【おすし】
「さすが我らがキングだね! これぞ噂の回らない寿司!! OH、値段が本当に時価になっている!」
元王子の嬉しそうな声が店内に響き渡る。やめろ。
「案ずるな。貸し切りにしてある」
「マジで!?」
そういえばワタシたち以外誰もいない。
回らない寿司を奢るばかりか貸し切りにするとかこれだから社長は。ワタシがそれに慣れて堕落したらどうする!
「魔女」「まじょちゃん」
左右から同時に呼び掛けられて、そのあとの言葉が続くことなく左右ともに沈黙する。やめろ気まずい!
「ほらっ!」
右に座っている大家さんに見えないよう、左に座っている元軍人の脇腹をどつく。今日はわざわざワタシが社長に頼んでこの機会作ってもらったんだからね! 無駄にしないでよね! ワタシがどんだけ社長にネチネチ言われたと思ってんの!? 呪うぞあの俺様何様イヤミ野郎っ!!
「あー……大家さん、何か食べたいネタは? 今の旬はタイらしいが」
「あ……えっと、じゃあたいをたべようかな」
「……ああ。どんどん食べなさい。昔の君ならいざ知らず、今の君は何を食べても大丈夫なのだからね」
「あ……もと、ぐんじんさん……」
…………。
…………ワタシがけしかけたとはいえ、ワタシを挟んでラブシーンに入るのは遠慮願いたい。
でもせっかくの進展のチャンスに割って入りたくない。くぅ……。
「魔女。何が食べたい?」
「あっ。サーモン食べたい」
「分かった。サーモンわさび大盛りでそこの餓鬼に」
「おいこら」
元軍人の隣に座っている社長がラブシーンに挟まれて気まずい思いをしているワタシに声を掛けてくれたかと思えばこれだ。
寿司屋の大将が満面の笑顔で親指を突き立てて寿司を握り出した。右手で整えた酢ごはんにわさびをたっぷ──やめて!!
「呪うわよ社長っ!」
「なんだ? わさび食べられないのか? お子様め」
「子どもだっ!!」
ばかやろー!!
──と、思いきや大将はそのわさび大盛りサーモンを社長の前にことりと置いた。そしてわさび抜きのサーモンも手早く握り、ワタシの前に置いてくれる。大将……!
「ざまーみろ」
「…………チッ」
舌打ちしながらわさびたっぷりサーモンを口に運ぶ社長ににまにまとしつつ、ふと周りを見回す。
今日は元巫女以外のみんなで寿司屋に来ている。だからここにいる客は九人だ。
──、──……十人みんなで食べたことって何気にないよね。
いつか、実現できたらいいなあ。
「これが大トロ~? 今まで食べたのとなんか違うなぁ~?」
「そりゃエセ大トロだろ。回転寿司のネタだってマグロじゃなくて実はガストロって魚だったりするんだぜ」
「マジで~」
本物の大トロを前にわいわいはしゃいでいる元国王とお蝶。
「アンノウンは何が好きなんだい?」
「そのアンノウンってなにぃ~。あたしはねぇ、玉子といくらが好きかなぁ」
「無難だね!」
……元王子となっちゃんも何やら楽しそうだ。てかほんと、元王子のなっちゃんアンノウン呼びってなんでだろう。
「修行が足りんわ青二才が! おい大将、わさび大盛りの大トロをこいつにやれ!」
「ぐっ、やめろっ」
「甘いわっ! ──大将、ワシの前に置くでない!」
爺と社長はわさびネタで盛り上がっている。ふっ、ざまーみろ。
「ハマチも美味しいな」
「そうですね。どれもみずみずしくてすごくおいしい」
「私は大家さんの作る料理の方が好きだがね」
「っ……」
──……ワタシを挟んでのラブシーンは未だ続行中。はいはい。
「おじさん、社長を破産させたい」
「あいよ!」
「おい」
活きのいい高級そうな魚を冷蔵庫から取り出して捌き始めた大将を眺めつつ、ワタシは思う。
いつかさいはて荘のみんなでおいしいもの食べたい、と。
いつか実現できたらいいな、じゃなくて。
いずれ絶対に実現させてやる、と。




