉ?」

「元国王なら持ってるだろーけど今爺さんと釣り行ってていねぇしな」

「お蝶さんはぁ?」

「茶碗蒸し用のなら店にあるけどよ、取りに行くのめんどくせぇ」

「あ、まぐかっぷでつくる?」

「いや、もうめんどくせぇから耐熱ボウルで作ろうや耐熱ボウルで」

「やだよぉ! かわいく作りたぁい」


「でっかいぷりん……食べとうございます」


 ぼそりと呟かれた元巫女の言葉、それが決め手だった。

 なっちゃんがぶーぶーふてくされていたけど元巫女が御所望なされたのだ、控えろい。

 そういうワケでプリン作りが始まった。カラメルは大家さんが作ることになって、ワタシは卵液のほう。お蝶は指導係、なっちゃんは応援係、元巫女はお祈り係らしい。なんじゃそら。


「卵液に泡が入らないようにしろよ~。ハンドミキサーをそっと真ん中に沈めるんだ。かき混ぜずにしばらく真ん中でじっとしてろ」


 ハンドミキサーにも使い方のコツがあって、液体に対して垂直に、動かさず中心部にしばらく沈めていれば泡立つことなく混ぜられるらしい。ほほう。


「馴染んできたらゆっくり回すんだ。そうそう上手」


 とろとろと卵液がクリーミーな色になって、ふわりふわりとバニラエッセンスの甘い香りを部屋中に充満させてくる。この時点でもう食べたい。


「たいねつぼうるはこれでいいかなぁ」

「ううう、女子力~」


 大家さんが取り出してきたガラス製の、デザイン性のかけらもないただの耐熱ボウルになっちゃんが嘆くが、スルーする。


「バター塗っとけ~そしたらカラメル敷いて、卵液を泡が入らないようにゆっくり流し込むんだ」

「うん」

「そしたらあとは蒸すだけなんだけどよ、蒸す温度にゃ気を付けねーと〝す〟ができてしまうんだよな」

「す?」

()──熱しすぎてぼこぼこ沸いて穴あきチーズみてーになるってこった」

「なるほど」


 プリンは材料が少なくて作り方も簡単だと思ってたけど、意外と奥が深い。


「せめてものわるあがきでデコレーション用の飾りもつくるぅ」


 何やらなっちゃんが生クリームやらチョコシロップやら作ってるのを傍目に、ワタシたちは耐熱ボウルを蒸し器に入れて布でくるむ。管理人室にある蒸し器は竹製、ってか蒸籠(せいろ)だから鍋と一緒に使うことになる。

 蒸したあとは冷やす作業もあるので地味に待たなければならない。ので、それまでお菓子をつまんでお喋りしようぜってことでポテチが出てきた。やっぱり女子力のかけらもない。




 ◆◇◆




 ぷるるん!!

 と、大皿の上で揺れる巨大なプリンにワタシたちは思わず感嘆の声を上げてしまう。


「デコレーションするのだぁ!」


 女子力をまだ諦めていなかったらしいなっちゃんが生クリームやらチョコシロップやらいちごやら色んなデザートでプリンを色鮮やかにデコレーションしていって、巨大プリン・ア・ラ・モードと化した。

 かなりの迫力である。なんせ直径二十五センチの大きな耐熱ボウルで作ったものだから素のプリンでも夕暮れ時の焦げ茶色に染まった裏山のようだった。それがカラフルにデコレーションされてお菓子の世界みたいな様相になっている。


「写真映えまちがいなしぃ!」

「かわいい。たべるのがもったいないねぇ」

「女子力ってか、女児力ってか……」

「お、うめぇなそれ」

「早く食べとうございます」


 うん、デかすぎて女子力は微妙だけど女児力は間違いなくある。ファンシーさ満点だ。──って元巫女、スプーン握り締めてスタンバイ完了してる。そんなに楽しみだったのか。


「いっただきま~す!!」


 記念すべき第一回女子力向上委員会の作品、女児力満載メルヘンランドデカプリン。

 さすがにこれだけ大きいと大味で、ちょっとまろやかさに物足りなさを感じたけれどみんなでスプーンを突っついて食べるプリンは、とてもおいしかった。



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