勇者召喚
今回は迅ではなく勇者側のお話です。
その日は雨が降りそうな雲が出ていた。
いつも通りに授業が終わり、部活に精をだし、仲良しの友人達と帰ろうとしていた時だった。
突然自分の足下が光ったと思ったら、それは校門を余裕で飲み込むほどの大きさの円を描いた。
複雑に描かれたそれは魔法陣と呼ばれるもので、その上に立っていた自分と近くにいた友人達も一緒に、強く光った途端にその場から消えてしまっていた。
光が収まり、ゆっくりと目を開けると、明らかに学校の校門前ではない所に立っていた。
いきなりの事で頭がうまく回らないからか、友人たちと一緒に固まってしまう。
「ようこそお越し下さいました、勇者様方」
すると突然、透き通るような声で言葉をかけられて、呆然としていた状態からもどる。
「一体、ここは……?」
そこはどこからどう見ても神殿のような場所であり、自分達がさっきまでいた校門前ではなく、祭壇のような場所に立っており、明らかにおかしな事が起きていた。
そして自分達の前には煌びやかな衣装に身を包んだ、これでもかという程の気品のあるオーラを纏った女の子が立っていた。
その女の子の後ろには鎧を身につけた男達が立っている。
自分の周りには友人達と、一緒に巻き込まれたであろう2人の女の子がいた。
「いきなりの事で困惑しておられると思いますが、私のお話を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
水色の髪の女の子に再度話しかけられて、思わず近くにいた友人達と顔を見合わせる。
友人達はまだ困惑しているようで、自分の身に何が起こったのか分からずに少し怯えていた。
〝ここは自分がしっかりしなければ!″と自分を奮起して、女の子に返答した。
「分かりました。僕達は何が起こったのか把握出来ていませんので、すみませんがよろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をすると、女の子は少し慌ててしまった。
「いえいえっ!そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。私の名前はティア・ミロード・セントレアと申します。このセントレア王国の第一王女です。それでは、この場ではゆっくりとする事が出来ませんので、皆様は私についてきて下さい」
〝悪い人ではなさそうで良かった″とほっとしつつ、友人達を促して女の子について行くことにする。
「みんな、分からない事だらけで不安だろうけど、今はセントレアさんの言う通りにしよう。そっちの君たちもそれでいいかな?」
「わ、わたしはそれで構いません」
「ん、問題無い。ただ、あとで自己紹介が必要」
名前は知らないが同じ学校の制服を着ていた2人に声をかけると、多少は戸惑っていたものの、ある程度は現状を把握したのか、ハッキリと返答をしてくれた。
「分かった。それは話を聞き終わってからにしよう」
「これは、とんでもない事になっちまったな……」
「……これからどうなっちゃうんだろう」
「大丈夫、何があってもお姉ちゃんが一緒にいるからね」
それぞれが不安な気持ちを抱きつつも、6人はティア皇女について行った。
この世界に呼ばれたのは6人、男2人と女4人である。
神崎 和輝 サッカー部でイケメン
八木沼 剛 空手部で脳筋
木原 麗奈 家庭科部で黒髪ロングの美少女
木原 柑奈 家庭科部でセミロング、麗奈の妹
この4人は同じ学校に通っており、和輝と剛と麗奈が高校一年生、柑奈が中学二年生で、小さい頃からの幼馴染である。
ちなみに柑奈は学校が早く終わったので、帰り道の途中である高校で姉を待っていた。
九条 繭 口数少なめのクール美少女、髪はショートで癖っ毛
梶谷 凛 サイドテールの美少女なのだが自分に自信が無い、だがスタイルは抜群である
2人は中学から一緒で、この日はたまたま神崎達と帰る時間がかぶってしまい、魔法陣に巻き込まれてしまった。
ティアに案内された部屋に入ると、長机と椅子が用意されてあり、6人はそれに座り、ティアは反対側に座り説明を始めた。
「それでは、まずはこの世界について説明させて頂きます。この世界は皆さんからは異世界という場所になります。今はその別世界の、ここ【セントレア王国】の王都にいます。【セントレア王国】は【セントレア王都】を中心に、【東セントレア】【西セントレア】【南セントレア】【北セントレア】の東西南北の街に分かれています。一昔前では戦争中でしたが今は統一されていて、皆さんの世界程ではありませんが、治安も経済も安定しています。他にも【魔国領】がありますが、特に関わりはないので気にしないで下さい。ここまではよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。ですが気になる点があります。セントレアさんは僕達の世界を知っているのですか?」
国同士での争いはよくある事だが、この世界では無いことに驚きつつ、少し引っかかった部分を聞いてみた和輝。
「はい、少しだけ知っています。実は7年前にも勇者召喚がされまして、その時の勇者様の話を少し聞く事が出来たのです」
「他にもこの世界に来てる人がいるのですか⁉︎」
「えぇ、今は東西南北のそれぞれの学院に通っています」
「そうなんですか……なんで一緒の学院ではないんですか?」
「それに関しては皆さんがこの世界に呼ばれた事も関係ありますね。実は勇者召喚は神がなされている事なのです。私達は神託を受け取ってその通りにしているだけなのです。今回も7年前の勇者召喚も、神が近い将来に必要となるからという事だそうです。そして、それぞれの勇者様に相応しい環境が学院であり、7年前の勇者様方はそれぞれが別の学院を通うようにとの神託でした。今回では皆さんは同じ学院に通うようにとの神託を受けております」
「その、近い将来に必要といっても一体何をすればいいのですか?」
「申し訳ありません。それについては分からないのです。ただ、しばらくは学院に通い、力をつけるようにと神託を受けています」
「……つまり、いつ帰れるかも分からないし、戦う覚悟をしないといけない、という事ですか?」
「……そういう事になります。ですが、私達が出来る限りの補助をさせて頂きます。勇者様方には申し訳ないのですが、今の私達ではこれくらいしか出来ないのです」
「いえ、謝らないで下さい。セントレアさんは悪くないですし、それに僕達が選ばれた事にもきっと意味があるのでしょうから」
曖昧な情報しか手に入らず、しかも帰る目処が立たない事にショックを受けたが、それでも今できる事をするためにこの世界の常識等を教えてもらった和輝たち。
「それでは皆さん、明日のために今日はお休みになって下さい。明日中に一通りの買い物を済ませて、1日おいて3日後には【西セントレア学院】へ向けて出発します」
「分かったよ、ティア」
ティアともすっかり仲良くなり、大体の話は終わったので用意してもらった部屋に移動する和輝たち。
その後、和輝たち6人は1つの部屋に集まっていた。
「僕たちのこれからの事について話し合いたいんだけどいいかな?」
「それは同意。こんな状況だからこそ、目的はハッキリしておくべき」
「そうだね。本当はすぐにでも帰りたいけど、今すぐは無理みたいだし……」
和輝の問い掛けに繭、麗奈がそれぞれ今の本音を打ち明ける。
2人の言葉を聞き、頷き返してから自分の意見を言ってみる和輝。
「僕はとりあえず、今はティアの言う通りに力を付けておいた方がいいと思ってる」
「右に同じく。他の一般人でも力を使えるみたいだし、何が起こるか分からない以上、せめて自衛が出来る程度には身につけるべき」
和輝の意見を聞き、続いて繭が自分の考えを述べてみた。
「他の4人も同じ意見かな?」
和輝の問い掛けに頷き返す4人。
ひとまずこの場では、しばらく力を付けておいて最終的には帰ることで満場一致した。
幸いにも言語に関しては自動的に翻訳されているようなので、読み書き以外は大丈夫だったのは大きかった。
そして3日後、準備を済ませた和輝達は学院に向けて出発した。
目的地は神託で定められたという【西セントレア学院】であった。
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