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「リーン、あんた首よ、クビ!」
「どんくさいにも程があるのよねぇ……さっさと田舎に帰りなさい」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。でもさ、リーン、お前ほんと、盾士向いてねぇよ。見てて危ねぇよ……心臓に悪いんだよ」
「兄さん、もっとちゃんと言ってあげた方が良い。リーン、適職を見直そう。あんたに盾士は無理。あんたがそのままだと、私たちも死ぬ」
僧侶、魔術師、戦士、盗賊。パーティの4人から口々に言われて、リーンは目の前に置かれた飲み物を持つことも出来ずにうなだれた。ごめん……ともごもご口にするも、僧侶と魔術師の幼なじみ2人からは「はっきり喋って!」「謝られてもねぇ」とダメ出しされた。
「気弱で思い切りが足りない。力がないから敵を押し返せない。受け流しも無理。初撃を受けて吹き飛ばされて、頭を打って気絶して戦闘終了まで目覚めない。そんなの盾士じゃない。肉壁だ」
「に、にくかべ……」
「言い得て妙ねぇ。ほんと、そのとおりって感じぃ」
「悔しかったら言い返して見ろよ! んっとにさぁ、うじうじいじいじ!」
盗賊から肉壁と言い切られて絶句するリーンを、魔術師と僧侶が追撃した。
「……うん。ごめん」
皆の言葉は当然だった。今回の冒険の最後の戦いは、本当に危うかったのだ。
変異種のオークだった。
初撃だけは盾で受けたが、威力の高さに一撃で盾が変形し、吹き飛ばされた。元々力は強くなく、装備が重いと動けなくなる。それもあって、重装備ではなかったことも災いした。
吹き飛ばされ、頭を打って意識が途切れた。目覚めたのは、満身創痍の仲間達が変異種を倒した後だった。
「まぁまぁ。――なぁ、リーン。お前さ、前衛職が向いてないんだよ。料理上手いし色々出来るからいて貰って助かってるけど、これ以上前衛やってたら死んじまうって。後衛のがいいんだよ。なんかこう――さ、弓士とか、色々あるだろ?」
「どっちにしろ、その怪我じゃ次の依頼は無理だ。あんたは留守番」
パーティ唯一の同性である戦士の目には案じる光が強かった。
戦士の連れで彼の妹のような立場でもある盗賊も同様。
幼なじみの2人は口こそ悪いが、いまにも泣きだしそうな顔をしていた。だから、ただただひたすらに、心配してくれているのだろう。今のリーンが包帯まみれの姿だからかもしれない。
この戦いで、戦士は片腕を失った。
パーティで貯めていた貯金を全て使って治療し、千切れた腕を繋ぐことは出来た。それでも本調子にはほど遠い。その証拠に、食事をしている今でさえ、彼の指先は震えたままだ。これまで戦士はリーンを庇いながら戦ってくれた。けれど今後は、そんな余裕はなくなるだろう。その上、戦士の治療で貯金がなくなったこともあり、リーンの怪我はそのままとなった。
いっそ自分がいないほうが、彼らは楽に戦える。
冒険の反省会を兼ねた夕食は重苦しい雰囲気のまま続き、皆はそれぞれの部屋へと引き上げていった。最後に残されたリーンは傷の痛みに耐えながら片付け、洗い物も全部終えて、ぽつりと一人涙をこぼした。
みんなが生きてここに戻れた幸運に感謝して、己の不甲斐なさを呪って。
まだ本当に幼かった頃は、こんな風ではなかったのだ。村でも評判になるくらい可愛らしい子として、両親からも美人の姉からも可愛がられ、幸せだったのを覚えている。
5歳になり、洗礼を終えた日から、全てが変わった。
体は見る間に肥え太り、二目と見られぬ容姿となった。身体は大きいのに力は弱い。日に焼けない肌は気味悪がられ、村人からは白ブタと呼ばれて毎日のように殴られ蹴られた。それでも、出来たあざも怪我もすぐに治った。……そのせいで、より一層気味悪がられた。
15歳で成人した時、転機が訪れた。村の娘2人が授かったギフトを生かすため街へ行きたがったのだ。
村の大人達は皆、彼女たちを案じた。そして護衛には白ブタを付けようという話になった。
強制だった。本人どころか、家族のだれもが断れなかった。
娘2人は街の冒険者ギルドで講習を受け、有能な職を得た。
けれど、リーンが授かったギフトは「頑強」だった。それなら盾士になれと強要された。盾士の教官は白ブタを嫌い、「『頑強』なだけで盾士が務まると思うなよ」と散々に腐され、繰り返し落第を言い渡され、……講習期間終了間際にようやく就業を許された。
パーティは他に2人――戦士と盗賊を迎えて5人で組んだ。
それが今リーンの所属するパーティ【勇光同盟】だった。組んでから、すでに3年が経過していた。
「職替え、ですか」
翌日。他の4人が旅立った後、リーンは早速ギルドに相談に行った。
昨夜は寝る前に四人分の携帯食や備品類の準備を整え、今朝は朝食を振る舞って見送った。洗濯と掃除も一通り終えてある。
ギルドの受付はパーティの担当で、気の良い同年代の女性だ。リーンの顔を見るなり「リーンさん!? 今日からまた別の探索の予定ですよね!?」と驚いて声を掛けてくれた。
「盾士、やっぱりダメですか?」
「はい。皆から反対されて、今一時的にパーティからも外されています……」
「やはり、前回のアルスさんのお怪我が……でも、困りましたね。前衛職、他は適性が――」
「皆からは、後衛を勧められてて」
「うーん、でも弓士は駄目でしたし、魔法職も……ギフトが頑強では試すだけ無意味でしょうし。ポーターなどのサポート職に切り替えます?」
「でも僕、力はあまり強くなくて……」
取りあえず受けられそうな講習をいくつかご用意しましょうか、と提案され、リーンはこくりと頷いた。
ポーター。適性検査用の荷物に潰された。「お前適性ないぞ?」と担当教官に呆れられた。
戦士・軽戦士。改めてチャレンジだけはさせてもらったが散々だった。
薬師や魔法職は上位職である僧侶や魔術師がパーティにいるから紹介もされずに終わった。
「困りましたねぇ」
結果を前に、担当は首を傾げた。
この2週間で、仲間達は依頼の旅から帰還していた。――有能な盾士を連れて。
依頼中に意気投合し、既に加入手続きも終わっていた。戦闘の息もぴったりで、今回の依頼は全員が軽傷で帰還している。ぜんぶ新しい盾士の功績だそうだ。
リーンは居場所を失った。
現在は、パーティのハウスから出て行くことも頼まれている。猶予として、納戸を借りてはいるが、それもいつまで許されるかは分からなかった。
納戸を借りる代わりに、家の掃除や料理、洗濯などの家事全般を請け負った。つまり、現状のリーンは完全にただの家政夫だった。
割と直裁に「さっさと出て行け!」と言う僧侶と、「村へ帰りなさいよぉ」と勧告する魔術師と、「もういっそこのままここで主夫するか?」と笑う戦士と、「家事をしてくれるのは助かる」と複雑な表情の盗賊と、「いつも美味しいご飯ありがとうございます! 家のことしてくれる人がいるなんて贅沢だなぁ!」と朗らかに笑う盾士というカオスな家になっていた。
リーンが納戸に移ることを最後まで反対していたのは、新任の盾士本人だった。自分が納戸に行きますよ、とまで言ってくれた。そんなことさせられるわけないでしょ! と強行にリーンを納戸に押しやったのは幼なじみの2人だ。戦士と盗賊はすまなそうにはしていたが、2人を止めることはしなかった。
ほんの少しだけ、魔術師の言うとおり村に帰ることも考え――すぐに止めた。帰っても居場所なんてない。
本当ならばリーンだってパーティハウスからは出て行きたかった。けれどリーンにはお金がなかった。
少しでも役に立ちたくて、食材や洗剤など家の出費は、自分の取り分から立て替えることが多かったからだ。
「あの、他の……魔法職の講座、やっぱり受けさせては貰えないでしょうか」
「うーん。……無駄だと思いますが、それじゃ、手続きだけはしておきますね」
「はい。よろしくお願いします」
他に縋れるものがなくなって、ようやく、リーンは魔術師の講座を受けさせて貰えることになった。




