【もんぶらん】
「くり!」
わっほい!
と、両手を挙げて喜んだワタシに元巫女がくすりと微笑む。
「魔女さまは栗がお好きだとお伺いしておりましたので、もんぶらんを選んでまいりました」
「うん! 大好き! ありがとう!」
お月さまの光を浴びてきらきらと輝く金糸雀色のイチョウ畑のような、てっぺんに黄金の栗を乗せたきらきらモンブラン。
「実に実のある旅だったよ。特に戦車の形をしたとんかつ──あれには感動したね」
元巫女は毎度恒例、元王子に連れ回されて聖地巡礼とやらで茨城に行ってきたんだそうだ。茨城には栗の町があるとかで、栗が有名らしい。そういうわけでモンブランを買って帰ってきたんだそうだ。素晴らしい。
「ボクらがどんなに願おうとアニメの世界に行くことは叶わない──だがしかし、近年のアニメは現実世界と非常に密接な関係にある。アニメと現実の融合──実在する町をアニメに利用しているんじゃあない……ボクらの世界が、アニメに取り込まれているのさ。それを実感できる聖地巡礼だったよ……」
「元巫女、飲み物はどうする? ワタシは珈琲にするけど……」
「日本茶はございますでしょうか?」
「昆布茶と梅茶……あと緑茶があるよ」
「では、緑茶をいただけませんでしょうか?」
「わかった。元王子は?」
「ボクも緑茶を。砂糖もひと匙頼むよ」
「緑茶に砂糖って、やっぱりよくわかんない」
元王子は緑茶に砂糖を入れて飲む。海外だとそれが主流で、お茶に糖分を入れず飲む日本がむしろ少数派であるらしい。元国王も日本に来たばかりのころは砂糖を入れて飲んでたって言ってた。
お茶とは甘いもの。世界規模で見ればそれが一般的だと知った時の衝撃よ。日本で甘いお茶といえば紅茶くらいだからな~。
「わたくしも元王子さまが緑茶にお砂糖をお入れになった際、思わず元王子さまの熱を測ってしまいました」
「あの時はびっくりしたね。いきなり〝お熱がおありなのですか!?〟っておでこに手を当ててきてさ」
「まあ、そりゃ日本人からしたらびっくりだよね」
想像したことすらないもんね。日本茶に砂糖。
それから三人分の飲み物を用意したワタシは元巫女や元王子と一緒に縁側に出て、秋の実りを誇っている畑と紅葉した裏山を眺めながらモンブランを食することにする。
「いただきまーす!」
金糸の繭のように何重にも何巻きにも重ねられているモンブランクリームにそうっとスプーンを差し込む。イチョウ畑で手のひら一杯にイチョウの葉っぱを掬い上げるような感覚で掬い上げた金糸雀色のモンブランクリームをぱくりと口に含む。濃厚な栗の甘みがふんわりと口内に広がって、口いっぱい秋色に染まる。おいしい。おいしい。たまらん。
「んんん~~~」
「美味しゅうございますね」
「んん~~~ん!」
口を開けたくない。返事しないとだけど、口を開けたくない。この栗の味わいを、この秋色をまだまだ口の中に封じ込めておきたい。
「幸せそうで何より! 朝イチに並んで買った甲斐があったね、ホーリィガール」
「ええ。魔女さまのこの幸せそうなお顔を見ておりますとわたくしもとても幸福な気持ちになります」
「んん~ん~」
やめろ、照れる。
──と、そこでようやく口内から秋色が薄れてきたのでふた口目を掬う。う~ん、この金糸のような輝きが素晴らしい。ブラボー。
「そうそう、大家さんに土産で栗を渡してあるから今夜か明日は栗料理がディナーに並ぶんじゃないかな?」
「おおっ」
栗ごはん! 栗おこわ! 栗きんとん! 栗の甘露煮!
うっはぁ~~~~。
「魔女さま、よだれが」
「おっと」
失礼。じゅるり。
「HAHAHA! 魔法少女ちゃんは本当に食いしん坊だね!」
「おいしいものは幸せをくれるもん」
食いしん坊で結構!
「その通りだ。おいしいものを大切な人たちと食べる、そうすればさらに幸せさ。──そういうワケでホーリィガール、今夜はフェアリーの店でディナーといかないかい?」
「はい。わたくしもそれを提案しようと考えておりました。帰ってきたばかりで買い物もしておりませんし……今夜はお蝶さまのところへまいりましょう」
爺も誘おうとか、元国王も仕事終わりを狙って連れ去ろうとか、そんな談笑をするふたりを肴にワタシはモンブランをゆっくり味わう。
おいしいものは大好き。
おいしいものを大切な人たちと食べるのも勿論大好き。
でもワタシはそれ以上に、さいはて荘のみんなが仲良くしているのを見るのが大好きだ。大好きでたまらない。
さいはて荘のみんなが幸せそうに笑っている、ただそれだけで──ワタシは涙が出そうになるくらい幸せな気持ちになるのだ。
そんな幸せな気分を味わいながらのモンブラン。ウム、最高な午後のひとときである。
──さいはて荘は今日も、平和だ。




