89話 抑圧されると暴走するのだ
慌ててアキたちが外へと出ると、民衆による暴動が起きていた。なんだかよく分からないけど暴動が起きていた。街ではぼろい服を着た人々が兵士に襲いかかって、大変な騒動となっていた。
「首輪が壊れたぞ! これまでの恨みを思い知れっ!」
「悲惨な暮らしからはおさらばだ!」
「反乱だ。領主の奴をぶち殺せ!」
かなりの人数が首輪をつけられていたのだろう。いきなり外れたので動揺しながらも、これまで溜まっていた鬱憤を晴らすために行動をしていた。兵士たちなどより遥かに多くの人々が戦っており、首輪による支配が行われていたことを示していた。
普通はこういう光景は、一段落したら知るのが主人公だ。街並みを見て回り、「首輪をつけられた人々があんなにいるなんて」とか義憤に駆られ、なんとか首輪を外すことを考えるのが王道である。
決して見せびらかしたいからと『アイテム破壊』を気軽に行い、ストーリーをめちゃくちゃにするのが王道ではない。幼女道であるといえよう。
「ていうか、なんで全ての首輪が破壊されたの? ……くっ、疑問に解をすぐに思いつく明晰すぎるあたちの知力が憎い。封印の首輪は『キャンサーの祭壇』とやらとリンクしていたのね。ウィルス侵入し放題のサーバーかよ! たくさん首輪を作るなら、ファイアウォールくらい用意しておけよ!」
『アイテム破壊』の効果が首輪とリンクしていた祭壇にまで届いたに違いない。なんかここから見える城の尖塔が一つ崩壊してるし。ということは首輪を嵌めた人間からなにかしかの力も吸収してたんだろうなぁ。
「シティアドベンチャーが終わっちゃった。バグかな? カストールのせいかな?」
バグの原因と思われるカストールを睨みつつ嘆息しちゃう幼女である。その姿は今日はオヤツは漬物よと母親に言われた幼女のごとし。
『あ~ん、かにさんおいちいよ、あきちゃん。でもかにのみとりづらいでしゅ』
そして、幽体のあ~ちゃんは、いつの間にか蟹を持っており、パキリと蟹の脚を折って、モキュモキュと美味しそうに頬張っていた。良いなぁ、俺にも後で一口ちょうだい?
蟹を食べるあ~ちゃんを見て、ほんわか癒されるアキ。だって周りは酷いことになってるからね。この街に来てまだ一時間も経ってないのに!
このまま街は反乱軍に制圧されて、領主も殺されるんだろうなぁと溜息混じりに落胆していると——
「貴様ら、暴動を起こすなど……どのようにして首輪を外したかは分からぬが、ここでおしまいだ! お前らあれを使えっ!」
「ははっ、了解です」
『星座の戦士召喚』
城の方からやってきた兵士たちが先頭に立つ魔法使いっぽいローブを羽織る老人の命令に従い、キューブを取り出す。ズムと同じように星の光が集まると戦士に形成されて、民衆の前に立ちはだかった。それを見て恐怖する民衆たち。
「ひっ、む、無敵の戦士だ!」
「や、奴ら行動が早すぎる!」
「くそっ、逃げるんだ」
「ガチャチケットのため、正義のもが」
最後の一人。即ち幼女だけは正義のために突撃しようとするが、ふわりと浮遊感を感じた時には雛子に抱えられていた。
「とりあえず酒場に戻るピヨ。あ奴らは無敵の兵。そしてヒヨコッコ族の敵だ。羽を隠していても、なぜか奴らは我らを見抜ける能力があるピヨ。姿を隠すぞ」
「それ、語尾に無理やりピヨと入れてるからじゃない?」
「一族の伝統方言だから仕方ないのだピヨ! こういうのを馬鹿にすると後々に伝統が消えるのだピヨ!」
ジト目の幼女に、真剣な顔で返す雛子。そっか、文化なら仕方ないね。
ピヨピヨと酒場に戻り、激しい戦闘音が響いてきたがやがて収まり、あっという間に静かになるのであった。
◇
「目まぐるしく回る展開だピヨ。首輪の悲惨さを説明する前に砕けたが、ロデーがなにかやったのか?」
「ううん、あたちしらにおよ? あたちのせいじゃないでほゅよ?」
瞳の中に幼女を泳がせつつ、噛み噛みで誤魔化す幼女である。疑惑の瞳を雛子たちが向けてくるけど、知らないものは知らないんだ。幼女は無罪です。
「そ、そうか。そういうことにしておこう。では、この街を取り巻く現状を説明させてもらおう。良いかな?」
「うん、なにか飲み物ちょうだい」
「うむ……ロデーの噂はまだまだ控え目だったのだな。頼もしい! そなたと組めば、今の状況も打破できるかもしれん」
テーブルを叩いて、幼女と組むことを決意する雛子。後ほど後悔することになる未来が待っているかは分からないが、それでもアキに期待を寄せる。後々後悔することになる未来が待っているかは分からないが。
「さて、この街を見て気づいたことはないか? 海の王国の王女よ」
「まだ見てないよ。その前に攫われたし、暴動起きてたし」
「そ、そうか」
ケロリとした顔で答える。なんか怒涛の展開だから追いつけていないのだ。なんで、皆で凝視してくるのかな?
「では、変装してから街を見て回るとしよう。ピヨを語尾に付けないように気をつければバレることはないからピヨ」
「さっき伝統がなんとかとか言ってなかった?」
そうして、酒場に仕舞われていた服に着替えると、アキは雛子に連れられて街を散策することにした。カストールは掃除頑張ってね。
——街は暴動などなかったかのように日常の生活に戻っていた。正直、この南大陸はゲームでは訪れることのできなかった土地なので珍しくて仕方ない。どんな冒険が待ってるんだろうと、近づく期末テストを前にワクワクの幼女である。
とはいえ、なんかおかしい。暴動で街並みは少し乱れたのに人々は暴動がなかったかのように平然としているし、それ以上に変なところがある。
「港街なのに、砂がひどすぎない? こんなにも舞うの?」
さっきから潮風を押し返すほどの風が内陸から吹いてきており、砂漠の砂が舞っているのだ。なので、住民は口元に布を羽織っている。市場も活気がなく、箱に入っている野菜や果物も数少ない。肉屋もほとんど肉を吊るしていない。
なによりも、希望の持てないもの特有の暗い顔を道行く人々は浮かべている。
アキは雛子とキーナと共に散歩をしながら、港街はもう少し活気があるんじゃないかと疑問に思う。
「そうなのだ。ここ最近は特に砂漠の砂が酷くてな。どんどん侵食されてこの港街も後どれくらい持つか……来年は砂に埋もれていても私は驚きはしない」
名前は雛子なのに、凛々しい鷹のような顔で雛子が言う。その口振りだと、急に砂漠が増えたのかな?
「そうなの、キーナ?」
「はい、そのとおりです。私が来たのは1年前。その時は街から見える外の光景は田畑が広がり、巨木が立ち並ぶ森林が広がっておりました」
「え、マジ? だって今は砂漠がほとんどじゃん。オアシス周りに田畑があるくらいだよ? 侵食が早くない?」
平気な顔でキーナが言うけど、それってかなりヤバイよ? 周囲を見渡すと、城とオアシス周りだけが緑で、他は砂漠。しかもデザートワームが時折飛び跳ねている。それが緑溢れる土地だったの!? そうか、だから外壁が木造だったのか。少し前までは木材が当たり前に使われていたんだな。
「キーナの言葉は真実ピヨ。この南大陸は滅びかけている。たった十年前は砂漠など存在しない大木が立ち並ぶ大森林が支配する緑の土地であった。しかしある時から、急速に砂漠化が進み始めたのだ」
「えー、それじゃ、砂漠をなんとかしてほしいからあたちと組みたいわけ? それともこの土地から脱出したいの? あたちは無力な幼女だよ?」
元は緑溢れる土地とは信じられない。サクサクと砂を踏む足音が小さく聞こえてきて、緑の存在しない乾いた空気だからだ。
「いくらなんでも、そこまでは期待せぬ。ここの領主を打倒して、オアシスを我らの手に戻したいのだ。このオアシスは元は我らヒヨコッコ族の土地だったからな。つい先日まではもう一つオアシスがあり、細々と暮らしていたのだが、ついに砂漠に呑まれたピヨ。そして流浪の民となった我らを捕まえて奴隷としたのが、ここの領主だ」
「オアシスを巡る戦いかぁ。それは外部の者が介入して良いの?」
「今の領主はバラン・トーラス。どうやって作ったのか、星の戦士という物理も魔法も通じぬ戦士を召喚する戦士達を集めて、忌まわしい封印の首輪を作り負かした相手を捕まえてきた。バランのことは子供の頃から知っているが、脳筋だ。外部の者の力を借りたのは間違いない。なのでロデーの力を借り受けても全く問題はない」
「あたちはか弱いし、皆とはぐれたから今の戦力はキーナだけだよ? お手伝いできるとは思えないんだけど」
幼女パンチでは、赤ん坊にも負けると思うんだ。キーナも騎士級に上がったとは思えないしね。
「そう答えを急くものでもない。とりあえずそこのカフェに入ってみようではないか」
ジリジリとコーヒーを焙煎するかぐわしい匂いのお店。内装も綺麗で高級そうな店構えだ。その香りのよさはコーヒー党のアキの心をくすぐる。この世界に来て、コーヒー飲んだことなかったから感動だ。
でも、この暑さではお客は少なくて、卓は空いていたので、安心しててこてこと入店すると、物珍しさからか視線が集まってくる。まぁ、カフェに幼女の組み合わせはたしかに似合わない。
「主人、カフェを2つだ」
手慣れた様子で頼む雛子の姿は大人に憧れる幼女には眩しい。
『あ~ちゃんも。あ~ちゃんもたのむ! ちゅうもんできるから! あ~ちゃんおちゅうもんできるからみせたげる!』
「とこぱふぇくだしゃい!」
そして、羨ましいとなれば、あ~ちゃんの出番である。むふんむふんと興奮して両手をブンブン振る。
「え~と、すいませんお客様。とこぱふぇというものは扱ってなくて」
「が~ん」
そして、がっかりする幼女であった。まぁ、ショックを受けているあ~ちゃんにはおネムしてもらって話を続けよう。
「領主がたとえ倒せても来年には砂漠にのみ込まれるんじゃないの?」
侵食の速さから考えると、全てが砂に覆われるのは間違いない。頼んだカフェオレを飲みながら暑いのにホットは無いなと顔を歪めるアキ。
しかしながら当然そのことは予想していたのだろう。口角を釣り上げると、雛子は人差し指を振る。
「それが、不思議なことにトーラスの一族が守るオアシスは砂漠に呑み込まれないのだピヨ。そのからくりを確認するためでもある」
「なるほどねぇ」
(黄道12星座の一門かぁ。蟹座もいたということは危険なる敵なのかも)
ゲームでも黄道12星座はメインの味方や敵の幹部でもあったが、全ての星座がゲームに出てきたわけではない。たしかに蟹座と牡牛座は出てこなかった。この地で出会うのは必然か?
サンドイッチを食べながら、バラン・トーラスを倒すのを手伝うかどうか迷っていると、そっとキーナが手を挙げる。
「なーに?」
「それがその……私はお金を持っておりません」
あぁ、そっか。
「あたちも持ってないよ」
「なんと! 私もだ」
どうやら誰も持っていないらしい。
幼女たちは無銭飲食で捕まった。




