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さいはて荘  作者: 椿 冬華
さいはて荘・春
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【ばーべきゅー】


 真夏真っ盛り!

 山! 川! バーベキュー!


「かーっ、ビールがうめぇ」


 オフホワイトのビキニでダイナマイトボディを惜しげもなくさらけ出しているお蝶が右手にバーベキュー串を、左手に缶ビールを握っておっさん臭いことを言う。隣にいる本物のおっさん、元国王は甲斐甲斐しくバーベキュー串を鉄網で焼いてはみんなに配っている。女子力とは。


「魔女、その水着似合うじゃん。かわいーぜ」

「ん。大家さんが選んでくれたの」


 ワタシたちは今、山奥の人気がない滝壺へと来ている。元国王と爺がよく釣りに来るという穴場だ。

 ──ここに行こうって話になった時、大家さんや元軍人と一緒に水着を買いに都市部へ出たのだ。人ゴミが嫌いなワタシには本当に気持ち悪い、人だらけの場所だった。


 でも。


 ──なんでだろう。

 もう二度と行きたくないとは、思わなかった。

 元軍人が右腕で大家さんをエスコートして。空いている方の左手でワタシの手を引いて。

 だからなのかな。元軍人の大きくて分厚い手に包まれていた、おかげなのかな。とても安心して、人ゴミの中を歩けた。


 ……元軍人の眼光にみんなビビって避けてたからかもしれないけどネ。

 まあそんなこんなでワタシは今、大家さんが選んでくれた黒いワンピース型の水着を身に付けている。サイドにある大きなリボンが可愛い。髪も大家さんが纏め上げてくれたおかげでとっても涼しい。


「魔女くん、はいステーキ串~」


 分厚い牛肉に塩胡椒を振りまいてジューシーに焼き上げたステーキ串を元国王が差し出してきて、ワタシは大喜びでかぶりつく。う~ん、おいしい。たまらん。


「大家さん、しっかり掴まっているように」

「わ、ぁわっ」


 そんな声がして視線を滝壺の方に向ければ、元軍人が大家さんをお姫様抱っこしているところだった。

 海パン一丁の元軍人の隙間なく鍛え上げられた筋肉質な体には数多の傷跡が見える。けれどその数多の傷跡は元軍人の鋭い眼光と厳しい佇まいにとても似合っていて、魅力を引き上げる勲章にしかなっていないのがなんかむかつく。

 大家さんは淡い空色のビキニを身に付けていて、下にはホットパンツも履いている。とてもかわいい。けど元軍人の趣味な気がする。あの水着、元軍人が買ってやったものではなかろうか。勘だけど。


「わ、ぁつめたっ」

「フフ……ほら、魚だ」


 底まで透き通って見える美しい滝壺の中には数多の魚が勝手気ままに泳ぎ回っており、元軍人は自分の首に掴まっている大家さんの耳元でそっと囁いた。大家さんは元軍人の首から腕を外さないまま視線を水の中に向け、そして歓声を上げる。


「わあ、きれい! たいようのひかりできらきらかがやいていて、ほんとうにきれい。つめたくてきもちいい」


 笑顔の大家さんに元軍人も頬を緩めて微笑み、ふたりの間に甘くまろやかな空気が流れる。


「……おかしいな。ビールが砂糖の味しかしねぇや」

「奇遇だね、ワタシも砂糖の味しかしないよ」


 せっかくの牛肉がなんてこった。


「ほらほらふたりとも~お邪魔虫はだめだよ~」


 元国王が今度は牛タンを炙って差し出してきてワタシとお蝶は大喜びで飛び付く。う~ん、たまらん。


「爺さ~ん、食べようよ~」

「ムッ。ふむ、おい元王子続きは後だ」

「FOO!! ジャパニーズ修行は実に身が引き締まるね」


 元国王の呼び掛けに今の今まであえて視線を向けないようにしていた滝から爺と元王子が上がってきた。このふたり、何を思ったか今の今まで滝に打たれていたのだ。修行僧の如く。いや、元王子はニンニンとか唱えていたから忍者のつもりなんだろうけど。


「修行というのは痛く、苦しいものだと思っていたけれど──これは気持ちいいから暑い日にまた来たいものだね」


 太陽を反射して黄金のような輝きを放つ長い髪を後ろに流しながら元王子はきらりと白い歯を見せて微笑む。爽やか王子スマイルという非常に腹立つやつだ。イケメン滅べ。元軍人ほどじゃないけれど元王子もそれなりに鍛え上げられた体で、長い脚が非常にむかつく。イケメン滅べ。ちなみに水着は忍者アニメのイラストがプリントされている男児向けのやつである。修行をするからと買ったらしい。残念なイケメン。

 爺? 褌一丁だよ。


「元王子、お前もビール呑めよ」

「NO、ボクは酒は呑めなくてね。すまないフェアリー」


 このおっさん臭さ全開なお蝶でもフェアリーと呼ぶか。あっぱれ。


「てか何とも思わないの? お蝶、かなりえろえろだと思うんだけど」


 海外モデルなんかにも引けを取らないほどえろえろでせくしーだと思う。おっさん臭いけど。


「フェアリーは美しいよ。いつまでも鑑賞していたいくらい美しい。けれど残念ながらボクは三次元に興味がなくてね」


 ()()()()()女性に興味はないんだ。


 ──と、何やら聞きようによってはとてもおっかない台詞を抜かして元王子は美しく、そして妖しく微笑みながらバーベキュー串にかぶりついた。

 ……。……いやいや。単に二次元にしか興味ないってことだ。……そうだよね?





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