【おぞうに】
あけおめことよろ。
今年も無事、さいはて荘は新年を迎えることができた。それも住人みんなで! 管理人室に集まっているから前のさいはて荘のように四畳半でみっちみちのぎっちぎっちではない。
ではないんだけど。
「おい魔女、邪魔だ」
「うっさい、呪うぞ」
みんなで集まるためにとワタシたち家族三人には大きすぎる、大きめのローテーブル。冬の今はこたつに大変身である。
そこに十人も詰め込むとさすがに狭い。結局今年もみちみちのぎゅうぎゅうである。社長がげしげし足を蹴ってくるからぎゅむーって足の上に足のっけてやった。うん、足を伸ばせて快適快適。
「もとみこさん、ありがとう。ごめんね、じゅんびをまかせてしまって」
「いいえ、とんでもございません。大家さまは身重なのですから存分にお甘えになってください」
今年のお正月は元巫女が中心になっておせちやらお雑煮やら用意したらしい。ゆうべ、ワタシが元国王と元王子に連れ回されて除夜の鐘鳴らしまくっているうちにおせちが出来上がっていた。
「九尾火神社の神主さまの奥さまから教えて頂いた郷土のお雑煮なのですが、お口に合えば幸いでございます」
そう言われて眼前のお雑煮に改めて視線を落としてみる。白味噌のお汁にまんまるのおもちがふんわり沈んでいる。ふーむ、去年はすまし汁のお雑煮だったな確か。
「どこのレシピ?」
「香川県で一般的に作られているお雑煮だそうです」
おお、うどん県。
さっそくお箸を手に取ってお茶碗を持ち、まずはひと口啜ってみる。いりこだしに白味噌の甘みが加わってほっとする味になっている。うん、おいしい。今度はお雑煮の主役とも言えるおもちにお箸を伸ばしてがぶりと喰らいついた──ん? あまぁい……けど白味噌に融け込んでしつこい甘さにはならなぁい……ん?
「……ん? ──……あんもち?」
「はい。あん餅雑煮なのでございます」
なんと。
香川県ではお雑煮のおもちにあんもちを使うらしい。びっくりだ。味噌にあんこって発想、なかった。でもおいしい。
あんこの甘さを白味噌が落ち着いた、しっとりとした甘みに変えてくれていていくらでも食べられるというか。おぜんざいと一緒に食べる塩昆布的な? 知らんけど。
「まあまあだな」
「ね。おいしいよね」
出ました、社長の〝まあまあ〟!
「さあ魔女、行け」
「〝おかわりほしいです〟って素直に言え!!」
空にするの早すぎるわっ!! あとなんでワタシが行く前提!? お前が行け!! 行くけどさ!! ワタシもおかわりしたいし!!
[ん~、これはいいなぁ。おいしい。パンにも転用できないかなぁ]
「んぐんぐ……あんこに塩バター添えたパンとかあるだろ? ああいうのどうだ」
元国王とお蝶もこのお雑煮はおいしくて料理人魂刺激するものだったらしい。
「あ~、あるねぇ。ふむ~クリームチーズを添えるのもいいかなぁ。今度作ってみる」
「そしてそれをアタシが試食する~」
ワタシも試食する~。
「FOO! お雑煮を食べると一年が始まったって気分になるよ」
「すっかり日本人だな。さいはて荘に来たばかりの頃は箸なんか非効率的だとさいはて革命起こそうとしていたのにな」
元王子と元軍人もなごやかに──待て、なんだその革命。
「……忘れてくれたまえよ、ラストサムライ。あの頃のボクは箸がこの世で最も効率的な道具だと知らなかったんだ」
「フフフ」
なんか面白そうだから今度元軍人に聞いてみよう。
「あぁ~、おいしい~!! ──でも大家さん、あたしが参加しちゃってもよかったんですかぁ? 大家さんの赤ちゃんにもしものことがあったら……あたし、■■っ■■るし──」
「だいじょうぶ」
──混信で聞こえなかったけれど、何かを言ったなっちゃんに大家さんは優しい微笑みを向ける。
「だってここのみんな、だいじょうぶだもの。なんともないもの。だからだいじょうぶ」
「……うん、そっかぁ」
うん、いつも通り。
「なかなかにけったいな雑煮じゃのぉ。じゃが悪くないわい。元巫女よ、腕を上げたのぉ」
「ありがとうございます。以前は〝食〟にあまり関心がなかったのでございますが、最近は料理本をよく読むようになりました」
お雑煮に舌鼓打っている爺に元巫女が嬉しそうに笑っている。うん、平和。
「前のおぬしは平気で寝食惜しんで自戒しておったからのぉ。出されたメシは無駄にできないっちゅうおぬしの罪悪感を利用して食事させてた大家さん、あっぱれじゃわい」
「はい。感謝してもしきれません──わたくしは本当に、幸せでございます」
──うん。今日もさいはて荘は幸せだ。
「おい魔女、行け」
「早ッ!? だからおかわりほしいって普通に言え!!」
呪うぞ!!




