97話 今日は晴れ時々メテオ
「なるほど、そのようなことが……さすがは姫様です。このような短時間で街を制圧なさるとは、そのお力は世界を支配するに相応しいですね」
「えへへ、それほどでもないよ」
船を曳航してくれて、ようやく合流できたシーウィードたちがパチパチと拍手をしてくれて褒めてくれるので、アキは照れてしまう。
「あの、お嬢。俺たちがはぐれたのって半日くらいですよね? どうしてここまで破壊できるのか俺に教えてくれませんか?」
「え? あれだ、スタートダッシュガチャは大事だってことだね。ほら、南大陸に来てすぐにガチャを行ったからだよ」
課金プレイヤーは開始早々が一番他のプレイヤーと差がつくんだよと、ジト目で呆れた表情のタイチの視線を逃れるようにそっぽを向く。
「だからといって……城を落とします?」
「事故だったんだよ! 本当は火の矢を使う予定だったんだ。でも、でも……百万の敵に囲まれて皆の命が危なかったから仕方なくメテオを使ったんだ。なにせ兵士が8割、地面が2割の大軍だったから!」
うぅ、と泣きそうになりながらアキは遠い目をする。あれは激戦だった。初めて命の危機を覚えたものだ。
「あれは危なかった。矢折れ剣尽きて、もはや命を武器に戦うしかないと、皆は絶望していた。その中であたちだけは希望を捨てずに、たった一回、たった一回だけガチャを使ったんだよ。そして、出現した希望の星『メテオ』が排出されたんだ。ガチャ神の加護を受けて、正義を愛し、弱きを守る善良なる幼女のあたちの覚醒した力だったね。そうして起死回生のメテオで敵を倒したんだ」
たぶん伝説になるだろうねと、手を振ってリアクション多めで誤魔化すように早口で説明をする幼女である。たぶんそうだったと思うんだ。
「そうですか……まぁ、お嬢がそれで良いというなら良いと思いますぜ」
アキの説明に納得してくれたタイチは疲れたようにため息を吐く。
「早々に拠点を作ったようですしね」
アキたちがいる場所。それはバラン・トーラスの居城であった。謁見の間で、アキたちはシートを敷いて、寛いでいたりする。
なにせ城を守る兵士たちは反抗をせずに全面降伏してきたのだ。
「それにしても、雛子って怖がられてるんだね。兵士たちが皆武器を捨てて土下座してるし」
壁際に整列して土下座をしている兵士たちは、顔も真っ青でガタガタ体を震わせている。よほど雛子が怖いのだろう。さすがは将軍級の女王様だ。
「ロデー、我は確かに恐れられていたが、これは違うっ! 皆の生命線ともいえるオアシスを吹き飛ばした魔法使いがいるからだ! 見よ、あれを! この砂漠の広がる土地でオアシスが失われたらなんとする? 皆は干物になってしまうぞ」
謁見の間は本来ならばオアシスを背後にしている作りだ。柱で組まれた謁見の間は壁がなく、本来なら揺蕩う水面が玉座の後ろに見えて、王の権威と力を見せつけるように考えられていた。
そして、雛子が絶叫するように指差す先、本来はオアシスのあった場所は水が吹き飛び、大穴が開いていた。もはや水は水溜り程度にしか残っていない。
「……無血で敵を倒すにはこれしかなかったんだよ。ほら、百万人の兵士が迫ってきて大ピンチだったでしょ?」
「そーなーたーの頭はどうなってる? どうして本当にあったかのように捏造できるのだ?」
「派手な話の方が残るから、きっとこの話が正史になるよ。はーなーしーてー」
頭を下げて掴まれて揺さぶられると気持ち悪いからやめてくれ〜。幼女の身体はガラスのように脆いんだからさ。
「そこの女王様、大丈夫〜、ほら、ラム酒は倉庫に大量にありましたよぉ。喉が渇いたら水の代わりにラム酒を飲めばいいじゃないですかぁ」
「まきゅー、このアバター脱げないまきゅ! 幼女よ、すぐに仲間カードでマーモット王を装備するまきゅよ!」
到着した途端に城の酒蔵からラム酒を持ち出してラッパ飲みをするシィと、お酒を飲めないことに気づいて慌てるシャドウマーモット。シャドウマーモットよ、あと12時間は元に戻せないから諦めて。
「酒では作物は育たぬ。この南大陸唯一のオアシスが無くなれば、もはや我らは絶滅するしかないのだ。ピヨ」
思い出したようにピヨと鳴く雛子。周りの人々も困った顔をしている。さすがに少し罪悪感を感じちゃうな。メテオを使うつもりはなかったんだよ。今度からカードを使う時は気をつけようっと。
「でもそこまで慌てることはないでしょ? だって目の前に海があるんだよ。蒸留すればいいじゃん」
「蒸留する際の薪はどうする? いや、人々はなんとかなるかもしれぬ。だが、農業用水はとてもではないが足りぬ。ロデーには感謝はしているが、感謝はしているが……これは致命的だ」
「あぁ、おひいさま。なんと哀れなピヨピヨ」
「ピヨピヨ、これにてヒヨコッコ族千年の王国も儚く散るのでピヨ」
強気の美女は耐えきれぬように崩れ落ちて膝をつく。側近たちも雛子のそばに駆け寄って、ピヨピヨと可愛く鳴く。ピヨピヨなので、まったく哀れに思えないんだけど。
とはいってもなぁ。不幸な事故だったんだよ。大魔幼女ムーブをしてみたかったんだ。誰しも一度はやってみたいよね?
「岡田が錬金工場で海水を分離させて、蒸留水をオアシスまで運べばなんとかできるかなぁ。24時間365日運べばなんとかなるかな?」
「ああっと、召喚時間が終わったまきゅね! マモは帰るまきゅ!」
なんとかラム酒が飲めないかと、瓶を舐めようとしていたシャドウマーモットがアキの呟きを聞いて、魔法陣を作り出してその中に飛び込んで逃げてしまう。召喚獣の効果時間はないから、永遠に働かせられると思っていたのに残念。
とすると、やることは一つだ。
ガチャである。
「仕方ないなぁ。1日に2回もガチャをするなんて、あたちのポリシーに反するんだけど、これは仕方ないよな」
「全然仕方ないという顔はしてませんぜ?」
ガチャポイントは20連チャンはできる。ふふふと、ちっこいお手々を口に添えて笑う幼女だ。タイチの言葉はスルーしておきます。
さぁ、良い子の幼女のために、この不幸なる事故をフォローするカードを……ん?
ピタリと指を止めて、アキは青ざめてしまう。なぜならば——
『新イベントのバージョンアップのためと様々な改良のため、現在メンテナンス中』
よくガチャで見るログが表示されていた。メンテナンス中だと? これまではこんなことなかったじゃん!
『あ~ちゃん? あ~ちゃん? メンテナンスについて知っていることがある?』
慌ててあ~ちゃんへと質問するべく顔を上げるが、返ってきたものは無情なものであった。
『ただいま、あ~ちゃんはかにさんをもっておうちにきたくちゅうでしゅ。すうじつるすにしましゅ。あきちゃん、おみやげもってくりゅね』
(実家に戻ってる!? いや、この場合は運営のもとにか? まじかよ、あたちのガチャが封印されちゃった!)
世界の果てからやってきて、ガチャの排出率を変えることのできるあ~ちゃんだ。運営と繋がっていてもおかしくない。というか、当然の流れであったのだが……。
(今回捕食した蟹座は星座の中でもトップクラスの力を持つ黄道12星座の一つだ。その力はメンテナンスが必要になるくらいと言うわけか。とすると、次のイベントは期待できるな! この地に来てから、排出されるカードは実用的なものばかり。どうもこの南大陸には秘密がありそうだし)
楽しそうだと、数日後を期待して、むふふと笑うアキ。メジャーアップデートなら、その報酬もでかいだろう。
「おい、ロデー。どうしたのだ? なにか問題があったか?」
人差し指を構えた体勢で動きを止めたアキに、こっそりと期待していたのだろう雛子が声をかけてくる。ピヨピヨと周りも期待しているので、今のは鳴きまねだったらしい。泣き真似か。
「謎の踊りを見せないっすね? あ、俺っちもラム酒貰えます?」
へへへと揉み手をしながらシィからラム酒を貰っていたカストールが目敏くつっこんでくるが、たしかにガチャをしないとなれば、幼女は謎の行動を取っているとしかいえない。
ちょっぴり恥ずかしい幼女であった。だが、オアシスはなんとかしないといけない。
「なんとかできるよ。なんとかできるけど、もったいないなぁ」
はぁ〜と深くため息をつくアキに、雛子が困った顔でお願いをしてくる。
「? それならなんとかして欲しい。水が尽きれば、もうこの地は終わりだピヨ」
「……ずっとそのセリフに違和感を覚えてたんだけど……シーウィード、もしかしてさ、この南大陸って……ちっこい? 大陸どころか、島レベル?」
たった10年で砂漠化で滅んだ南大陸。いくらなんでも早すぎると思ってたんだよ。その答えは一つ。この地は南大陸とは名ばかり。小さい島じゃないの?
「はい、姫様。そのとおりです、この地は島で、人魚なら2日もあれば一周できます」
四国くらいの大きさであった。そっか、島だったのか。
「む、南大陸と呼ぶがよい。我らはこの地を誇りに思っている」
「それ、水増しすぎるだろ。でも、疑問が解けたよ。そっかぁ、ここはインドだと思った人と同じか」
かつて地球でも同じことがあった。コロンブスだったか、アメリカに近い島をインドだと勘違いしたんだっけかな。
「まぁ、よいや。それよりも伝説として話を残しておいてね。これから水を出すからさ」
アキはオアシスの見える外壁ギリギリに近づくとカードを取り出す。
「水源を探し出せ!」
『探知』
カードが光ると、正しくカードは力を発揮した。魔法の『探知』のように知っている物を探し出すしょぼい性能ではない。
島全体をスキャンするほどに範囲は広く、そして願った物を探してくれる。
頭の中に島全体のマップか入ってくる。そして予想通りにオアシスのあった箇所の深くに水源が探知できた。
「ふはははは、今度こそあたちの偉大さを知ると良いよ!」
『星光の矢』
SRの星光の矢。もったいないけど、所詮は矢の魔法だ。ここで使って、さっきの汚名返上といこう。
水源まで矢で穴が空きますようにと祈りながらアキは星光の矢を発動させる。
探知した水源へと。
——だが掌からはなにもでてこなかった。
「あれぇ? もしかして不良品……」
おかしいなと小首を傾げる幼女の眼前で、宇宙から光の柱が降り注ぎ、元オアシスへと命中する。全てが白い光の中に包みこまれていき——
——そして、港街は緑に埋まった。




