授業と剣精霊
迅の話へと戻ります。
無事に入学検査を通過し、晴れて【西セントレア学院】の生徒になった迅は、A〜Fまであるクラスの内、和輝たちと同じFクラスとなった。
そして、新しいクラスメイトとして挨拶をしたものの、和輝たち勇者が一緒だったというのもあり、クラス全員が和輝たちへ殺到していったために、迅の周りにはあまり人が集まって来なかった。
まるでぼっちのようだが、めんどくさい事はあまり好きではない迅にとっては、和輝たちのおかげで実に平和な環境が作られていた。
しかも、授業の方でも和輝たちに注目が集まるので、迅は有意義な睡眠を取ることができていた。
迅の普段の過ごし方なのだが、この学院には寮があるので、迅は基本的にそこで過ごしていた。
とは言っても基本的には寝るしかしていなかったが。
しかし、まずは和輝たち勇者にトラブルがやってくるのを待つしかないので、こればっかりはどうしようもなかった。
ちなみに、授業では寝てばっかり、休みの日は寮で寝てばっかり、廊下とかですれ違う時も眠そうな目をしているという事で、周りの生徒からはかなりの睡眠好きという印象が定着していた。
もちろんそんな事は知る由もない迅であった。
そして、入学から10日目にして、実戦訓練のための授業の時間がやってきた。
とは言っても大体の生徒は初等部の時に行っているので、やるのは新しく入学した者だけだ。
その数人の生徒と和輝たちと迅は、校庭に集まって教師からの説明を受けていた。
「さて、これから君たちには力を扱えるようになってもらう。具体的にはこの【スピリットオーブ】を使い、君たちの魂を元に作られる魂剣を出してもらう。魂を元にと言っても、魂剣を壊されても強めの疲労状態になるだけなので安心するように。それでは1人ずつ使ってもらうので、出席番号の若い順に来なさい」
この授業の教師を勤めているギャッツが緑色の珠を持ちながら一通りの説明をし、それを生徒に渡して能力チェックをしていった。
ちなみにこの【スピリットオーブ】だが、これは【東セントレア】のダンジョンから安定して取れる物で、まずは国が買い取り、そして各学院に配られているのであった。
ギャッツが1人ずつ能力と武器の形を確認して書類に記入していき、ついに和輝の番が回ってきた。
「では【スピリットオーブ】を胸に当ててくれ」
「分かりました」
ギャッツに促され【スピリットオーブ】を胸に当てると、体の中に入り込んでいった。
すると―――
バリバリバリバリッ‼︎
強烈なスパーク音と共に、目視出来る程の放電が始まった。
「こ、これはっ⁉︎」
ギャッツが驚きを隠せないでいると―――
「ゼヴォルス!」
カッ‼︎‼︎
和輝が魂剣から感じるままに名前を呼んだ途端に、思わず目を庇ってしまうほどの光が放たれた。
そして光が収まると、そこには静かに佇んでいる和輝が、黄色というよりも金色に近い、精緻な意匠が施された直剣を手にしていた。
「これが、僕の魂剣……」
「さすがは勇者様だな!そこまで威圧感のある魂剣はそうそうお目にかかれないぞ!」
ギャッツが言うように近年ではあまり見られなかったのだろう。
相当興奮してるのか、和輝の魂剣を熱心に見つめている。
「ゴホンッ!それでは次の者」
5分程して少し落ち着いたのか、次の者に【スピリットオーブ】を使わせていき、今度は麗奈の番になった。
「ウィルディーテ!」
剣の名前を呼ぶと、優しい光を放ち続けるレイピアが現れた。
「凄くキレイ……」
優しくても厳かなオーラを放つレイピアを麗奈が持っていると、美しさが更に際立ち、周りの者の視線を独り占めしてしまっていた。
迅はそこかしこで幸せそうなため息を吐きだしている者達を尻目に、目立たないようにギャッツからひったくった【スピリットオーブ】をさっさと取り込んだ。
すると、頭の中に2人の女の子の声が聞こえてきた。
『ん〜っ!よく寝た気がする!』
『ふぁぁ……もう少し寝ていたいですけど、呼ばれたのなら仕方ないですね』
『あれっ⁉︎何でセラがいるの⁉︎』
『……それはこっちのセリフです。呼ばれたのは私ですよ、サラ』
2人は何やら困惑しているようで、人の頭の中で文句を言いあっている。
一旦落ち着かせるために、迅は思い浮かべるように話しかけた。
『サラレスとセイドラでいいのか?少し落ち着け』
『ご主人様だ!これからよろしくね!』
『よろしくお願いします。ご主人様』
『セラ!あたしのご主人様だよ!』
『何を言ってるんですか?私のご主人様ですよ』
全く収まらない言い合いに頭を悩ませてると、少したって流石に落ち着いたのか、ギャッツが話しかけてきた。
「どうした?ジンも魂剣を出してみてくれ」
やはり見せなければならないのだが、おそらく自分の中にいる2人は剣精霊といったところだと思う。
そして、他の生徒が表に出していないという事は、まず珍しい事のはずだ。
そうなると、まず確実にかなりの力を持った剣なので、このまま見せるといらぬ注目を集めてしまう。
(仕方ない、少し細工をしておこう)
迅は目を瞑ると《変換》を使い、自分の目を魔眼にさせた。
魔眼になった目には幾何学模様が薄く浮かび上がっていたが、迅はそれを周りに見られないように薄く目を開けて魂剣を呼んだ。
「サラレス、セイドラ」
迅が2人の名前を呼ぶと、鮮やかなルビーの輝きを放つ剣と、透き通るようなサファイアの輝きを持った二本の片手剣が現れた。
2人は上位の精霊らしく、その剣からは凄まじいオーラが放たれていた。
剣としても和輝のゼヴォルスすら軽く凌ぐ程の力を秘めているのだが―――
「う〜ん……剣が二本だが無骨な作りで、たいして力が感じられないなぁ。まぁ、手数を増やして戦えて便利ではあるから、あまり落ち込むなよ」
ギャッツに力の無い物と見られたらしく、慰められてしまった。
ギャッツが勘違いしたのは、魂剣を出すと同時に幻覚で見た目も格の強さも覆い隠してしまっているからだった。
他の生徒もバカにしている者はいないが、可哀想なものを見るような目を向けてきている。
ちなみに和輝たちはあまり違いが分かっていなかったのか、キョトンとしていた。
『ムキーー!好き勝手言いやがって!ぶっ飛ばしてやる‼︎』
『目が腐っているのがどれだけ罪な事なのか教えてあげましょう』
『待て待て!俺が周りからはショボく見えるようにしてるから勘違いをしてるんだよ!抑えるのが大変だから、頼むから大人しくしててくれ!』
2人は好き勝手に言われて腹を立ててしまった。
しかも剣ではなく人の体をとって直接殴るつもりらしく、迅はさっきから噴き出しまくる力を抑えるのに苦労していた。
『何で大人しくしなきゃいけないのさ!あたし達は名だたる精霊の中でも数少ない上位精霊!そこらのまがい物とは格が違うのに、バカにされるなんてムカつく!』
『サラ。ご主人様には考えがあるようですし、話を聞いてからにしましょう。しっかりと納得できる理由なんですよね?ご主人様』
サラは興奮しっぱなしだし、セラも静かに怒っていた。
『ちゃんと説明するさ。今は場が悪いから寮に戻ったら話すよ』
その後しばらくは、和輝たちの常識外のスペックを持った魔剣だの聖剣だので大いに盛り上がっていた。
そして全員が【スピリットオーブ】を取り込み終わり、和輝たちはギャッツを相手に模擬戦をする事になった。
といっても少ししか時間が無いので、代表で和輝がやる事になった。
ギャッツと対峙している和輝は少し緊張をしているようで、表情が少し強張っていた。
「さて、どこからでもかかってこい!」
「行きます!」
ギャッツからの合図を受けて、和輝がゼヴォルスを片手に走りだした。
どうやら異世界に来る時にスペックを上げられたのか、かなり速くギャッツに接近していた。
さらには多少の武芸は習っていたようで、何度か斬り結び、ギャッツの剣を弾いて上段から斬り落としを仕掛ける。
ゼヴォルスのスペックもあり、その威力はまともに受けたらただでは済まない。
しかし、ギャッツは困惑しながら受け流して、すれ違い様に峰打ちを放った。
「ガハッ⁉︎」
(……これは、まさか。経験が無いのか?)
腹に一撃を貰った和輝は、苦しさに膝をついてしまった。
「ぐっ、うぅ……げほっ」
「カズキ、大丈夫か?」
「は、はぃ……なんとか」
和輝は苦しさに顔を歪めながらもなんとか立ち上がったが、腹を抑えながらかなり悔しそうにしていた。
「それでは、これで授業を終わりにする。解散していいぞ。あぁ、カズキ達は残ってくれ」
そう言ってギャッツは和輝たち勇者組をその場に残した。
(そりゃ気付くだろうな普通は。上手い事育ててくれたらいいんだけどな)
迅は和輝たちの今後を不安に思いつつ、教室に戻っていった。
他の勇者たちの魂剣や能力は、これからの話の流れで出していきます。




