【どらいかれー】
「あの、もとぐんじんさん……」
「ん? どうかしたかね?」
「う、ううん……なんでも……わっ」
「ほら、言ってごらん」
…………。
…………。
…………えー。
ただ今大絶賛ラブシーンなうです。
元軍人が大家さんの腰を抱き寄せて耳元で甘く囁いています。大家さん顔真っ赤です。胸やけしそうです。胸やけしすぎて何か吐きそう。
ワタシがいるのにいちゃつくな! ──と、言いたいけれど名前呼びじゃないから分かった上でのあのいちゃつきようらしい。つまりワタシがいない時はもっとひど──いかん、想像しただけで口の中が甘い。
「これくらいでいいかな~」
にんじんが根元しか残らなくなったあたりですりおろすのをやめて、痺れた手を振る。にんじんをひたすらすりおろすのってむっちゃ疲れる。でも頑張った。えらいワタシ。
それからキッチンに移動して、フライパンに油を引いて火にかける。
「えーと、おろししょうがとおろしにんにくを入れて……みじん切りにした玉ねぎとすりおろしたにんじんも入れて……」
レシピを見ながら手順通りに、もたつきつつも料理を進めていく。
ひき肉と刻んだルーも入れて──あ、ちなみにルーを刻むのは元軍人がやってくれた。ワタシの力じゃあまだ無理だった。かたい。なにあれ。
「いいにおい。まじょちゃん、すごい」
カレーの匂いが立ち昇ってきたことに気付いてか、大家さんがラブシーンから抜け出してきてそう言ってきた。
──そう、今日はワタシがふたりに料理を作ってあげるのだ。レシピはドライカレー。お蝶に教えてもらった、ワタシでもできる簡単なレシピである。
玉ねぎのみじん切りとかにんじんのすりおろしとか大変だったけど、頑張った。えらいワタシ。
「このルーとカレー粉、かなり辛めじゃないか?」
「うん。元国王がカレーパンに使ってるやつをもらったの。辛いけど、ラッシー作るから大丈夫だよ」
「らっしー? ふらんだーす?」
それはパトラッシュ。
「元国王に教えてもらったんだ。インド料理店でよく出てくる飲み物なんだって。辛いのとよく合っておいしいんだよ」
「そうなんだ。たのしみ!」
満面の笑顔でうきうきと楽しそうにはしゃぐ大家さんに思わずほっこりとしながらワタシはフライパンを両手で持ってゆする。
いやはや、あの後無事元軍人とくっついたようでよかった。醜態晒してしまったのは恥ずかしいけど、でも恥ずかしくない気持ちもある。
だって大好きなお父さんとお母さんに幸せになってほしいと駄々をこねるのは、当たり前だと思うもの。お父さんとお母さんがラブラブで嬉しくない子どもなんて、いない。
◆◇◆
それから調味料を混ぜ込んでドライカレーを完成させたワタシは盛り付けを大家さんに任せて、ラッシー製作に取り掛かる。
ヨーグルトと牛乳とレモン汁と~。まぜまぜ、まぜまぜ、まぜまぜ……よし、オッケー!
ラッシーがなみなみと満たされているコップを三人分、お盆に載せて畳の間の方に移動する。そこではもう大家さんと元軍人が席についていた。ワタシもコップを並べて席について、にこにことワタシを見て笑っている大家さんと穏やかにワタシを見つめて口元を緩めている元軍人のふたりに気恥ずかしくなりながらも声を上げる。
「たんとめしあがれ!!」
「ええ。ありがとうまじょちゃん! いただきま~す」
「美味しそうだ。ありがとう魔女──いただきます」
ふたり揃って手を合わせて、スプーンを手に取ってドライカレーをすくって口に運ぶ。そしてふたりから投げかけられてくるのは、おいしいという心からの言葉と心からの笑顔。
それにワタシは堪えきれなくなって口元をにやつかせてしまう。
──ああ、幸せだ。
今度は何を作ろうかな~。




