【きつねうどん】
女子五人組でうどんこねた。
大家さんの愛情とお蝶の下心と元巫女の感謝となっちゃんの女子力とワタシの呪いが詰まった、うどん。
「さあ、たんと召し上がれ」
「…………」
社長の微妙な顔で今日も飯がうまい。
「しゃちょうさん、いつもありがとうございます」
「……いや。礼を言うのはこちらだ。大家さんにはいつも世話になっている」
「社長にはいつもうまい思いさせてもらってるからな~アタシたちの愛情たっぷりうどんでまたうまい思い頼むぜ」
「下心隠せ」
「社長さま、わたくしあのすてーきとうなじゅうの味が忘れられないのでございます」
「露骨だな」
「社長さんほんとありがとねぇ~! ほんとはもっとおしゃれにキッシュとか焼きたかったんだけどぉ……」
「それはそれで普通すぎてコメントに困る」
「ほらほら社長のだ~いすきなきつねうどん! わざわざワタシたちが作ってあげたんだから感謝して咽び泣きなさい!」
「ハッ」
鼻で笑われた。
それだけかい! 大家さん以外のみんなにも曲がりなりにもコメント寄越してるのにワタシに対してはそれだけかい!
呪うぞ!
「今回は麺だけじゃなくておあげの方も作ったんだぜぇ」
「そうなのか」
そうなのだ。
油揚げも手作りなのである。と、いっても木綿豆腐を水抜きして揚げただけだけど。でもこの水抜きってのがなかなか曲者らしく、変に水分が残ってると地獄を見るらしい。油が跳ねてオアーッ! ってなるだけじゃなくおあげにも穴が開いちゃうらしい。
「うどんもさ~、前に作った時よりもうまく作れたよねぇ」
ぽふ、と両手を合わせてふんわりとした笑顔を浮かべる女子力の塊なっちゃん──だが、今朝はうどんを足踏みしてこねていた。
「魔女ちゃん、なにか余計なこと考えていないかなぁ?」
「ううん、べつに」
心読むな。
「わたしたちもたべようか」
「おう。社長、よーく味わって食えよ」
「いただきまぁす!! あ、元巫女ちゃんしょうがとってぇ」
「はい。あっ、いえわたくしは七味は結構でございます」
「ワタシもいらな──かけるな!! コラー!!」
社長に七味唐辛子ぶっかけられた。おのれ。
──と、まあてんやわんやしつつもワタシたちはうどんをぞぞり始めた。爺から聞いて知ったんだけど、香川県では〝うどんをすする〟を〝うどんをぞぞる〟と言うらしい。ペンギンみたいなマスコットキャラクターがいて、それが言っていたらしい。真偽は知らん。
でもぞぞるって言葉なかなか語感がいいからこれからうどんを食べる時はぞぞるって言おう。
「おいしい」
にぼしでだしを取っためんつゆが麺によく合っておいしい。おあげもめんつゆとよく合う。いくらでもぞぞれる。
「まあまあだな」
お前いつもそれだな。
素直に〝わあおいしい〟って語尾にハート付きで言えよ。いや、やっぱり気持ち悪いから言わなくていい。
「おあげが非常に美味でございます」
「市販と違ってボリュームあっていいよな」
「お蝶さん、お店のメニューに手打ちうどんも入れないのぉ?」
「手間がかかる上に採算も取りにくいからなぁ、うどんは」
そうか、毎日うどんを食べるという気が狂っている県民の集う香川県でもなきゃうどんで採算取るのは難しいか。
うーむ、店のメニューひとつにも色々あるなぁ。
「魔女、お前元国王から依頼を請け負っているだろう?」
唐突に何か言い出してきたよこの人。話の流れぶった切るな、何様だ。ああ、俺様だった。
「うん。オーダーメイドで何かを作るってのをやってみようかと思って」
「悪くはない。元国王だけじゃなくお蝶やお前の学校のクラスメイトにも聞いてみろ。そうして〝要望〟への応え方をある程度知ったあと、まだハンドメイドを続ける気があれば俺様に言うことだな」
ノウハウくらいは教えてやる──そう言いながらうどんをぞぞる社長にワタシは思わず頷いていた。
本当にこいつ、俺様何様イヤミ野郎のくせに面倒見が良くて世話焼きだ。くそー、なんか悔しい。
「元国王には何を依頼されたんだ?」
「パン生地っぽいくまのぬいぐるみ。お店のレジカウンターに置くやつが欲しいって」
「お、いいなそれ。アタシも欲しいな~」
うちの店のエプロンをつけた猫のぬいぐるみが欲しい、と言ってきたお蝶にワタシは頷いて脳内で設計図を作る。
「もちろん代金は支払うぜ。ま、正式に開業届け出したってワケじゃねーからお小遣い扱いになるだろうが」
「そうだな。今はまだそれでいい。とりあえずやってみろ──その先に、どうしたいか考えろ」
やってみなければ何事も分からない。
考えるだけでは何も始まらない。
「そうですね。いうだけならかんたんだけれど、いざやってみるといがいにむずかしくてやめちゃうってこともおおいもの」
「言うは易く行うは難し、でございますね」
やらなければ何も始まらない。
「魔女ちゃんのやりたいこと、やれること見つかるといいねぇ」
「──うん」
だから、やってみる。
〝やる〟




