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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
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【てまきずし】


「あれ? もう脱いだっすか?」

「着物汚しちゃだめだしねー」


 豹南中一年団で初詣に行ったその日の昼、みんなで揃ってさいはて荘の管理人室にやってきた。ここでお昼ごはんをみんなで食べることになっているのだ。

 初詣に行く前にゆゆの家で赤色の着物を着つけてもらって、桃色の着物を着たゆゆや藍色の着物を着た大王と一緒に九尾火神社に行って、いおりんや坊主と合流して参拝してきたんだけどとっても楽しかった。おみくじもやった。コン吉だった。どういうこと。


「あ~、着物いいんだけどやっぱ窮屈だな~」

「寸胴が一番着物楽だってゆーからね~大王にはきっついかもねぇ」

「そう言いながらワタシ見るのやめろゆゆ」


 どうせ寸胴だよ!!


「ほらお前たち、手を洗ってきなさい。もう昼食だからな」


 そう言いながらおっきな寿司桶をこたつの上に置いてきた元軍人にワタシたちは頷いて洗面所へ向かう。

 手を洗い終えてリビングに戻った頃にはもうこたつの上が色鮮やかに彩られていて、すっかり準備が終わっていた。


「お母さん大丈夫? ワタシやるからあんまり動き回らないでね」

「ふふ、だいじょうぶ。すこしくらいうごかないとだめだし、それにほら」


 と、指差されて視線を向ければてきぱきとキッチンで動いている元軍人の姿があった。なるほど。


「みんなゆっくりたべてね」

「はいっす! ありがとうございますっす!」

「ありがとうございます」


 さいはて荘に初めて入った男子たちも最初こそエントランスのぬいぐるみたちと絵に圧倒されて萎縮してたけど、すっかり馴染んだみたいだ。


「いただきま~す!!」


 みんなでこたつの中に入って、レッツ昼食!

 今日のお昼ごはんは手巻き寿司である!! 具には錦糸卵、きゅうり、たくあん、カニかま、ツナマヨ、お刺身、ネギとろ、納豆、牛肉と玉ねぎの炒め物といろんなものが用意されている。あっ、アボカドもある。


「えびマヨアボカドにするっす」

「あ、それおいしそう」

「ネギとろにマグロとツナマヨぉ~」

「マグロしかねーじゃねーか。オレはやっぱり普通にサラダ巻きが好きだな」

「あっ、おいゆゆ! ツナ取りすぎだぞっ」


 てんやわんや。


「みんな、おれんじじゅーすとりんごじゅーすがあるけれどどっちがのみたい?」

「オレンジ!」「りんご!」「りんごぉ」「オレンジで」「……オレンジ」

「ああ、注ぐのは私がしよう。大家さん、ほら座って」

「ありがとう、もとぐんじんさん」


 ふたりの会話を聞いてふと気になったのか、いおりんがワタシに視線を向けてきた。


「〝魔女〟って言い出したのは黒錆自身でなのか?」


 さいはて荘は本名で呼び合わない。全くってワケじゃないけど、本名よりも通称で呼ぶほうが落ち着くからみんなそうしてる。ま、大家さんと元軍人は人目がなかったら名前呼び合っていちゃついてるけど。


「う~ん……あんま覚えてないなぁ。気付いたらワタシは〝魔女〟だった」


 さいはて荘に来たばかりの時って衰弱しきってたからなぁ。なんか気付いたらワタシは〝魔女〟で、それに違和感も何も覚えなかった。

 だからワタシは〝魔女〟なのだ。


「さいしょにいいだしたのって、おじいさんでしたっけ?」

「ああ、そうだったな。初めて爺と対面して、けれど警戒して〝(のろ)うぞ〟と言った魔女に爺さんが鉄拳制裁して〝簡単に人を(のろ)うんじゃない、半熟魔女っ子めが〟と叱ってな」

「あ~」


 そうだった。そういえばそうだった。

 それから(のろ)うんじゃなくて(まじな)うようになったんだった。


「ふぅん……変な、……不思議な場所だな、ここ」

「まぁね」


 そこは別に言い直さなくてもよかったのに。変なのは確かだもん。


「黒錆ちゃんってうちら呼んでるけど、魔女ちゃんじゃなくてよかったの?」

「ん、うん。黒錆って呼ばれるのも好きだから」


 〝魔女〟と呼ばれるのはとても落ち着く。

 けれど〝黒錆〟と呼ばれるのも、胸がぽかぽかあったかくなって好きなのだ。──お父さんとお母さんの娘なんだって、実感できるから。

 だからゆゆと大王がワタシのことをどれみって呼ぼうとした時に黒錆でお願いって頼んだのだ。別にどれみって名前が嫌いなワケじゃない。色々あったけれど、でも〝どれみ〟と名付けた瞬間の両親は──ワタシのことをちゃんと愛していたから。

 ま、ただのわがままってコト。


「な~んか現実世界と一線引いた非現実的な場所で暮らしてるって感じでロマンチックよねぇ~」

「……そお?」


 変人しかいないぞ。


「うちがここに住むならさ~〝姫〟って呼ばれてみたいかもぉ」

「姫(笑)」

「かますぞ庵」


 マジギレした。こっわ。


「うふふ、いつでもあそびにきてね。ときどきさいはてそうのみんなでばーべきゅーとかおなべとかながしそうめんとかしているから、そのときにはぜひおいで」

「明日は裏庭でもちつき大会をする予定だ。よければおいで」


 ああ、もちつき。

 元軍人の杵捌きに死人が出かけるアレね。


「わあ! いいんですかぁ!? 帰ったらパパとママに聞いてみますぅ!」

「オレも絶対行きます! 坊主といおりんも行くだろ?」

「はいっす! 親に聞いてみるっす!」

「……俺も両親に許可を貰えないか聞いてみます」


 もちつき大会ってか、正確に言うなら〝いかに元軍人の光速杵捌きに合いの手を入れられるか選手権〟だけど。

 前回は元国王が優勝した。死にかけてたけど。

 お前らも明日それに参加するんだぞ。覚悟しとけ。


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