模擬戦の前に
申し訳ないですが、区切りをよくするためにこの回ではまだ模擬戦は始まりません。
迅たちは食事も終わり、残り時間も少なくなったので教室に戻ることにした。
「そうだ、お前らしばらくは固まって行動しといた方がいいぞ」
「何でですか?」
迅の突然の言葉に、凛が疑問を浮かべながら聞いてくる。
「さっきの奴らが襲ってくるかもしれないからな」
「え!で、でもさすがにそこまではしないんじゃ……」
「……いえ、その可能性は大いにあります。申し訳ありません、そこまでは考えつきませんでした」
迅の予想を聞いて凛が否定しようとすると、シルフィアが〝浅はかでした″と謝ってきた。
「別にお前がそこまで気にする必要はないだろ。あいつらはどうせ何をやっても突っかかってきただろうしな」
迅に慰められるとは思ってなかったのか、驚いた表情で固まってしまうシルフィア。
「……あなたも人を慰めたり出来たんですのね」
「おい、俺を血も涙もない鬼だって言いてぇのか?」
「べっつに〜、そう勘違いさせてしまうあなたが悪いのですよ」
せっかく慰めてやったというのに毒を吐いてくるシルフィアに抗議すると、シルフィアはそっぽを向きながら、まるでさっきのお返しとでもいうように煽ってきた。
「プッ、アッハハハハ!すっかり仲良しだね、シルフィアちゃん」
「カ、カンナ!別にそういう訳ではありませんわ!」
柑奈に指摘されたシルフィアは顔を真っ赤にしながら抗議したが、繭たちには可愛いという印象しか無かった。
そんな感じで軽い雑談をしながら歩いていると、教室が見えてきた。
「では、私とカンナはこっちなので、また放課後に会いましょう。ジンさん、お姉様のためにもしっかりと準備をして下さいね!」
「分かった、分かった」
しつこく念を押してくるシルフィアに手をヒラヒラさせながら適当に返事すると、シルフィアはまだ言い足りなそうな顔をしつつも、自分たちの教室に戻っていった。
「……そういえば、麗奈たちが3人目を見つけてたらどうしよう?」
「あっ!」
教室に入る前に繭がふと気付き、その可能性を全く考えていなかった凛が声を上げた。
「その時は向こうが見つけた奴がやればいいさ」
「分かった。ジン君がそれでいいならそうする」
「ありがとう、ジン君」
ダブった場合は迅が辞退することで決まり、3人は教室の中に入っていった。
すると教室の奥の一角で、そこだけ夜になったかのように暗くなっている場所があった。
そこには勇者3人ともう1人、シルフィアに似てる娘がいた。
「……見た感じ、大丈夫そうだね」
「あはは……」
繭と凛は、和輝たちのあまりの落ち込みように苦笑いしていた。
迅が参加することを繭たちが告げると、さっきまでの暗い雰囲気がすぐさまに消えて、和輝と剛の熱烈な歓迎が始まっていた。
「ほ、本当に受けてくれるのかい⁉︎」
「あぁ、本当だよ。本当だからそんなに顔を近づけるな、気持ちわりぃ」
「いやー、助かったぜ。サンキューな、ジン!」
「礼はいらないから背中を叩くのをやめろ、鬱陶しいわ」
歓迎してもらった迅ではあるが、男の顔面ドアップに、結構な強さで背中を叩かれたりは勘弁してほしかった。
「ジンさん、引き受けて頂きありがとうございます」
「あまり気にするなよ、それよりも、あんたはもしかしてシルフィアの?」
「えぇ、そうです。姉のティア・ミロード・セントレアと申します」
「やっぱりか、俺は迅だ、あまり関わりはないだろうがよろしく」
迅が気になったので聞いてみたら、やはりシルフィアの姉だった。
シルフィアは薄い緑色の髪に翡翠色の瞳だったが、ティアは水色の髪に群青色の瞳をしていた。
「そう仰らないで下さい。今回のご恩は忘れませんわ。もし何かあった時は私を頼って下さい」
「ティア、それは……」
たかが模擬戦に、しかも和輝が承諾した試合の事で、王族であるティアが恩を返すと言ったことを和輝が止めようとする。
「いいのですよカズキさん、今回の事は私としても見過ごす訳にはいきませんしね。それに、どんな事であろうと受けた恩は返さなくてはなりません。でないと私が気になって仕方がありませんもの」
「ティア……」
「そこまで言うなら遠慮なく貰っておこう。まぁ、今は全く必要ないからな、その時が来たら頼むよ」
本来ならば王族との関わりなんて面倒くさいので拒否するとこなのだが、ティア本人が自分のプライドにかけて言ってくるので、断るのは失礼だと思い、素直に受け取ることにした迅。
まぁ、迅に使い道があるかは別としてだが。
「さて、もう昼休みも終わっちまうからな、次の授業が終わったら模擬戦について手っ取り早く話し合うか」
「あぁ、分かった。よろしくな、ジン!」
授業が全て終わり、模擬戦について話し終えた迅たちは訓練場に向かっていた。
「じゃあ、最後の確認をしておくよ。まず一番手は剛、二番手はジン、そして最後に僕だ。僕たちは今のところは素人同然だから、迷わずに思いっ切りぶつかって行こう!」
「おう!全勝してやろうぜ!」
「はいよ」
和輝の号令に対して元気よく返す剛と、のんびりと返す迅。
ちなみに木原姉妹に繭と凛、王女姉妹も一緒にいたが、試合のための話しあいを邪魔しないように一歩下がって歩いていた。
話しあいをしている間に校舎の中を通りすぎ、訓練場に着いたので中に入ってみると、今朝の騒ぎが広まっていたのか、すでに沢山のギャラリーが観戦席に押しかけていた。
そして、訓練場の中央にはチャーリー先生とバルゴたちが待っていた。
「ふん、やっと来やがったか。あまりにも遅いもんだから逃げたのかと思ったぜ」
「何だとテメェ!」
対面して早々に挑発してきて、それに反応してしまう剛。
(そんなすぐ挑発にのってどうするんだか)
迅はあまりの短気さに呆れてしまった。
ちなみに、和輝は興奮した剛を抑えていた。
「待つんだ剛!気持ちは分かるが今は抑えるんだ!」
(おぉ、こいつは大丈夫だな)
「余裕を持っていられるのも今のうちだからな!僕たちが試合に勝ったら、しっかりと謝罪してもらうぞ!」
(ダメだこいつら……)
和輝は冷静になれてるなと思ってたらそんなことはなく、バルゴたちを睨みつけながら啖呵を切っていた。
迅は思わず手を頭に当ててしまった。
「口だけは達者じゃねぇか。それにしてもよく3人目を見つけられたな、このBクラスのバルゴ様が相手だっていうのに、そんなお人好しがいたとは……っ⁉︎」
バルゴが3人目である迅に目を向けた途端に、目を見開いて驚いていた。
「おう、そのお人好しの迅だ。それにしても、ザコなりに先に待っておくなんていい心掛けじゃねぇか。だがな、無駄な話が長いんだよ。こっちはわざわざ時間をさいてやってるんだ、とっととしろよ」
挑発にのってしまった2人をこっちのペースに戻すために、バルゴたちを煽る迅。
その甲斐はあったようで、バルゴは怒りをこらえて歯を食いしばっていた。
すぐに飛びかかって来ないのは試合ではないからなのか、それとも食堂での出来事を思い出しているのか。
「そうですね、このままでは埒があきませんので、細かい事を決めて早く始めましょう」
そう言って止めに入ったのは、見守っていたチャーリーだった。
「それではルール説明をします。今回は1対1の試合を3試合行い、先に2勝した方の勝ちとなります。武器は精神に負荷を与えるだけしかできない幻影形態を使うものとします。それから魔法による攻撃はアリですが、どの系統であっても初級魔法のみとします。以上のルールに抵触した者はすぐに失格負けとするので気をつけるように。それでは試合の前に、互いの要望を宣言してもらいます」
「分かりました。僕たちの要求は今朝の殴った子に謝ってもらう事と、今後Fクラスに危害を加えない事です」
「いいぜ、じゃあ俺たちが勝ったら、お前らの女を3人貰うぜ」
「なっ⁉︎」
和輝の真っ当な要求に対して、あまりにもふざけた要求をしてくるバルゴたちに、迅以外の者が驚きの声を出した。
「ちょっと待て、何でそうなるんだ!」
「何を驚いているんだ?俺たちはただ、普段お前らに引っ付いているのを、俺たちに付き合って貰うだけだぜ?チャーリー先生よぉ、何か問題はあるのか?」
「いえ、そのくらいでしたら問題は無いですね」
「何故ですか⁉︎彼女たちは関係無いでしょう⁉︎」
「チャーリー先生、あなたは無関係の生徒が景品のように取り引きされるのを黙認すると言っているのですか?」
看過できない内容に対して、さすがに黙っていられなかったティアが抗議に入る。
「ティア殿下、私どもは少しばかり付き合って頂きたいだけなのですよ。それに、お前は勝つ自信が無いのかな?勇者くん」
「くっ!」
随分と汚い言い回しをしてくるバルゴに、和輝は何も言えないようだったので、迅は仕方なく割り込むことにした。
「じゃあ、俺の要求はお前らに対して自由に振る舞うってことでよろしく」
「……は?」
いきなりの迅の要求に固まってしまうバルゴたち。
「何か問題でもあるのか?」
「ま、待てよ!お前らの要求は俺たちからの謝罪だろ⁉︎」
「それは勇者たちの要求だろ?俺は巻き込まれた側なんだから、また別に要求させてもらうぞ。ちなみに俺自身が勝てばの要求だからな、この試合の結果には左右されないって事でよろしく」
本当はこの試合でとくに要求するつもりはなかった迅だが、随分とふざけた要求をしてくるし、しかも訓練場のあちこちに罠が仕掛けられているのに気付いたので、割り込むことにしたのだ。
「ジン君、それは認められませんよ」
「チャーリー先生、そちらは無関係の人を要求してくるのですよ?それに比べればジンさんの要求は軽いもののはずです。一体どの点が問題だというのですか?」
「そ、それは……」
明らかにグルであろうチャーリー先生がすかさず止めてくるが、ティアが王族としての威圧と正論をぶつけて押し切りをはかった。
どうやらティアは、自分たちが賭けられても大丈夫だと判断したようである。
(さっき少し話しただけなのにすぐに乗ってきたな。何でだ?)
「……分かりました。この条件で始めます」
さすがに無理だと思ったのか、チャーリーは渋々といった感じで了承した。
迅はティアに対してまだ疑問を持っていたが、後回しにすることにした。
そして、互いにもう決める事は無いので、それぞれが対極に位置するベンチの中に入っていった。
次回から模擬戦となりますが、何話かに分けさせていただきます。
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