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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・春
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【はんばーぐ】


「フライパンサイズのハンバーグ食べたい」


 始まりは、元王子のその一言だった。

 男ならば誰もが一度は夢見るであろうフライパンハンバーグ。

 ワタシも女だけれど思わず同意してしまった。やってみたいよね。皮だけ剥いたまるごとスイカの丸かじりとか、ケーキワンホール直食いとか。


 と、いうワケでワタシと元国王と元王子の三人でただいまフライパンハンバーグに挑戦中である。

 ワタシたちが意気投合する様子を見た社長が三馬鹿って言ってきたけれど無視した。ロマンを理解できぬ無情緒人間めが!


 ──と、それはともかく。

 基本のハンバーグと変わらぬレシピで肉ダネを作ったワタシたちはこねてこねてこねてこねてこねまくって、フライパンと同じサイズのタネに整えていった。ここまでは簡単である。


「問題は焼くところだね~。大きい分崩れやすいから気を付けないと」


 元国王はそう言いながら薄いまな板にラップを巻いて、片栗粉を軽くまぶす。それから赤々としたフライパンハンバーグのタネをまな板の上に移した。これで滑りがよくなるらしい。

 続けて熟したフライパンに滑らすようにタネを置いた元国王の手腕にワタシと元王子は思わず拍手してしまう。


「さすがテディベアだねっ」

「ワタシならそもそもタネ持ち上げる段階で落としてる」

 フライパンハンバーグは重い。どう見ても重い。


「これでうまくいったらさ~今度、フライパンサイズのハンバーガーにチャレンジしてみたいんだよね~」

「OH、それはいいね。店頭に並べるとさぞ壮観だろう」

「さすがにレギュラー商品にするのは無理だよ~。町の若い男たちとか、おじさんたちとかにウケそうだと思ってさ~たまのイベントに作るのもいいかなって思って~」

「ハンバーガーを食べきったら店のパン全て贈呈しますとか」

「ぼくの店潰れちゃう!」


 と、そこで元国王はフライパンの蓋を手に持ってフライパンをゆすりながら滑らせるようにタネを蓋の上に移動させた。鮮やかすぎる。

 それから元王子に指示してフライパンに残った肉汁を器に移したあと、空になったフライパンをタネに被せて蓋をし──ひっくり返した。

 お見事、崩れることなくひっくり返ったフライパンハンバーグにワタシはスタンディングオベーションである。

 肉汁をフライパンに戻して再び焼き始めて、ほどなくして焼けたことを確認した元国王がフライパン事畳の間に持ってきた。


「完成だよ~」

「ブラボー! これぞ夢のフライパンハンバーグ」

「おいしそう。あっ、サラダ持ってくる」


 あらかじめ作ってあったサラダを机に並べて、ごはんもお椀によそえば食べる準備は万端である。

 ちなみにワタシが元国王や元王子と夕食食べるってことで、大家さんと元軍人はデートに出かけている。予定調和。


「写真にもしっかり収めねば!」

「大家さんに送ろうっと」


 かしゃかしゃとひとしきりスマホでフライパンハンバーグを撮って満足したワタシたちに元国王は笑い、ナイフを取り出してハンバーグを四等分に切り分けて皿に移した。

 ワタシはたぶん四分の一でもお腹はちきれそうになってあっぷあっぷだろうから、取り分けられなかった最後の四分の一は元国王と元王子で食べることになるな。


「いただきまーす!!」


 三人で手を合わせて元気よく食前の挨拶を交わして、一斉にフライパンハンバーグにかぶりつく。

 ナイフやフォーク? せっかくのフライパンハンバーグに最初からそれはナンセンスだ。最初の一口は、かぶりつく!! 文字通り、かぶりつく!!


「おいしい~!!」

「ブラボー……素晴らしい。ボクは感動で泣いている」

「中までちゃんと熟せているか不安だったけど大丈夫だね~」


 その後はちゃんとナイフとフォークを使っておいしくいただく。


「漫画肉もまたチャレンジしたいところだね」

「ああ、前作ったのって見た目だけ漫画肉で中身は違うやつだったしね……」

「ラストサムライがイノシシをまた狩ってくれたらできそうな気がするのだがねっ」

「イノシシ肉で漫画肉って、臭みがすごそうだからそこは社長くんにちゃんとした肉を調達してもらった方がいいかもね~。目が飛び出るほど高いだろうけど」


 ──そんなたわいもない会話をしながらワタシたちはフライパンハンバーグに舌鼓を打って、やがて完食した。がふぅ、と口から呻き声が漏れる。

 フライパンハンバーグはやはり、四分の一でもワタシにはきつくてお腹がはち切れそうなほどに膨れてしまった。けれど、大満足である。


 ──またこんな風に、元国王や元王子とばかばかしくも楽しい料理をしたいな~。




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