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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・夏
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【たいやき】


 夏も終わり、二学期が始まって平日は学校に行くようになったある日の夕方、学校帰りに元王様のパン屋さんに寄っていたワタシは焼き立てほかほかのたい焼きを購入する。


「まいどあり~ゆゆくんと大王くんは?」

「カスタード入りのをひとつぅ~」

「オレは黒錆ちんと同じジレンマたい焼き」


 ジレンマたい焼きとは何かって? その名の通り、つぶあんとこしあんの両方が入っているジレンマなたい焼きである。ジレンマあんぱんと並ぶこの店の看板商品のひとつだ。


「はいよ~熱いから気を付けてね~」


 そうして焼き立てほかほかたい焼きを受け取ったワタシたちはパン屋を出て、表に置かれているベンチに腰掛けて頬張る。買い食い禁止? バレなければいいのだ。


「んん~、おいひい」


 元国王の作るたい焼きはさすがにパン職人が作るものだからか、衣がクロワッサンのようにパリパリサクサクとしていて中にはあつあつのあんこが詰まっている。たまらん。


「ねえねえ黒錆ちゃん、今度の運動会って王様とか来ないかな?」

「え? ……どうだろう? ねえ元国王!! 運動会来るのー?」

「行くよ~。なんたって魔女くんの晴れ舞台だしね~。さいはて荘のみんなで行こうって話になってるよ~」

「えっ!? なんでそんなデカい話になってんの!?」

「う~ん、さすがに社長くんやなっちゃん、元巫女くんあたりは難しいだろうけどね~でもみんなで行こうって話にはなってるよ~」


 店内から叫ぶような大声で返ってくる元国王の言葉にワタシは頬を引き攣らせる。ワタシの晴れ舞台って、運動会だぞ。ただの。

 いや、確かにワタシにとっては人生初の運動会だけどさ。……ん? いや、幼稚園に通っていた時にはあったか? 憶えていないや。


「わ~、王様くるんだ! だったら王様、デザート期待しちゃってもいい?」

「ははは、いいよ~。君らのクラスは君ら含めて五人だったけ? その分くらいは作って持っていくよ~」

「マジ? サンキュー王様!! やっべー、運動会なんてめんどくせぇって思ってたけど俄然楽しみになってきたぜ!」

「うれしいようなはずかしいような……」


 一学期に授業参観があった時、親が見に来ることをクラスのみんなは嫌がっていた。特にいおりん。ワタシは〝ワタシのお父さんとお母さんが見に来る〟ということに浮かれて楽しみで仕方なかったけれど、でもなんで他のみんながあんなに嫌がっていたのか今なら分かる気がする。

 恥ずかしい。これに尽きる。

 くっそー、なんだこの気持ち。どうすればいいんだこれ。


「運動会の後のバザーに店を出す予定だから、そっちもよろしくね~」

「店って? 確かバザーに飲食店はないはずじゃ……」

「魔女くんが作ったクッションとか、お蝶くんが作ったへたく──アートなぬいぐるみとか、ぼくの手作りキーホルダーとか、まあそんなとこ」


 豹南中学校の運動会は人数が少ないからか、小中合同で行っていて規模も小さいらしくてPTAとか地元の自治会とかも参加してバザーを開いたりちょっとしたライブを開いたりして盛り上げているのだそうだ。

 そのバザーに元国王も協力することになったとかでクッションをいくつか作って贈呈したのだ。


「マジ? 黒錆ちんってかなり器用だし可愛いの作るから絶対見にいきてぇ」

「うんうん! お蝶さんのアートなぬいぐるみも見に行きたぁい!」


 気のせいだろうか。ゆゆの語尾に(笑)があった気がした。


「そこまで気合い入れて作ってないよ。このキーホルダーいっこ作るのにかけた時間の十分の一も使ってない」


 そう言いながら鞄に付けている五体のぬいぐるみキーホルダーを見せる。


 ()()()()

 ()()()()

 ()()()()

 ()()()鹿()

 ()()()()


 エセメガネ先生はメガネザルにしようかと思ったけど、元王子と被るからサメにした。サメってあんな獰猛な見た目してるくせに中身スッカスカだし? サメの骨標本見た時の衝撃よ。


「それかわいいよな~。呪いに使う道具じゃなきゃ、だが」

「呪ってほしいならいつでも言ってね」

「一生頼まねー」「頼むとしてもおばあちゃんになった後ぉ」


 むう、つれないヤツらめ。

 一学期に筋肉痛をほぐしてあげた時は泣いて喜んでいたというのに。

 わざとだけど。


「黒錆ちん、あんこ零れるぞ」

「うわわ!」


 おしゃべりしているうちにたい焼きからあんこがはみ出てしまったらしい。慌ててはみ出たあんこを舐め取ってたい焼きのおしりとしっぽの部分にもかぶりつく。

 んん~、たまらん。おしりまでぎゅっとあんこが詰まっているのに、しっぽには詰まっていない。けれど物足りないとは思わない。あんこで甘くなった口内をしっぽのさくさくビスケット部分で口直しできる感じでたまらんのである。


「そろそろ栗関連の商品を出すからね~またおいでよ~」

「くり!」


 栗! ワタシの大好物である!

 これは通わねばなるまい。


「もちろんまた行きますよぉ~! 王様、その時はサービスしてねぇ」

「ははは、お得意さんだからね~おまけのクッキーをこっそりつけるよ」

「わぁい!」


 夏休みが終わり、二学期が始まり、夏の名残りが次第にほどけて秋の始まりを感じられるようになってきた季節。

 とても平穏な、なんてことない日常を今日も過ごす。



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