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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
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【やきそば】


 運動会!

 人生初の! 運動会!

 幼稚園の時のは記憶にないからノーカンで!!

 小学校に通っていなかったワタシにとっての、人生初の運動会。


「走れ魔女ぉぉおぉぉ!!」


「叫ぶなっ!!」


 お蝶の絶叫を背に受けながらグラウンドを駆け抜ける。と、言ってもワタシの足は遅い。てか運動神経自体あまりよくない。

 まあ死にかけるレベルで衰弱していたのから回復して数年しか経ってないし、体型がちょっと小さい中学生レベルにまでなっただけでも上々というものである。


「えっと、借り物は……」


 ちなみに今は学年対抗障害物競走中。中学一年・二年・三年・そして教師・保護者の五グループで障害物競走である。この競争なら運動神経よりも運に左右されるということで一番運動神経のないワタシが代表に選ばれたのだ。

 ……まあ前半の平均台や網をくぐるやつで一気にビリになったけど。

 あ、そうそう。保護者グループには元軍人が参加してる。始まった瞬間に姿見えなくなったけど。本気出すなや。


「……アイドル……?」


 障害物競走の後半は借り物競走となっている。そこで運悪いものに当たればたとえトップでもビリになりかねない。そしてワタシが拾った紙に書いてあったのは、〝アイドル〟という単語。

 ワタシはとりあえず、グラウンドの外周に集まっている生徒たちの家族集団の元へ向かった。


「元国王、カモン」

「えっぼく?」

「そう、ぼく」


 結果。一着。


 うむ。ゴールで〝アイドル〟と書かれた紙と元国王を先生(女)に見せたら一発で合格が出た。さすがは元国王である。


「ぼくがアイドルってなんで~」

「地元のマダムたちに愛されているからね」


 さすがゆーちゃんである。

 ──ちなみに元軍人だけど、〝ぶた〟が当たったらしく学校の裏にある飼育舎から豚を担いで持ってきて、二着。ぶたのお面を被ってグラウンド外周で待機していた先生ガン無視である。

 お前の父ちゃんなんなんだよって言われまくった。


 ──まあこんな感じでてんやわんやと運動会を楽しんで、……いや本当に楽しかった。運動会ってこんなに楽しいものなんだね。体を動かすのは疲れるけれど、でもすっきりもする。すごく楽しい。


 そうして午前の部を終えたワタシは汗だくの体でさいはて荘のみんなのところへ向かった。


「おつかれさま、まじょちゃん」


 大家さんが笑顔で迎え入れてくれて、ワタシにコップを差し出してくる。ありがたく受け取ってぐびぐび飲み干す。ぷはー。汗かいたあとのレモン水は最高だね。


「お母さん、おなかすいた」

「うふふ。だとおもっていっぱいつくってあるからみんなでたべよう?」

「うん!」

「随分体力つけたのう、魔女っ子。スクワット五回で倒れていたころが懐かしいわい」

「神社の階段で死にそうになっていた魔法少女ちゃんの成長、ボクは感動で今にも涙が零れそうだよ」

「うるさい」


 さいはて荘からは大家さんと元軍人の他に元国王、元王子、爺にお蝶が来ている。社長と元巫女は仕事で不在。なっちゃんはまあ、こういう多人数が参加するイベントに参加するわけにはいかないだろうから不在。

 そういうワケで七人でお弁当を囲むことになった。周りでもビニールシートを広げて家族でお弁当を囲んでいる姿が多く見られる。小中合同の運動会だからか、意外と人は多い。


「あっ、焼きそば」

「この間みたいに本気出してもよかったんだけどね~、どうせならジャンクなもので固めてもいいんじゃないかなって、今日はB級グルメ尽くしだよ~」


 そう言いながら焼きそばを小皿に盛り付けて差し出してきた元国王に礼を言って、割りばしを割って焼きそばをたっぷり挟んで豪快に頬張る。時間が経って少し冷めた、乾きかけのソース焼きそば。──けれどなんでだろう? 不思議とおいしく感じられる。


「んん~、おいし~」

「FOO! こんな天気のいい日に外で食べる弁当は最高だね! ──そうだ大家さん、今度さいはて荘のみんなで焼肉はどうだい? 裏庭でね、みんなで肉を焼いて食べるのさ!」

「わあ、それとてもすてきですね! しゃちょうさんにきいてみますね~」


 さいはて荘の中で一番忙しいのって社長だから、みんなで何かをやる時はいつも社長の都合に合わせている。そしてみんな、それに異を唱えない。社長が忙しい中さいはて荘のためにどれだけ尽くしているか、みんな知っているからね。俺様何様イヤミ野郎だけどいいヤツなのだ。あれ、これ前にも言ったっけ。


「ほれ魔女、焼いただけのウインナー」

「雑! でもその雑さがなぜかおいしい!」


 お蝶が焼きそばの上にのっけてきた焼いただけのウインナー、それも冷めている──を焼きそばと一緒に頬張りながらジャンク感を楽しみつつ、大家さんと元王子が楽しげに焼肉の計画を立てているのを聞く。


「魔女、友達が来てるぞ」


 もふもふ焼きそばを食べているとふいに元軍人にそう言われて、背後を振り返る。案の定ゆゆと大王がいた。もう弁当食べたのか。


「黒錆ちんハムスターみてぇになってんぞ」

「あ~、そっかぁ。あのエントランスにあったお蝶さん作のアートなねずみさん、なんで黒錆ちゃんはねずみなのかなって思ってたけどこ~いうことかぁ~」

「もふっ」


 待て! 返事できない!

 もふもふと慌てて咀嚼するワタシにゆゆと大王は笑い、元軍人と大家さんも微笑み、元国王とお蝶も微笑ましそうに口元を緩め、元王子と爺も優しい目で見つめてきた。

 見るな! 恥ずかしい!


 ──けれどああ、今日も平和である。



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