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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・春
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【ころっけ】


「作れるのか?」

「ゆうべ大家さんに教えてもらったから」

「……そうか、昨日はコロッケだったのか……」


 はあ、とため息を吐いて額を抑えた元軍人にワタシは思わず苦笑してしまう。元軍人が大家さんに告白してフラれて以来、一緒に食事を取っていないどころかろくに会話もしていない。大家さんが元軍人を前にすると露骨に動揺しちゃうから元軍人が気遣って距離を置いているのだ。

 ワタシが間に入れば少しマシだけれどそれでもぎこちない。何かしら一緒に食事する場でも作ってふたりがせめて会話できるようにならないとワタシが大家さんと元軍人について話すのもままならない。元軍人って言うだけで動揺するんだもん大家さん。


 うーむ、これは社長に一度相談してみるか。


 ──まあそういうワケで絶賛ぼっち状態な元軍人を慰めるべく今日はワタシが元軍人に夕食作ってあげるのだ。大家さんはお蝶やなっちゃんと女子会しに行くらしい。


「これくらいでいいかな」


 塩ゆでにしてほくほくになったじゃがいもをざるに上げる。もう一方のフライパンで炒めている具材の具合を見つつ火を止めて、ざるに上げたじゃがいもをボウルに移して潰していく。


「ほう、力もだいぶんついたな」

「うん。スクワットも二十回できるようになった」


 前は五回で倒れたのにね!


「その調子ならいずれ学校にも行けるようになるな」

「……学校かあ。一度も行ったことがないからよく分からないんだよね。同い年の友達なんていないし」


 絵を描かされて描かされて描かされて。

 幼稚園に通っていたころの友達はいつの間にかいなくなっていた。

 小学校には病気を理由に通えないとあれが勝手に言った。

 手紙やプリントをもらったことはある。でも、ワタシにできたのは絵を描くことだけだった。


「……今更学校なんか行って、馴染めるとも思えないんだけど」


 学力についてはたぶん、大丈夫だと思う。

 さいはて荘のみんなが何気に教育係として色々教えてくれていたし、社長がとんでもないスパルタだったし、ワタシ頭いいし?

 心配なのは、人間関係だ。爺風に言うならば人間(ひとあい)

 ワタシが関わっている人間は大人しかいないから、同い年の子どもたちとうまくいくのかって不安になる。人間嫌いは変わってないし、クラスメイトを好きになれるかどうかも不安。


「心配するな。ここの濃い奴らに揉まれたお前であればどんな悪ガキであろうと軽くあしらえるだろうよ。それに、別に無理をして行かずともよい」


 勉学ならばここでも十分。

 人間関係もここで十二分。


「だから──行きたくないと思ったら帰ってくればよい。ただ、最初から行かないのだけはダメだがな」


 その言葉にワタシはなんだか安心してしまって、ふっと肩から力が抜ける。

 そうか、嫌だと思ったらここに帰ってくればいいのか。


「まあ行くとなれば中学校からだろう。それまでは勉強も運動も頑張ることだ」


「うん」


 体つきはだいぶん年相応になってきたと思うけれど、テレビで見かける同年代の女の子に比べるとすごく幼い。何がって、おっぱいが。身長よりもおっぱいが欲しい。

 お蝶に聞いたら食べるもん食べて揉むもん揉んでりゃデカくなると言われて揉まれまくった。おっさんか。いやおっさんだった。


「ここから一番近い中学校って町にあるよね?」

「ある。過疎化が進んでしまっている小さな中学校だがな」

「過疎化かぁ~」


 そりゃこんなど田舎だしね、と思いながら潰したじゃがいもを炒めた具材と混ぜ込んでいく。できあがったタネをこねこねと丸めていく作業に移れば元軍人も参加してきて、ふたりでこねこねとボール状にしていく。


「子どもが少ないと身内意識というか、排他的というか、そういうの強いんじゃないかな」

「強いだろうな。だが、お前には強い味方がいるだろう」

「え? ──いやそりゃ表ボスの元軍人と裏ボスの社長がいれば確かに百人力どころか億人力だろうけど子ども相手にそういう脅しみたいなのするのはちょっと……」

「違う、元国王だ」


 町中でパン屋を営んでいる元国王は地元民から愛されているからな──そう言われて、ワタシはなるほどと目から鱗が落ちた気分になる。


「そっか、確かに。元国王はワタシの下僕よってアピールすれば少なくとも虐められることは──」

「いつの間にお前の下僕になったんだ」

「飼い犬の方がいい?」

「そっちの方がまずいだろう色々と。確かに元国王は犬っぽいがやめなさい」

「はーい」


 冗談よ冗談。

 でも、そっか。ワタシのバックには大家さんと元軍人と社長だけじゃない。元国王もお蝶も元王子も爺も元巫女もなっちゃんも、いるんだ。やばい、兆人力どころか京人力かも。あ、人類超えちゃう。


「よし、あとは揚げたらできあがり!」

「台座に立って揚げ物をするのはやめておけ。私がやろう。お前はタイミングを指示してくれ」

「うん、わかった」


 …………。

 …………よし!

 ──次、ワタシがごはんを作る時は大家さんも一緒の時! うん、決めた。大家さんが一緒じゃなかったらお預けにする。カワイイ娘の手料理食べたかったら早くオトすんだな!




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