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「あなた誰ぇ!?」
「嘘つかないで! あなたがリーンなわけないでしょ!?」
魔術師、僧侶の反応は疑いだった。
「えっ!? リーンなのか!? お前、随分痩せたな……?」
「まぁでも確かに声はリーンだ。……それにしたって変わりすぎだけど」
戦士、盗賊は分かってくれた。
「リーンさん!? すごい変わりましたね……いやでも、戻って来てくれて良かった! 家の中滅茶苦茶なんですよ、助けて下さい!」
盾士は歓迎してくれた。唯一。
実際、家の中は彼の悲鳴そのままの状況だった。思わず魔術師、僧侶、盗賊、戦士の4人を見れば、魔術師と僧侶は頬を赤らめて顔を背けた。盗賊は不機嫌そうにうつむいて、戦士は困った様に笑っていた。
取りあえずは、戻ってすぐに掃除をして、料理をして、繕い物をして……3日かかった。
全部終わって、改めて5人と対峙した。正直、家が汚すぎてそれどころではなかったのだ。
「戻って早々にすまない。ありがとうな、リーン」
「……ごめんなさい、ちょっと後回しにしたら、積み重なってしまった」
「しょうがないでしょぉ? あなたが全部やってくれてたんだものぉ」
「あー、でもなんだ、流石リーン! 手際良いな!」
「皆さんも自分のことは自分でやりましょうよ。今後はもう、リーンさんに頼るのは良くないです」
分かってるわよぉ、と言う魔術師は果たして本当に分かっているのか。
それにしても、魔術師と僧侶の2人の態度がまるで違った。流石に掃除をしている最中、洗面所の鏡で自分の顔はちゃんと見たから、「あー……これが理由かな……?」と見当は付いていた。自分でも驚くほど、リーンの顔立ちは整っていたのだ。姉は村では評判の美人だったけれど、姉に似つつ、それに輪を掛けた美形だった。
街で買い物をしても、周囲の反応が違う。ちやほやされるってこういうことなんだろうかと、なんだか不気味な気分だった。同じ人なのに、同じ人と接している気持ちになれなかった。
話し合いを持ったのは、今後のリーンの身の振り方を決めるためだ。
【勇光同盟】は現在5名。人数的にもメンバーのバランス的にも丁度良い。この数ヶ月でいくつもの依頼をこなしたらしいし、傍目にも仲も良さそうだった。
後から加わった盾士は常識人で人柄も良く、バランサーとしてもよい塩梅だったようだ。
戻って来てから思うことは、魔術師と僧侶からのアプローチが凄いことだった。小さい頃からずっと好きだったと2人ともから告白されて驚いた。とてもそんなそぶりはなかっただろうと言いたかったが、「そうだったんだ、ありがとう……でも今、僕も好きな人がいるから」と言えば、「誰!?」と勢い良く詰められた。「先生……」と答えれば、2人共が天を仰いでやっぱりそうなったかー……みたいな顔をしていたのが面白かった。
「リーンはこれからどうするんだ?」
「良かったら戻ってくれても良いんだぞ? 魔法――身体強化が使えるようになったんなら、盾士2人体制にしたって良いんだ」
「ありがとう、2人とも。でも僕、行きたいところがあるんだ」
引き留めてくれるのはやっぱり戦士だ。盗賊は何か察したのか、敢えてそれ以上は尋ねなかった。それは盾士も同様だったが、彼はもっとちゃんとしていた。
「色々お世話になりました、リーンさん。はい、これはお給金です。何をするにしたって、先立つものはいりますからね!」
「え!? こ、こんなに貰えません」
「いや、正当な報酬なので、受け取ってくれなくちゃ。聞けば以前も、ほとんど無償で色々全部やってくれてたんでしょう? これくらいは当然だよ!」
美味しいご飯や掃除や洗濯、そういう労働に対価を払わないのはダメだと言い切られてしまった。これから行く場所でも、ちゃんと対価を貰うこと! と注意までされた。
「ありがとう。君が【勇光同盟】の新しい盾士で良かった」
「任されたよ!」
改めてパーティメンバーから脱退した。書類に全員のサインを貰い、後はギルドに提出するばかりになった。
ギルドはいつも通りの人出だった。それでもいつもと違うのは、人の視線だ。好奇と熱のこもった視線が交わる中を歩くのは慣れなくて、緊張して――だからこそ、その先の受付にラシュアの姿を見つけてほっと息を吐いた。同時にラシュアも、リーンを見て、どこか安心したように表情を緩めた。
「先生?」
「リーン、良かった。待っていたのに、ずっと来ないんだもの。心配したんだよ」
「……? 待って……? ……あ! ひょっとしてお食事ですか!?」
「そうだけど違うよ」
それなら少しだけ待っていて下さい。今手続きを終えてしまいますからと、ギルドの受付にパーティ脱退の書類を提出した。受理されれば無事脱退だ。
「はい、手続きは終了しました。これでリーンさんはフリーの……盾士はそのままなんですよね?」
「ええ」
「はぁ……それにしても、変わりましたね……書類やカードがあるからご本人と分かりますけど、そうじゃなければとても同一人物とは……」
「終わった?」
ひょい、とリーンの後ろからラシュアが顔を覗かせた。リーンのカードを確認して、「うん、ちゃんとフリーだね」と言いながらそのカードを手に、「ところでさ、リーン」と可愛らしく上目遣いでリーンを見上げた。
「私はね、旅に出ようかと思うんだ」
「旅に、ですか?」
「期間はまだ未定なのだけどね、少し遠くに行こうと思う」
「……そう、なんですか」
自分でも驚くほど落胆した。
けれど同時に、涙が出そうな程嬉しかった。……先生は、旅立つ前におわかれを言おうと、僕を待っていてくれたんだ、と思って。――そう、だからこの涙は嬉しい涙だ。お別れが悲しくて泣いているんじゃ、ないんだ。
「リーン!? な、なんで泣いているんだい!? 誰かに何かされたのか? ……元のメンバーに、何か言われたかい?」
「違い、ます……僕、……嬉しくて。先生が待っていてくれた、から」
例えそれが、おわかれを言う、ただそれだけのためであっても。
「そうかぁ、良かった。嫌がられてしまうかも知れないと、少しだけ思ってしまっていたからね。そうか、リーンも……ひょっとして、同じ気持ちでいてくれた?」
「そんなわけないです」
「え?」
「先生、さようなら」
「え!? ちょ、ちょっと待って? なんでそこで『さようなら』なんだい?」
「だって先生、旅に出るんでしょう?」
かみ合わない会話に、お互いが顔を見合わせた。
察したらしいラシュアが、ぽんと1つ手を打った。
「旅に出るから、一緒に来てくれないかって言いたいんだよ、私は」
「え?」
「盾士の君をスカウトしたくて待ってたんだ。一緒に旅がしたくてね」
「……僕を? ……――僕と?」
「そうだよ。君以外誰がいるっていうんだい?」
だって僕は生徒で。まだまだ講習を終えたばかりの、ようやく少しだけ戦えるようになった、新米盾士でしかなくて。講師として立てるほどの魔術師のラシュアとはとても釣り合わない。
「まだ君とはそこまで付き合いは深くないけど、なんとなく考えていることは分かったぞ。釣り合わないとか考えているだろう? ――でも、考えてみてくれないか。君は魔術師の私が何より欲しい前衛の盾士で、料理が上手で、家事全般が任せられて、信頼の置ける人物で、それになにより、とっても美味しい、私のご飯だ」
全部を兼ねる人間がそんじょそこらにいると思う? と顔をのぞき込まれて、リーンはやっぱりのぼせたように赤くなった。白い肌が恨めしい。こういう時に感情を全く隠せない。
「返事を貰えるかな? 一緒に来てくれないか?」
「……――はい!」
「ラシュア様」
「なんだい、受付君」
「……まだ番になさってなかったんですか、彼」
「いやしょうがないだろう!? あの子、とっても純朴なんだよ……!」
交わされた会話を、リーンは知らない。
受付嬢が呆れた目でラシュアを見て、ラシュアが牽制でギルド内をにらみ付けたことも知らない。
自分がどれだけ美しくなったのかも、どうやらいまいち理解してない。
まぁそんなところが可愛いんだけどね、とのろけるラシュアを、受付嬢が心底呆れた目で見ていたことも。そんな風にのんびり構えてると誰かに横からかっさらわれちゃいますよと揶揄したことも。その言葉にラシュアが少しだけ瞳を冷たく光らせて「まぁ、やれるものならやってみればいいさ」と鼻で笑ったことも。
なにも知らない。
ご覧くださり、ありがとうございました!(,,ᴗ ᴗ,,)




