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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
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【やきにく】


 快晴! 暑くもなく寒くもなく!

 焼肉日和ッ!!


「やかましい」

「何も言ってないわよっ」

「お前の顔面がやかましい」

「何よそれっ!! 呪うぞっ!!」


 いきなり人の顔をやかましいって何様だ!! あーあー俺様何様イヤミ野郎でしたねそういえば!! 呪うぞおいっ!


「ほらほら魔女くん社長くん~じゃれ合ってないでほら、焼けたよ~」


 たんとお食べ、と元国王が差し出してきた小皿にはもさっと焼きたてほかほか、ジューシーな焼肉が盛られていた。食欲をダイレクトに発掘してくるたまらない牛肉の香り。よだれが出そうなのを堪えて小皿を受け取ってテーブルに置く。


「おい魔女、タレ寄越せ」

「〝ください〟でしょ!!」


 文句を言いながら社長にタレを入れた器を渡してやれば、我先にとぱくぱく焼肉を食べ始めやがった。コイツ……!

 ──ああ、改めて言わなくても分かると思うけれどただ今焼肉パーティー中である。さいはて荘の裏庭で、さいはて荘の住人十人総勢で焼肉である。元国王と元軍人が肉やら野菜やらおにぎりやらを焼いては小皿に盛り付けて、それを他のみんなが貪り喰らっている。


「紅葉見ながら食べるお肉は美味しいですねぇ~」

「ほんと。いいてんきだし、とってもきもちいいくうき! おにくがますますおいしいね」


 大家さんはなっちゃんとおしゃべりしながら和やかにお肉を頬張っている。いつものことだ。


「くぁーっ、ビールうっめぇ」

「焼肉にビール! 正義じゃの」


 お蝶と爺はビール片手に出来上がっている。いつものことだ。


「ほらホーリィガール、肉も食べたまえよ!」

「あっ、えっ、あっ……元王子さま、わたくしお肉はすこしで……あっ」


 野菜ばかり食べる元巫女の小皿に元王子が肉を盛り付けて元巫女を困惑させている。いつものことだ。


「元軍人さ~ん、ほらビール」

「む。ありがとう」


 普段は酒を呑まない元国王と元軍人もこの時ばかりはビール片手につまみ食いしながら肉を焼いている。いつものことだ。


「食わんのなら俺様が全部もらうぞ」

「あっ!! コラー!!」


 ひとりで全部食うな!! 社長お前金持ちの癖に妙に食い意地汚いな!?


 ──うむ、いつも通りである。


「魔女くん、はい牛さんセット」


 ふいに元国王に皿を渡されて、何事かと見てみれば肉が牛の形に並んでいた。なにこれ。


「牛肉の各パーツを並べたんだよ~。食べ比べてみて」

「おおっ」


 そういえば牛肉ってサーロインとかハラミとか色々パーツあるもんね。それを部位に合わせて並べたのか。

 ワタシはいそいそと牛さんの頭の部位から食べ始めることにする。


「えっと、これは」

「タンだな」

「分厚っ」


 タンっていうと薄いイメージがあったけどこのタン分厚い……と、思ったら社長が調達してきたタンらしい。なるほど。

 ちょろっとレモン汁につけてぱくりと頬張ればつるりとした弾力感と一緒に肉汁があふれて、そのたまらなさに破顔してしまった。ぎゅっぎゅっと締まった肉はとても歯触りがよい。肉汁たっぷりなのにとてもさっぱりした味わいでおいしい。たまらん。


「そっちはリブロースに肩ロース。ハラミにカルビ。ホルモン、ヒレ、サーロイン。ランプ、イチボ──まあまあ揃えたな」

「社長が金出すってんでアタシの人脈フル活用した」


 容赦ねえな。


「品質はタン以外中の上。及第点ギリギリだな──まあ定食屋を始めて間もないにしてはそこそこの人脈を築けているといったところか」


 お前も容赦ねえな。


「夜の店で働いてた頃のパイプも使ったんだけどな~。社長のセレブ人脈にゃかなわねぇか」

「俺様だからな」


 うるせぇ。


「そういえば魔法少女ちゃん、今月末の日曜日時間あるかい?」


 もきゅもきゅと牛さんセットを貪り喰らっているとふいに元王子に声掛けられて、ワタシは首を傾げる。もきゅもきゅとするのは止めない。だっておいしい。どの肉もおいしい。リブロースは濃厚だしヒレはまろやかだしホルモンは噛みごたえあるしイチボはザ☆肉! って感じだしたまらん。肉最高。白米くれ。


「ボクの店で職業体験してみないかい?」

「もふっ!? ──もふっ?」


 ──そういえば前、元王子の店でも職業体験を……って話をしたっけ。執事喫茶で働く……ふむ、悪くない。


「大王とゆゆも誘っていい?」

「勿論さ! 若い人材を育てるのはボクら大人の役目だからね。経験を積むチャンスは遠慮なく掴みたまえよ!」


 うん、悪くない。

 夏休み前に〝夢〟について考えるようになってから数ヶ月過ぎたけど──まだ答えは出ていない。ワタシは何をやりたいのか、何になりたいのか──まだ分からない。

 お蝶は言った。〝()()()〟だと。

 先生は言った。〝()()()〟だと。

 爺は言った。〝()()()〟だと。

 それぞれの話を聞いて、何故それが必要なのかはよく理解できた。染み入った。けれどでも、まだ分からない。必要なものは分かっても、ワタシはワタシの〝未来〟がまだ見えない。

 まだ、分からない。



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